カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

金持ちのキャッシュレスと貧困のキャッシュレス

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キャッシュレスの大きな需要は二つあります。ひとつは富裕層ためのキャッシュレスで、もうひとつは貧困層のためのキャッシュレスです。この二つの異なる需要はきちんと分けないといけないなあと思います。 富裕層とか貧困層って日本ではあまりピンと来ないかもしれません。日本人は世界的に見れば富裕層です。銀行口座を持っているというだけで、かなり恵まれています。日本は銀行口座の保有率がほぼ97%(リンク先はPDF)で、クレジットカードの保有率は85%です。

金融機関を利用できる状態のことを金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)というのですが、日本人のほとんどは金融機関を通じた経済活動が行えています。「経済活動」というと難しそうですが、要するにカードを使った買い物や、銀行引き落としで光熱費を支払うなどです。お金がなければキャッシングだってできます。

アンバンクドのキャッシュレス

一方で、銀行口座のない成人は世界で17億人います。銀行口座を持たない人たちを「アンバンクド」といいます。世界銀行のGlobal Findexによると、銀行口座を持たないアンバンクドの割合はアフリカが高いです。特に北アフリカを除くサブサハラアフリカは半数以上の66%がアンバンクドです。アンバンクドはバンクレスな人たちですが、キャッシュレスの技術が金融サービスへのアクセスを提供しています。お金があまりない人にキャッシュレスとは何とも皮肉な言い方ですが。

アンバンクド率が高いサブサハラアフリカの中でも突出して金融包摂がすすんでいるのがケニヤです。モバイルペイメントサービスのMペサの口座保有率が93%を超えています。Mペサは2007年にケニヤではじまったモバイルペイメントです。スマホでなくガラケーで使えるため、大変普及しました。タンザニアやアフガニスタンでも普及しているのですが、アフガニスタンでは警官の給料支払いに使われました。アフガニスタンの場合は給料の中抜きが横行していたため、Mペサで給与を直接支払うことで不正が減り、昇給したと勘違いする警官が多かったそうです。

Mペサはほかの国にも進出したのですが、あまりうまくいっていません。一人当たりのGDPが6000ドル以上とアフリカ最高です(ケニアは1/4の1500ドル)というのもありますが、南アフリカは銀行口座の普及率が77%で、口座を持つことへのニーズ自体がケニヤほどは高くないのです。Mペサのようなモバイルペイメントはアンバンクド層には魅力的なのですが、銀行口座をすでに持っているバンクド層にはあまり魅力的ではないということです。

先進国の金持ちキャッシュレスと貧困キャッシュレス

先進国にもアンバンクド層は存在します。アメリカでも6.5%がアンバンクド層で、その多くがアフリカ系黒人やヒスパニックといったマイノリティーです(リンク先はPDF)。イギリス政府なども同じですが、公共サービスはデジタルだからいいというものではありません。大前提として使う人の利便性が高まり、より多くの人がサービスを受けられることが大切です。買い物や公共料金の支払いなどは基本的には差別があってはいけないものです。

金持ちのキャッシュレス

デジタル技術は富裕層のエクスペリエンスを高めます。アメリカやヨーロッパでは現金を受け付けないSweetgreenのような小売業が増えてきていますし、安くていい品を売るBrandlessのようなオンライン専門のショップも増えてきています。これが高級店だったら、そもそも貧困層はターゲットではないから仕方がないという見方もあります。しかし、貧困層でも買えるような安くて、いい品だったらどうでしょうか。

貧困層のキャッシュレス

貧困層の経済活動の促進にも役立てるべきという考え方も成り立ちます。アメリカではBlue Birdのようなプリペイド方式のデビットカードが普及しはじめています。口座がなくてもカードに直接お金をためておいて、それがカードとして使える。

中国もインドもすでに先進国といっていいと思いますし、キャッシュレスが急速に浸透してきています。その背景にはもともとたくさんいたアンバンクドの存在があります。インドの場合は自ら進んでアンバンクドだったんですけどね、そうも言ってられなくなりました。

アンバンクド層はアンバンクドの人口が一番多いのは中国で、その次がインドになります。まあ、単純に人口が多いですからね。中国のフィンテック事情インドのフィンテック事情に関しては以前に書いたので興味があればリンクを参照してください。

このように技術は先進国における金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)のギャップを解消することも期待されています。中国やインドで低所得者層にまでキャッシュレスが急速に普及しているのもこのような社会的背景があります。