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書評|絶対防衛線としてのデザイン|"Ruined by Design" by Mike Monteiro

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「デザイン」はむやみに使われすぎていて、ボク自身、最近は避けてきた言葉です。デザインは数多くある手法の一つであって、目的ではない。目的に合った手法を使うべきであって、デザイン原理主義にハマりたくない。それでも、ユーザー中心に考える思想としてのデザインはやはり有用ですし、ボクの仕事のコアの部分を形成しています。

YAMDAS現更新履歴でマイク・モンテイロの"Ruined by Design"が紹介されていて、読んでみたいと思っていました。最近になって本人の朗読によるオーディオブックが出たので、ようやく読む(聴く)ことができました。

マイク・モンテイロ自身がMule Designを経営しているデザイナーですが、デザイン倫理学を広める伝道師的な役割を自ら担っています。"Ruined by Design"はデザイン倫理学の伝道師として、彼が言いたいことをとにかくぶつけてきたなかなか情熱的な書籍です。口語的な表現が多いので、書籍として読むより本人の声をオーディオブックで聴いた方がいいんじゃないかな。リバタリアンが大っ嫌いだとすごく伝わってきます。アイン・ランドなんてマジでクソ!みたいな(笑)。マイク・モンテイロはポジション的にはかなりリベラルです。バーニー・サンダース好きそう。どのような立場から発言しているのか、わかりやすくていい。

Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It (English Edition)

Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It (English Edition)

前提としてのデザインの定義

マイク・モンテイロは本書をデザインの定義からはじめます。すべてのモノやサービスはデザインされている。意識的であろうと、無意識的であろうと。フェイスブックもツイッターもビジネスの意図を実現するためにデザインされ、結果として現在の形になっている。

つぎにデザイナーの定義をします。マイク・モンテイロはプロダクトやサービスの機能の決定や実装に関与する人は全てがデザイナーだと言います。UX、グラフィック、インタラクティブなど「ほにゃららデザイナー」などタイトルは関係ない。プロダクトオーナーも開発者もプロダクトの機能を定義したり、決定に関わる限り「デザイナー」です。

まず、ここまでが前提ですね。感情的な本なのにストラクチャーがしっかりしているのが英語圏の人の性(サガ)ですね。ロジックがにじみ出てしまう。日本人だとこうはいかない。

問題提起

マイク・モンテイロは現在の多くのプロダクトやサービスのデザインはぶっ壊れていると問題提起します。フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカの問題も、ウーバーがドライバーを搾取するのも、プロダクトがそのようにデザインされているからです。倫理よりもビジネスが優先された結果、プロダクトは倫理に反する動きをします。そうデザインされているのですから。フェイスブックなどのソーシャルメディアはニュージーランドで起きた乱射事件のライブストリーミングを止めることができませんでした。ソーシャルメディアは広めることを目的としてデザインされているからです。広めることを目的としてデザインされたツールを止めるのは非常に難しい。

解決策の提案

解決の方向性としてトップダウンとボトムアップがあります。マイク・モンテイロはマーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジが自らの倫理観を今更変えることができないのでトップダウンは期待できないと言います。ウーバーのトラビス・カラニックやウィワークのアダム・ニューマンは自らを変えることができなかったら更迭されたわけですものね。

そこで、マイク・モンテイロが提案するのがボトムアップのアプローチです。広義の「デザイナー」が強い倫理観を持って、企業や組織長が間違った判断をしようとしたら「ノー」と言いましょうと提案します。会社勤めしている会社員として、会社やボスが言うことを聞かなければいけないのはわかる。しかし、医者や弁護士はどうだ?とマイク・モンテイロは問いかけます。医者や弁護士はお金を払えばなんでもやるわけではなく、職業としての倫理規定が優先されます。医者の場合はヒポクラテスの誓いがあります。弁護士も各国の弁護士協会が倫理規定(アメリカのBar Associationの場合はこちら)を制定しています。

デザイナーにも強い倫理規定が必要だとマイク・モンテイロは提案します。そこで、Githubにデザイン倫理のドラフトを公開しています。すでに様々な言語に翻訳されていますが、まだ日本語はないですね。

倫理観に反する企業に対してエンジニアのSeth Vargoが個人として行動をとった例がDevOpsのツールとして有名なChefのGithubやRubyGEMのリポジトリにあるファイルが削除された事件です。Chefが悪名高きアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE:Immigration and Customs Enforcement)と契約したのが事件の発端です。摘発の仕方が非人道的だと非難されています。詳しくは以下のニュースサイトを参照してください。ここにもあるように、最終的にはChefのCEOがICEとの契約を更新しないことを発表するまで追い込まれました。個人の倫理観に基づく行動が企業のの行動を変える代表的な例になるでしょうね。

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この本はどんな人にオススメか

デザイナーって視野が得意分野に集中しがちなんですよね。広い意味でのデザインも分かっているつもりでも、日々の業務で実践できていない。デザイナー個人が倫理感を持って仕事をしても、ユーザー中心の考え方をしても、チームやグループで同じ考え方じゃないと孤立してしまいます。疲れちゃうから、結局は流されてしまう。

まわりの人たちも悪気があるわけじゃない。優先順位が違うってだけ。デザイナーのマインドセットを持っていないだけ。じゃあ、そういう人たちにこの本をオススメして読むか?読まないでしょうね。それはマイク・モンテイロもわかっている。だから、わかってる人に語りかけ、行動を促すしかない。

フェイスブックは投稿に対して心理実験Facebookがこっそりユーザー感情操作実験をしていた - NAVER まとめ)をしましたが、これも完全に倫理的には間違っています。ビジネスに倫理観は必要で、デザインで倫理観を規定するアプローチもあるでしょうね。ただ、デザインってそこまで万能かなあ……と個人的には思ってしまいます。まあ、日本語翻訳くらいはやるか。