ボクは脳についての書籍が大好きです。ジーナ・リッポンの"The Gendered Brain"もすごく刺激的でした。たぶん、脳は誤解が多い科学だから、その誤解を自分の中で解きほぐしていくのが楽しいんだと思います。へー、そうなんだ!日本でも『情動はこうしてつくられる』が翻訳されている感情科学を専門としている心理学者のリサ・フェルドマン・バレットの新著"Seven and a Half Lessons About the Brain"も色々と脳についての誤解を解いてくれる楽しい小品でした。
Seven and a Half Lessons About the Brain
- 作者:Feldman Barrett, Lisa
- 発売日: 2021/03/04
- メディア: ハードカバー
情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論
- 作者:リサ・フェルドマン・バレット
- 発売日: 2019/10/31
- メディア: 単行本
本書はその名の通り、7章と半章から構成されています。最初の半章は7章を理解するための前提条件を説明しています。それは、脳の一番重要な機能は何か。そもそも、脳の一番重要な機能は考えることではありません。脳のが一番重要な機能は生存のためにエネルギーを効率的に使うことです。体を動かすにはエネルギーが必要です。そして、複雑な機能を持つ生物ほど、蓄えたエネルギーをどれくらい消費するか管理が必要となります。どうやってエネルギーを管理するのか。急激な反応はエネルギーを消費するので、予測が重要となります。脳は省エネのために予測します。
人間は身体的にとても複雑な生き物で、脳も大きいです。なぜ人間の脳がこのように進化したかは説明できません。進化に目的はないからです。しかし、人間の脳の役割は説明できます。脳の役割は合理性ではなく、感情でもないし、創造性でもありません。「考える」機能は最も重要な役割ではなく、生存のためのエネルギー管理に必要だから結果的にそのような機能を持っただけです。
この半章がとても刺激的でした。残りの7章もなかなか楽しいです。面白かったことを箇条書きにします。
- ポール・マクリーンの「三位一体脳モデル」は間違い。脳は三つに分かれていない。ひとつしかない。
- 人間の大脳皮質は他の生物と比べても大きくはない。脳全体の比率でいえば同じ。
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言語を司る部分とか、視覚を司る部分などの脳の分類は、その研究者の研究分野を反映しているだけ。実際のニューロンはマルチパーパス。すべてをできるわけではないが、いろんなことができる。
- 脳はネットワーク。脳内のネットワークでもあるし、社会的なネットワークでもある。人間の赤ちゃんの脳は社会的なネットワークの中で成長する。これは他の動物にはない特徴。
- センサーデータ(聴覚や視角)と脳内のメモリーを脳が処理をして判断する。だから、見たと思って、もう一度見たら違う人だったとかあり得る。幻影みたいなもの。病院に入るような幻影ではなく、日常的な幻影。
- アートの半分はアーティストが作る、残りの半分は鑑賞者が作る。