カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|テクノロジーが触れてはいけない領域はあるのか?|"Sex Robots and Vegan Meat" by Jenny Kleeman

f:id:kazuya_nakamura:20200917194121p:plain

「ソフトウェアが世界を飲み込む」と宣言したのはマーク・アンドリーセンでした。2011年のウォールストリート・ジャーナル寄稿記事でマーク・アンドリーセンが指摘してことはほぼ現実になりました。しかし、まだまだテクノロジーが触れていない領域があります。セックスをすること、食べること、子供を産むこと、そして死ぬこと。この四つは人間としての基本的な行為です。果たしてテクノロジーはこの領域まで踏み込んでいいのか。踏み込んでいいのだとしたら、どこまで踏み込んでいいのか?それが今回紹介するジェニー・クリーマンの著書"Sex Robots & Vegan Meat"です。

Sex Robots & Vegan Meat: Adventures at the Frontier of Birth, Food, Sex & Death

Sex Robots & Vegan Meat: Adventures at the Frontier of Birth, Food, Sex & Death

  • 作者:Kleeman, Jenny
  • 発売日: 2020/07/09
  • メディア: ペーパーバック

まず、最初に取り上げるのがセックスです。具体的にはラブドールです。最近だとラブドールを題材にした映画『ロマンスドール』もありましたね。ラブドール職人がすれ違いでレスになる話です。ラブドールの利用者のほとんどは男性で、女性はディルドなど道具の需要の方が高いのだそうです。ここはかなり重要なポイントです。

ロマンスドール

ロマンスドール

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: Prime Video

Real Doll(リンクを開くときは注意!)やDS Robotics(リンクを開くときは注意!)のような最新のラブドールはAIを搭載して、男性のニーズを満たすべく学習します。ラブドールのメーカーや愛好者の主張は、様々な理由で普通の女性とセックスができない男性も性的に満たされる権利があるはずというものです。そして、性犯罪を未然に防止する効果もあるのではないかと主張します。

ラブドールを愛好する男性がいる一方で、ラブドールに反対する団体があります。Campaign Against Sex Robotsです。ラブドールに反対する側の主な主張は女性をモノとして扱うことです。AIを搭載した女性型のロボットなら虐待してもいいのか?そのような虐待の欲望を満たすことは、その傾向に拍車をかけるのではないか?女性のセックスロボットが倫理的にも許されるのであれば、子供のセックスロボットも倫理的に許されるのか?

この本では他にも培養肉(実はビーガンが支援しているケースが多い)や人口子宮に関するケースが紹介されています。しかし、ここで紹介される培養肉のスタートアップはどことなるセラノスを彷彿させる怪しさ満載でした。出産のケースもなかなか悩ましいです。他の女性の子宮を使う代理母出産は倫理的にも問題視されています。しかし、人工子宮出産なら?人口子宮で培養された赤ちゃんは果たして人間と言えるのか?この人口子宮は日本の東北大学も関わってるんですね。

そして、個人的に一番考えさせられたのが尊厳死についてです。人は自分の死を管理する権利があるのか?死の自由を広めようとする非営利団体のExit Internationalは人は自由に死ぬ権利があると考えています。

少し前ならカート・ヴォネガットの『モンキーハウスへようこそ』の自殺ホーム、最近なら『アヴェンジャーズ /インフィニティ・ウォー』のサノスがそうですが、増えすぎた人を減らさなければいけないと考えるフィクションは少なくありません。そして、実際にそう考える人たちもいるんです。自殺のために薬を処方する医者はDr. Deathと呼ばれます。Exit Internationalの代表を務めるフィリップ・ニッチケもそうでした。

フィリップ・ニチケは安楽死専用マシン「サルコ」を開発していて、 3Dプリンターでいつでも誰でも安楽死専用マシンが作れるようにしようと活動しています。ニューズウィークの記事では自殺のイーロン・マスクと称されています。

男性はロボットを愛し結婚する権利があるのか?培養肉は動物の権利を守ることになるのか?人口子宮はゲイカップルや不妊症の夫婦の福音となるのか?そして、人は自由に死ぬ権利があるのか?いまの倫理観では全て「ノー」だと思うのですが、将来はどうなるのでしょうかね。