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『小学校~それは小さな社会~』映画レビュー|⼭崎エマ監督が描く日本の子供たちの一年

⼭崎エマ監督のドキュメンタリー映画『小学校~それは小さな社会~』(2023年)は、世田谷の公立小学校を舞台に、1年生と6年生の子供たちの1年間を追いかけた作品です。日常的な学校生活を通じて、日本の小学校が持つ独特の価値観や文化が浮かび上がる作品であり、観る者に「教育とは何か」を問いかけます。

あらすじ|新1年生と6年生を通じて描かれる小学校の一年

本作は、公立小学校に入学したばかりの新1年生と、卒業を控えた6年生を中心に、それぞれの成長や葛藤を描いています。6歳の子供たちは純粋無垢でありながらも、新しい環境に順応しようと懸命に努力します。一方で、12歳の6年生たちは、社会に出る前の準備期間として、責任感を学ぶ姿が印象的です。

カメラは日常の教室や校庭の様子を淡々と記録し、小学校という「小さな社会」の中で、子供たちがどのように日本人らしい価値観を身に着けていくかを映し出します。

テーマ|「小さな社会」としての日本の小学校

タイトルにあるように、本作が描くのは「小学校」という「小さな社会」です。この社会では、子供たちは協調性や規律を学び、個人よりも集団を重視する日本の文化的価値観を自然に身に着けていきます。特に教師たちの熱心な指導が目を引きます。彼らは、子供たちが「良い大人」として世の中に出ていけるよう、真摯に向き合います。

一方で、その価値観には型にはめられるような側面もあり、「個性を伸ばす教育」を重視する海外の学校との対比が浮かび上がります。本作はどちらが正しい、どちらが間違いという結論を提示するわけではありませんが、「日本人らしさ」がどのように形成されていくかを静かに描いています。

映画技法|シンプルで淡々とした映像美

『小学校~それは小さな社会~』は、シンプルな映像表現で観る者に日常を切り取る感覚を与えます。特別な演出やドラマチックな編集はなく、カメラはあくまでも客観的な視点を保ちます。そのため、観客は子供たちの日常や教師たちの働きぶりに対して、それぞれの視点で考える余地を与えられます。

また、日本の四季を背景にした映像が美しく、春の入学式から冬の卒業式まで、子供たちの成長を自然と共に描く構成が秀逸です。

感想|日本の小学校を知る新たな視点

本作を観ることで、日本の現代の小学校が持つ特性を深く理解することができます。特に「6歳の子供は世界中どこでも同じように見えるが、12歳になると”日本人”になる」という指摘は、本作を象徴する視点です。この言葉は、日本の教育システムがどのように文化的価値観を次世代に継承しているかを端的に表しています。

海外の小学校と日本の小学校を比較することで、それぞれの利点や課題も浮かび上がります。協調性や規律を重視する日本と、個性を伸ばすことに注力する海外の教育の違いは、どちらが優れているかではなく、相互に学び合うべきものだと感じます。

まとめ|小学校は本当に「小さな社会」なのか

『小学校~それは小さな社会~』は、教育の現場に興味がある人だけでなく、日本文化や価値観の形成過程に関心を持つ人にも観てほしい作品です。小学校を「小さな社会」として捉える視点は、子供たちの成長と、日本の文化的背景を考える上で多くの示唆を与えてくれます。

本作が描く日本の小学校の姿は、時代や地域を超えて教育に対する普遍的な問いかけを投げかけるものです。将来的に日本の教育がどのように変化していくかを考える上でも、一つの重要な作品として位置づけられるでしょう。