『タバコは咳の原因になる』は、カンタン・デュピュー監督が2022年に発表した作品で、地球を侵略者から守る「タバコ戦隊」の活躍を描いたコメディ映画です。本作は第75回カンヌ国際映画祭ミッドナイト部門でプレミア上映され、日本では第35回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門で上映されました。
監督は『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』や『地下室のヘンな穴』など、独特の作風で知られるカンタン・デュピューが務めています。

- あらすじ|タバコ戦隊の奇妙な合宿と地球滅亡の危機
- テーマ|ナンセンスとブラックユーモアで描くヒーロー像
- キャラクター造形|個性と風刺が光るタバコ戦隊の奇妙な世界
- 映画技法|チープさとスプラッタが生むナンセンスな映像世界
- まとめ|異色のヒーロー映画がもたらす新たな笑い
あらすじ|タバコ戦隊の奇妙な合宿と地球滅亡の危機
「タバコ戦隊」は、ベンゼン、メタノール、ニコチン、水銀、アンモニアというタバコの有害成分の名を持つ5人組のヒーローです。彼らは地球を侵略者から守るため、日々戦っています。ある日、亀の怪人カメットを倒した後、リーダーのベンゼンはチームの団結力を高めるため、湖のほとりにある秘密基地での合宿を提案します。しかし、合宿中に地球滅亡を目論む最強の敵トカーゲが作戦を早め、地球滅亡の危機が迫ります。タバコ戦隊は新型ロボット、ノルベール1200の時代逆行機能に最後の望みを託しますが…。
テーマ|ナンセンスとブラックユーモアで描くヒーロー像
『タバコは咳の原因になる』は、カンタン・デュピュー監督がナンセンスとブラックユーモアを駆使して、従来のヒーロー像を風刺的に描いた異色のコメディです。特撮ヒーローものを彷彿とさせる「タバコ戦隊」は、タバコの有害成分の名を冠した5人組で構成されており、彼らの存在自体が正義と有害性という矛盾を体現しています。この奇抜な設定により、スーパーヒーロー映画の形式や物語構造をパロディ化し、ジャンルの定型を意図的に崩壊させています。
デュピュー監督は、複数の短編的エピソードとシュールな演出を組み合わせることで、現実と虚構の境界を曖昧にし、観客に“何を見せられているのか”という疑問を抱かせます。タイトルにある「タバコは咳の原因になる」という一文も、単なる注意喚起ではなく、社会の矛盾を皮肉るメタファーとして機能しており、作品全体を包むアイロニカルなユーモアの象徴となっています。
キャラクター造形|個性と風刺が光るタバコ戦隊の奇妙な世界
『タバコは咳の原因になる』の中心となる「タバコ戦隊」は、タバコの有害成分の名を冠した5人組のヒーローたち。リーダーのベンゼン(ジル・ルルーシュ)を筆頭に、ニコチン(アナイス・ドゥムースティエ)、メタノール(バンサン・ラコスト)、水銀(ジャン=パスカル・ザディ)、アンモニア(ウーヤラ・アマムラ)が、レトロフューチャーなヘルメットと光沢のあるジャンプスーツに身を包み、奇妙なヒーローチームを形成しています。それぞれが持つ“有害物質”の名前が皮肉を効かせており、従来の正義の味方像をユーモラスに覆しています。
チームを率いるのは、緑色の胆汁を垂らす歯を持つ下品なネズミのパペット、ディディエ隊長。アラン・シャバが声と操演を担当し、その不気味でユーモラスな存在感が物語に強烈なインパクトを与えています。さらに、地球の滅亡を目論む“悪の皇帝”レザルダン(ブノワ・ポールヴールド)も登場し、ヒーロー映画の定番である“正義と悪”の対立構造をシュールに描きます。
映画技法|チープさとスプラッタが生むナンセンスな映像世界
『タバコは咳の原因になる』では、カンタン・デュピュー監督が意図的にチープな映像美とスプラッタ的な過剰表現を組み合わせ、独自のユーモアと風刺を生み出しています。特撮ヒーローものの定番を逆手に取り、安価なゴム製スーツや粗末なパペットなど、B級映画的なビジュアルを全面に押し出しつつ、60年代のSF作品を思わせるレトロフューチャーなデザインを取り入れることで、どこか懐かしさを感じさせる世界観を構築しています。特に、敵キャラクターやディディエ隊長のネズミのパペットは、わざとらしい造形と緑色の胆汁を垂らすといった過剰な演出で、笑いと不快感を絶妙にブレンドしています。
本作で際立つのは、スプラッタ的な過剰表現です。タバコ戦隊が「タバコの有害パワー」を駆使して敵を倒す際、血飛沫や肉片が容赦なく飛び散るシーンが多用されており、単なる暴力描写ではなく、スーパーヒーロー映画の暴力性を皮肉る仕掛けとして機能しています。特に、巨大なカメの怪人「カメット」を倒す場面では、そのスプラッタ要素が最高潮に達し、観客に強烈なビジュアルショックを与えます。しかし、これらの血みどろのシーンは決してリアルな恐怖を狙ったものではなく、むしろ“やりすぎ”感による笑いを誘うものであり、ナンセンスな世界観の強化に寄与しています。実際の爆発や血糊といったアナログな特撮技法を駆使し、CGには頼らないことで、あえて手作り感を際立たせているのも特徴です。
また、デュピュー監督は物語構成にも独創性を持ち込み、アンソロジー形式で物語を進行させています。タバコ戦隊の合宿シーンを軸に、焚き火を囲んで語られる怪談風の短編エピソードを挟み込むことで、単調なストーリー展開を回避しつつ、観客に新たな視点や驚きを提供。ジャンルの枠を超え、ヒーロー映画、ホラー、シュールコメディといった複数の要素をミックスさせることで、映画全体に多層的な奥行きを生み出しています。さらに、寂れたロケーションやジャジーな劇伴音楽を用いることで、コミカルな表層の裏にどこか虚無感や孤独感を漂わせ、単なるギャグ映画には終わらない複雑なトーンを実現しています。
まとめ|異色のヒーロー映画がもたらす新たな笑い
『タバコは咳の原因になる』は、カンタン・デュピュー監督ならではのナンセンスでブラックなユーモアが詰まった異色のヒーロー映画です。タバコ戦隊という奇抜な設定や、豪華キャストによる個性的なキャラクター、独特の演出が融合し、新たな笑いを提供しています。従来のヒーロー映画とは一線を画す本作は、斬新な映画体験を求める観客におすすめの作品です。