すごく久しぶりなジェフ・ニコルズ監督の60年代後半から70年のバイク乗りを描いた『ザ・バイクライダーズ』の映画評。当時のシカゴのバイクライダーの日常をとらえた同名写真集にインスパイアされた作品。
ボクの映画の評価軸は①ストーリー、②テーマと③キャラクター造形です。それに加えて映画技法が加わります。本作はどれも高いレベルで表現していて、さらにプラスアルファもあります。
普通の女の子のキャシー(ジョディ・カマー)はバイク乗りの「ヴァンダルズ」が集まるバーに呼び出され、そこでクールで無口なバイク乗りベニー(オースティン・バトラー)と出会う。ベニーの無口な求愛に押されて5週間で結婚を決める。ベニーは「ヴァンダルズ」のリーダーであるジョニー(トム・ハーディ)の片腕で鉄砲玉。結婚しても無茶を止めない……という話。
まず、とてもセンスがいい。最初にベニーが吸うタバコが出てきて、つぎにキャシーがランドリーで典型的なガールズトーク。60年代後半ですから!今の時代に合わせるつもりは全くないですから!という宣言のような出だし。バイクライダーのカッコよさを切り出した映画なのだから、時代に忖度しては意味がない。オースティン・バトラーは『エルヴィス』(2022年)もカッコよかったですが、本作ではさらに粗削りな不良っぽさがよいです。昔のマット・ディロンからスィートさを抜いて、さらに荒くした感じ。
ハリウッド的にはトム・ハーディの代わりにシルベスター・スタローン、オースティン・バトラーの代わりにジェイソン・ステイサムを起用してもよかったはずなんです。そのほうが話題になって売れたかもしれない。でも、そうしないのがジェフ・ニコルズ監督が本作で発揮した矜持なんだと思います。
テーマは「時代と信念」だと受け取りました。時代が変わる、年も取る。それでも信念を変えずにいられるのか。ベニーはとても頑固ですから、キャシーが何を言っても変わらない。でも、信念の真ん中は変えず、形を変えることはできるのではないか、時間さえかければ。そんな希望が持てるようなテーマだと思います。
キャラクター造形もすばらしい。オースティン・バトラーは最高にかっこいいし、ジョディ・カマーもすごきいい女。ちょっと頭悪そうだけど純粋な女の子が不良の男の子を好きになっちゃう。そして、ずっと一途に思い続ける。『ハイティーン・ブギ』みたいな昔の少女漫画っぽいのがいい。トム・ハーディも「ヴァンダルズ」のリーダーとしてとても重みがある演技を見せます。男が男に惚れるような男。だからこそベニーのような鉄砲玉がついていく。そんな説得力がある演技でした。