サイレント映画といえばチャーリー・チャップリン、バスター・キートンとハロルド・ロイドの「三大喜劇王」が有名ですよね。もう少しマイナーなところだと映画『僕たちのラストステージ』でその晩年が描かれたローレル&ハーディ(極楽コンビ)とかですね。しかし、才能があるのに、まったく忘れ去られてしまった人たちもいます。その代表格が今回紹介するチャーリー・バウワーズだと思います。Filmarksにすら名前も作品も登録されていない。
チャーリー・バウワーズの特徴は特殊撮影。キートンなども特殊撮影を使っていますが、隠し味であってメインではない。バウワーズの場合はストーリーは特殊効果を使うための流れであり、メインは特殊効果です。特にピタゴラスイッチ的なガジェットとストップモーションアニメの組み合わせが特徴となっています。
今回紹介する作品集"The Extraordinary World of Charley Bowers"は現存するチャーリー・バウワーズの作品を集めてレストアしたものです。しかし、アメリカではほとんど残っておらず、フランスを中心としてヨーロッパでフィルムが見つかったそうです。そのため、英語作品なのにフランス語字幕がほとんどです。下のYouTubeはそのプレビューですが、とてもキレイにレストアされているのがわかると思います。
初期の作品はアニメーション作品です。セルアニメのパイオニアはジョン・ランドルフ・ブレイで透明シートに描く手法を1910年代の半ばに確立しました。チャーリー・バウワーズはその当時最新の手法を使ってアニメーション作品を作り上げています。下のYouTubeはジョン・ランドルフ・ブレイの作品(1915年)ですが、チャーリー・バウワーズの最初の作品"The Extra-Quick Lunch"(1917年)と"A.W.O.L"(1918年)はその数年後に発表しています。ウォルト・ディズニーの『蒸気船ウィリー』が1928年ですから、かなり先駆的ですよね。
チャーリー・バウワーズはその後に実写映画を作りはじめますが、ユニークなのはストップモーションアニメを取り入れているところです。実写とストップモーションアニメを融合させた作家としてカレル・ゼマン(『悪魔の発明』は傑作!)が有名ですが、それよりもずっと前にチャーリー・バウワーズが実写とストップモーションアニメの融合はやってるんです。
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"The Extraordinary World of Charley Bowers"に収録されている最初の実写映画"Egged On"(1926年)で既にストップモーションアニメーションが使われています。これがどれくらい凄いかというと、ストップモーションアニメーションを使った古典的映画『ロストワールド』(1925年)とほぼ同時期なんですよ。『ロストワールド』で特撮を担当したのはウィリス・オブライエン。「特殊効果の巨人」とされるレイ・ハリーハウゼンのお師匠さんの出世作です。そのウィリス・オブライエンの古典的名作とほぼ同時期というだけでなく、ガジェットを使ったユニークさではチャーリー・バウワーズの方が今の時代にも通用する普遍性を持っているとボクは思います。
チャーリー・バウワーズはきっとエンジニア気質の人だったんじゃないかと想像します。だって、彼の映画はストーリーやテーマは今ひとつなんです。そこはチャップリンやキートンの方が優れている。しかし、特撮に関してはチャーリー・バウワーズの表現は現代でも通用する普遍性を持っている。
機会があれば、是非、チャーリー・バウワーズの作品を観てみて下さい。