ジャーナリストで デジタルメディアの専門家であるジェフ・ジャーヴィスによる書籍『The Gutenberg Parenthesis:』はグーテンベルクの印刷機の発明(1450年代)から現代のインターネット時代までの約500年間を「括弧」として捉え、括弧が外れた未来を見定める試みです。
ジェフ・ジャーヴィスは情報伝達を三つの時代に区切ります。括弧の前である印刷以前の口承時代、括弧の中である印刷時代(グーテンベルクの括弧)、そして括弧の後のデジタル時代です。グーテンベルグの括弧の期間は例外的な期間として位置付けています。形は違えど口承とデジタルは「パブリック」の時代であり、印刷時代は「マス」の時代だった。グーテンベルグの括弧の期間は特殊な情報生産・消費形態の時代であったと。
印刷は長い時間をかけて進化してきた。インターネットは印刷の歴史に比べればはじまったばかり。はじまったばかりのインターネットを語るのは、はじまったばかりで本の概念もなかった印刷初期に印刷について語ることに似ている。インターネットは何なのか。まだこの先に何があるのか分からない。だから印刷が歩んだ道を振り返る価値があるとしています。
本書の前半は印刷時代(グーテンベルクの括弧)の歩みについて詳しく語られています。グーテンベルクってかなり謎な人物なんですね。グーテンベルグによって印刷されたもの(といわれるもの)は残っているのですが、具体的にグーテンベルクがどのように活版印刷を行ったのか資料として残っていない。活字やインクをどのように製造したのかなど。
印刷技術は徐々に洗練され、印刷物は広く世に広まるようになった。この過程で「パブリック」の概念が生まれる。そして印刷技術が高度化して大量の情報が発信されるようになり、「パブリック」は「マス」に変容した。この「マス」の概念は印刷だけでなく、ラジオやテレビでも同じ。むしろその概念を強化したともいえる。だからラジオやテレビもグーテンベルクの括弧の中にある。「マス」は大規模で異質な個人の集団を指し、権威であるマスメディアを通じて同じメッセージや情報を受けとる。メディア志向の概念。いっぽうで「パブリック」は共通の関心や目標を持ち、互いに関わり合う個人の集団であり、コミュニティー志向の概念。
本書の後半は印刷時代のメディア論の流れを紹介している。特に集中的に紹介しているのがエリザベス・アイゼンシュタインとマーシャル・マクルーハン。アイゼンシュタイン初期近代期における印刷技術の社会的変化への影響を詳細な歴史的視点から分析。マクルーハンはメディア全般の影響を理論的かつ広範な視点で考察し、メディア自体が人間の認識や社会構造に与える影響を考察。マクルーハンはグローバル・ヴィレッジの考え方を提唱している。印刷の時代を「グーテンベルクの銀河系」として、その時代は終わりつつあるとした。グーテンベルク銀河系時代の視覚文化に代わって、電子メディアを基礎とした「電子的な相互依存」の時代が始まると予見した。この新しい時代が「グローバル・ヴィレッジ」。
アイゼンシュタインは印刷がルネッサンスをもたらしたわけではないと説く。インターネットが二極化をもたらしたわけではないと同義で。インターネットは二極化を見えるようにしただけ。ツールがあるから進化するのではない。もともと人間に備わっているものをテクノロジーが強調してスピードを速める。「マス」の時代においても人間が持つ「パブリック」の特性が失われたわけではない。マスの時代におけるパブリックの事例としてイギリスのコーヒー文化とペニーユニバーシティーが挙げられている。
あまり自分はメディア論は得意ではなく、いろいろ調べながら本書を読み進める(オーディオブックなので実際は聴き進める)ことになりました。正直に言えば前半も後半もそれぞれ中だるみしている印象です。もうちょっと簡潔にまとめてくれないか。しかし、要点はとても興味深いし、インフォーマティブな本ではありました。]
このような海外のニュースをほぼ毎日お送りするニュースレター「カタパルトスープレックスニュースレター」をSubstackではじめました。今は試運転中なのですべて無料です。