「他人をコントロールするのをやめたら、自分の人生はどう変わるだろう?」
この一見シンプルな問いかけが、自己啓発の世界で人気を博しているメル・ロビンスの新著『The Let Them Theory』の核心です。メル・ロビンスは過去にに日本でも翻訳されている『5秒ルール』(目標に向かって行動しようと思ったら5、4、3、2、1とカウントダウンして、すぐに行動するというメソッド)というシンプルな行動変容法で一躍有名になりました。彼女のTEDxトークは3,300万回以上視聴され、ベストセラー作家となりました。
他人をコントロールしようとしない「やらせておけばいい」理論
今回の『Let Them Theory』は、彼女の娘ケンダルの言葉「Let Them(彼らにやらせておけばいい)」からインスピレーションを得たものです。自身の息子のプロム(卒業舞踏会)の準備で過度に心配し、あれこれと指示していた時、娘から「ママ、オークリーと友達がプロムの後ににタコスバーに行きたいなら、行かせておけばいいじゃない(LET THEM)」と言われたことがきっかけでした。
この「Let Them」というフレーズは、他者をコントロールしようとする衝動を手放し、自分の領域に集中するという考え方です。友達があなたを誘わずに出かけた?「Let them!」親戚があなたの悪口を言っている?「Let them!」デートの相手が突然連絡を絶った?「Let them!」コントロールできないことにストレスを感じるのではなく、自分がコントロールできることに集中する―これが本書のメッセージです。
難しい問題を解決する「やらせておけばいい」からの「わたしはこうする」
本書では、「Let Them(やらせておけばいい)」の考え方の後半部分として「Let Me(わたしはこうする)」という概念も導入しています。他者のコントロールを手放した後、「Let Me」と言って、次のステップに対する責任を取るというアプローチです。
例えば、友人たちがSNSで自分を誘わずに週末の旅行に行ったことを知って落ち込んだとき、「Let Them」と考え、彼らのやることを受け入れる。そして「Let Me」と、自分からもっと積極的に友人と計画を立てたり、交流の時間を作るために仕事との境界線をより明確にしたりするのです。
人生は公平じゃない
人はどうしても他人と比べてしまいます。そして他人を羨みます。しかし、手持ちのカードはそれぞれ違う。公平じゃない。大事なのはどんなカードを持っているかではなく、持っているカードをどうやって使うか。他人のカードと比べるのでなく、他人からカードの使い方を学ぶことが大事。
- 彼らにはよいカードを持たせておけばいい(Let them have good cards)
- 自分は自分のカードでうまくやろう(Let me play good with my cards)
他人と比較して羨むのではなく、他人のうまいやり方から学んでまねる。物事には成功のフォーミュラがある。他人にはうまく成功してもらい(Let them succeed)、成功する方法を示してもらい(Let them lead the way)、自分はそのやり方を参考にさせてもらう(Let me follow the formula)。たいていは単に努力を続けることだったりする。羨むだけでなく、それをインスピレーションとして行動につなげることが大事。
他人は変わらない
たとえば自分の親友や恋人の悪い癖が直らない。ダイエットすると言っているのになかなか始めない。ゲームばかりやってる。メル・ロビンスは変化を求めて他人にプレッシャーを与えても効果がないと言います。ここでも「やらせておけばいい」理論が役に立ちます。
モチベーションとは「何かをやる気になる」ということです。大人はやる気になればやる。でも、人はその時にやりたいことをやり、やりたくないことを避ける傾向にある。だから他人をコントロールしようとせず「やらせておけばいい」。しかし、それだけではだめで、「Let Me(わたしはこうする)」が重要となります。
「あなたが他人からインスピレーションを得るように、あなたも他人にインスピレーションを与えることができる」メル・ロビンスは言います。あなたが他人にしてほしい行動を自らが実践してロールモデルになることはできます。そして、他人にインスピレーションを与えて行動するまで時間がかかることを理解することも重要です。最低でも6か月は続ける必要があります。
他人は救えない
親友や恋人が非常に困ったことになっているケースもあります。たとえば何かの中毒になっている。借金で首が回らないなど。一番簡単なのはお金を渡すことなのかもしれません。しかし、これも悪い癖が直らないのと同じで、本人が変わろうとしない限り状況は変わりません。他人が救うことはできない。お金を渡して一時的にその状況がなくなったとしても、根本は解決していない。単に問題を先延ばしにしているだけだとメル・ロビンスは言います。
ではどうするか?ここでも「やらせておけばいい」理論です。失敗しなければ学ばないし、自分で何とかしようとしない。だから「失敗させればいいーLet them fail」なのです。失敗する前に「助けなきゃーLet me rescue」をしても失敗から学ぶ機会を奪っているだけです。まず「失敗させればいいーLet them fail」があり、本人が自ら立ち上がるのを待ちます。そして自らが立ち上がるためにサポートが必要であれば「Let me help you」がはじめてできるようになります。
大人と子供は違う
メル・ロビンスは「やらせておけばいい」理論は大人にだけ有効で、子供には適用すべきではないと言います。大人は自立していて自分に責任が持てますが、子供は親が責任を持たなければいけません。大人はコントロールしようとせずに大人として扱うのが「やらせておけばいい」理論です。
まとめ
ロビンス自身、この理論が万能薬ではないことを認めています。彼女はADHDと診断され、不安障害にも長年苦しんできました。またアルコールと抗うつ剤の併用で記憶を失う経験もしています。本書では、そうした自身の弱さや失敗も含めて包み隠さず語り、読者に「完璧である必要はない」というメッセージを送っています。
本書の魅力は、専門的な学術書ではなく、誰もが理解しやすい日常的な言葉で語られている点です。「複雑なソリューションはばかげている」とロビンスは言います。「私はADHDで、複雑なことは覚えられない。シンプルなら覚えられる。覚えられれば使える―ツールは使わなければ意味がない」
『The Let Them Theory』は他者や状況をコントロールすることに費やすエネルギーを、自分自身の成長と幸福に振り向けるように促す本です。「Let Them」と「Let Me」のバランスを取りながら、他者の行動や感情に対する責任から自由になり、真に自分がコントロールできることに集中する―それが本書のメッセージです。

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