今回紹介するマリーケ・ビッグの"This Won't Hurt"は製薬研究をジェンダーギャップの観点で分析した書籍です。薬の研究は白人男性を基本として行われていて、性別やジェンダー、人種の違いなどはほとんど考慮されていないのだそうです。
歴史的背景の分析から現代の問題への批判、さらには個人的な体験談を交え、女性の身体や健康問題がいかに医療の中で扱われてきたかを掘り下げています。
女性向けの医療は「婦人科」がありますが、婦人科は生殖機能にフォーカスしています。つまり、生殖機能以外は男性と同じという前提に立っているとマリーケ・ビッグはいいます。「女性の体」は科学の対象として見られてず科学的に解析されてこなかった背景として、ジェンダーバイアスや医学における資金調達の問題が本書では取り上げられています。
たとえば、女優グウィネス・パルトロー(映画『セブン』でブラッド・ピットが演じる刑事の妻役や「アイアンマン」シリーズのペッパー・ポッツで有名)がCEOを務めるGoopのような科学的根拠のない女性向け健康器具が販売されているこのも科学的に女性の体が取り上げられてこなかったのが原因だとマリーケ・ビッグは主張しています。なお、Goopは裁判において2018年に科学的根拠のない健康商品の宣伝で14万5000ドル(約1600万円)の和解金を支払うことになりましたが、いまだに商品の販売は続けています。
マリーケ・ビッグは、ジェンダーの問題は男性と女性のバイナリー(二極)で語らるべきでもないと本書でも注意を促しています。ジェンダーバイアスもあり「女性特有の問題」は女性ホルモンのせいだと広く思われているし、PMS(月経前症候群)など薬で治すものもある。しかし、多くの「女性特有の問題」は女性は劣っているというジェンダーバイアスのレンズで観られることが多く、科学的に解析されていないと警告を鳴らしています。「女性特有の問題」とひとくくりにするのではなく、それぞれ個人に合った治療であるべきだと本書では主張しています。女性ホルモンと言われるものは男性にもあるし、逆も然りです。
たとえば、アンドロゲン不応症候群(CAIS: complete AIS)は、AR遺伝子異常によってアンドロゲン(男性ホルモン)の作用が障害される疾患です。CAICの患者は子供の頃に外科摘出を施されることが多いそうですが、これはアンドロゲン不応症候群の状態が「普通」より「劣っている」という考え方からきているもので、正しいのだろうかと疑問を呈しています。
自分自身が男性であるため、女性の立場に立って考えることはなかなか難しい場合があります。特に異性の身体的な違いは理解しにくいですよね。この本を読んでいて「理解できていないのだ」と考えることが重要なんだと改めて思いました。「理解できていない」というスタート地点に立つことで、それを科学的に理解するという行動をとることができる。
医学の研究開発には研究資金が多くかかるため、「理解できていない」というスタート地点に立っている婦人科医がスタートできない状態にあることも本書ではその悩ましさを吐露されています。そういう状況を打破するためにも本書のような啓蒙書は重要なんだと思いました。

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