カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

Facebookのような大企業をトークン化する方法

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ざっくり言うと

  • キッカケはMark Zuckerbergが2018年に暗号化通貨の可能性を探ることを示唆したFacebookでの書き込み【全文和訳掲載】マーク・ザッカーバーグ「仮想通貨は権力... | News | Cointelegraph)。実際に親和性が高そうなことから、インターネット上で大きな議論がおきた。この記事はブロックチェーン業界で有名なBigchainDBの創業者Trent McConaghyからの提案。
  • 「そんなことできない」というのは簡単、「どうすればできるか」と考えるのがイノベーション。
  • 頭の体操ではFacebookもAmazonもIBMもトークン化できる。
  • 「株主=会社の持ち主」という概念は暗号化トークン社会においては崩れる可能性がある。貢献する人が価値を得るという自律型経営の究極の形かもしれない。

原文:"Tokenize the Enterprise" by Trent McConaghy

 トークンは新しいブロックチェーンの中でも特に新しい概念です。現在はこれまでブロックチェーンだと思っていたものでは十分ではありません。トークンはWeb 3.0のビジネスモデルだと誰もが気づきました。

 分散システムは権力を多くの人に広げます。それはトークン化されているかもしれませんし、されていないかもしれない。トークンのメリットはエコシステムの参加者の動機付けを同じ方向に向けることです。これはトークンを持つ人たちにとってポジティブサムゲームです。もちろん、トークンのローンチ時の棚ぼた効果も期待できます。

解説

ポジティブサムゲームはゲーム理論のひとつ。ポジティブサム、ゼロサム、ネガティブサムがある。ゼロサムゲームはゲームの総和がゼロのため、誰かが勝てば(ゼロより大きい)それ以外の人が損(ゼロより小さい)する。ポジティブサムはゲームの総和がゼロ以上になるため、誰かが勝っても(ゼロより大きい)、他の人も勝つ可能性がある。

 現時点でトークンを発行しているのはスタートアップです。しかし、大企業が発行したらどうでしょうか?Facebookをトークン化できるでしょうか?AmazonやIBMは?どうやって?どんな利点があるのでしょうか?

 手短に言えば、トークンは大企業を内側から侵食します。なぜなら投資家は投資から利益を得られ、コミュニティーが勝利するからです。企業内で起業する暗号化集団が現れるでしょう。それが多くの大企業で起こり、伝統的な証券取引は無くなります。最後にこれは新しい投資家のジレンマとなります。大企業が利益を守る傾向においてどうやって競争するのか?

 もう少し詳しく見ていきましょう。

アプローチ

以下が各大企業向けのレシピです。

  • トークン化:株式がトークンとなる。
  • 分散化:権力を人々に分散する。ユーザーは過去や将来の貢献に対してトークンを受け取る。
  • コミュニティーに溶け込む:時間が経過するにつれて価値と権力がさらに分散される。一つか二つの大企業がこれを実行するとき、株主のためにお金を稼ぐことができます。それを目の当たりにした他の大企業もそれに続くようになり、全ての大企業は暗号化されます。

Facebookをトークン化する

 それでは、Facebookを例にとってこのレシピで大企業のトークン化をしてみましょう。

ステップ0:現状維持

 Facebookの命運はユーザーとともにあります。Facebookの創業者たちと株主は多くの富を築きました。しかし、ユーザーは個人情報やコンテンツといったFacebookのコアビジネスへの貢献に対して富の分配を受けていません。これが基本的な緊張関係です。Facebookはオープン性とユーザーのプライバシーに対して偏見を持たれています。

 Facebookは数億のユーザーと高いエンゲージメントによって非常に強大になりました。しかし、それは少人数の人たちによって管理されています。これは社会にとってとても危険です。その責任を全うするような構造となっていない場合は特にそうです。

これまでにこの状況を変えるために様々な提案がなされました。ひとつは法廷に持ち込んで独占企業として認定することで分割することです。

 もう一つのアイデアがブロックチェーン化です。Facebookのボトムアップからの支配です。分散化した何かを作り、ユーザーに参加してもらう。このようなアプローチは分散化したソーシャルメディアで多くありますが、成功したケースは多くありません。最大のチャレンジはユーザーを増やすことです。ニワトリか卵か。ユーザーは友達が参加しているからそこへ参加しているのであり、エンゲージメントの高い2億ユーザーに食い込むのは至難の技です。

 これをさらに推し進めた考え方もあります。分散化とトークン化です。これは役にたつかもしれません。初期にトークンを持っている人は友達に紹介するでしょう。友人を招待することでインセンティブが生まれるので。トークン化は口コミ効果を高めます。しかし、それでも2億ユーザーのネットワークを乗っ取ることができる保証はありません。

 これらのアイデアはゼロからスタートすることを前提として、より早く、賢く、バイラルなもので下から攻撃するものです。それはうまくいくかもしれませんが、私は別の方法があることに気がつきました。内側からのトークン化です。

ステップ1:証券のトークン化

 このステップではFacebook株(シンボル:FB)がトークンに変換されます。

 Facebook株は約30億株あります。企業としてのFacebookがブロックチェーン上に30億トークン(シンボル:$FB)を発行します。

 そして、Facebookが30億のFacebook株を$FBトークンに変換する契約を行います。または単純に株主(株=$FB)をブロックチェーンの登録台帳とすることもできます。米国デラウェア州はこの方式の可能性を模索しています。

 どちらの方法でもブロックチェーンが$FBトークンが従来の株式を置き換えることができます。これが証券としてのトークンとなります。

ステップ2:分散化

 この時点でトークンの管理は企業としてのFacebookの手の内にあります。そしてFB株と$FBトークンは同じで1対1です。本当の変化はステップ2で起きます。権力の分散とユーザーへのトークンのアクセスです。

 次のことが同時に起きる必要があります。

ガバナンスの拡散

 コミュニティーがもっとコントロールできるようにガバナンスを変えます。そうすることにより$FBトークンは企業としてのFacebookのコントロールを離れます。キーとなる責任はプロトコルのアップデート(APIの変更)のルールとトークンのガバナンス(金融政策)です。多くのガバナンスモデルが考えられます。

  1. 完全にオンチェーンで自動化する(TheDAOで起きたようにこれはまだ危険)
  2. 20名以上のケアテイカーによる伝統的なノンプロフィットによるコントロール
  3. 伝統的なノンプロフィットからはじめて、徐々に自動化する(私の好きなIPDBのように)
ブロックチェーンを公開する

 誰でも書き込み、読み込みができる。そしてサーバーで動いていない。つまり、Facebookの機能は全てオープンなプロトコルとなります。特にトークンを得た人、使った人にとって。理想的にはFacebookの全てがオープンソースとなることです。クールじゃないですか?新しい環境下においてオープンソース化は企業としてのFacebookのメリットとなるので夢物語以上のものです。ブロックチェーンにおいて価値はそのインプリメンテーションではなく究極的にはファットプロトコルにあります。

過去の貢献に対してトークンを配布

 企業としてのFacebookが追加で30億の$FBトークンを既存のFacebookユーザーに配布します。Facebookの過去の利用に応じてユーザーはリワードされます。全ての過去のポスト、写真の共有、いいねに対して$FBトークンを受け取ることができます。または既存のビジネスモデルでも分散化されたサービスでマーケティング目的でユーザーデータを利用する代わりに$FBトークンを配布することもできます。

将来の貢献に対してトークンを配布

 Facebookが価値を高める行動をしたユーザーに対して$FBトークンを配布するルールを設定します。例えば、写真を投稿すれば$FBトークンを獲得できる。すでにSteemitBraveBasic Attention Token(BAT)のような前例があります。さらに機能追加やパフォーマンス改善の貢献でも$FBトークンを獲得することができます。

 もしこれらが実施されればKrakenやInterledgerのような交換所が$FBトークンを追加することは明白です。ステップ1とステップ2によって株式としてのFBは伝統的な証券取引所から新しい暗号化取引所へ移行します。

 これによって企業としてのFacebookはどうなるのでしょうか?解散が一つのオプションです。$FBトークンを持つ社員はその貢献によってインセンティブが与えられるので大枠では大丈夫なはずですが、いろいろと解決いけないこともあるであろうことは理解しています。もう一つのオプションは企業としてのFacebookがパブリックの$FBブロックチェーンのサービスプロバイダーとなることです。公共の$FBブロックチェーンのサービスを改善することで従業員に代わって$FBトークンを受け取ることができるため、インセンティブが生まれます。もちろん、個人や他の組織も同様にサービスを改善することができます。

 私の例では50%の$FBトークンを既存の株主に、残りの50%をユーザーに分配しました。もちろんこの比率は変えることができます。しかし、経験則として半分というのはよい数字です。落ち着きやすい数字で、不要な議論を避けることができます。

ステップ3:$FBをコミュニティーに溶け込ませる

 このステップは時間とともに浸透していきます。このステップの最初の頃は半数の$FBトークンは既存の株主、残りの半分をユーザーが持ちます。時間の経過とともにユーザーはFacebookの利用とともに$FBを獲得し続け、多くの人が$FBをその購入のしやすさから買い続けます。$FBトークンは広がり続けることになります。

 長い期間保有する人も出てきます。$FBトークンをHODLするようになります。Facebookのマキシマリズム。これ、ここで初めて言ったからね。

解説

  • HODLはビットコインのスラングで「売らずにとっておく」という意味。

 そもそもなんでFacebookの株主がこのような取り組みに賛成するか疑問に思うかもしれません。主な理由はお金を稼ぐためです!それが典型的な株主の主な動機です。 これは大きな価値です。もし企業としてのFacebookがユーザーの利益に反することなく実現する方法を見つけたならば。しかもこれはユーザーにとって自然な関係というだけでなく、ユーザーは貢献によって価値というインセンティブを受け取ります。さらに長期計画の元凶とも言える四半期ごとの収益報告義務から解放され、正しいことを実行できるようになります。その代わりビジネスとコミュニティーのバランスが必要となります。これだけでも価値は二倍以上になり、コストの回収ができます。ボーナス価値としてFB株と比べて$FBを買うことは取引摩擦が低いために流動性が改善されます。最後に誰でもコードベースを改善できるために価値を追加するためのボトルネックが少なくなります。

解説

オリジナルの記事はもっと長くてAmazonやVisaのトークン化のやり方も提案しています。力作ですがタイムリーなネタであるFacebookのトークン化の提案だけ翻訳しました。それ以外は興味があったら読んでみてください。

オープンソース以前でソフトウェアの開発組織が大きく変わったように、トークン化は企業全体を変える可能性があります。Facebookのような大企業がその先鞭をつけたとしたら、その波はかなり大きなうねりとなり多くの企業を巻き込むことになるでしょう。

それにしても、こんな大きな決断ができるとしたらMark Zuckerbergは本当にすごい。Internet Tidal WaveでMicrosoftのインターネットへの転換を図ったBill Gatesを彷彿させるものがあります。

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