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映画『トリとロキタ』レビュー|ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督が描く移民の現実

2022年公開の『トリとロキタ』は、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督による社会派ドラマです。移民問題を背景に「搾取」というテーマを描き、観る者に深い問いを投げかける本作は、監督たちの一貫した作風を引き継ぎながら、現代社会の課題に鋭く迫っています。

あらすじ|密入国者トリとロキタの過酷な現実

物語の主人公は、密入国者としてヨーロッパにたどり着いた少年トリと少女ロキタ。2人は兄妹のように寄り添いながら生活していますが、過酷な環境の中で周囲から搾取される日々を送っています。

生活を立て直すためにお金を貯めようとする2人は、その過程でさらに厳しい現実と向き合わざるを得ません。搾取から抜け出すことを目指す彼らの姿を通して、移民問題の過酷な一面が浮き彫りにされます。

テーマ|移民問題を通して描く「弱さ」と「搾取」

ダルデンヌ兄弟はこれまでも『その手に触れるまで』(2019年)や『ある子供』(2005年)などで社会的な弱者をテーマにしてきました。本作でも、移民という避けられない社会問題を背景に、人間の「弱さ」を描いています。

彼らの作品では、弱者は単なる被害者ではなく、人間としての欠点や判断の誤りを持つ存在として描かれるのが特徴です。本作のトリとロキタも、搾取される悲惨な状況にありながら、時にその状況をさらに悪化させる選択をしてしまいます。観客は彼らに同情しつつも、「なぜこうしてしまったのか」と考えずにはいられません。

キャラクター造形|「弱さ」も含めて人間を描く

トリとロキタは、移民としての厳しい現実に直面する弱者ですが、同時に人間としての弱さも持ち合わせています。そのため、観客は彼らに同情する一方で、時に「もう少し我慢できたのでは」と感じる瞬間もあるでしょう。

こうした複雑な感情を抱かせるキャラクター描写は、ダルデンヌ兄弟の作品ならではの特徴です。単なる被害者としてではなく、弱さを抱えた等身大の人間として描かれることで、観客は彼らの行動を冷静に見つめることができます。

映画技法|客観性を際立たせるドキュメンタリー風の作風

ダルデンヌ兄弟の作品は、ハンディカメラを用いたドキュメンタリー風の撮影手法が特徴です。この技法は観客に安易な共感を許さず、登場人物たちの行動や状況を冷静に見つめさせます。

また、社会問題を扱いながらも、ケン・ローチ監督のような直接的な批判を控え、あくまで登場人物たちの視点を通じて物語を描きます。この客観的なスタイルが、観客に深く考える余地を与えるのです。

まとめ|考えさせられる移民問題の描写

『トリとロキタ』は、移民問題を背景に「搾取」と「人間の弱さ」を描いた社会派ドラマです。ダルデンヌ兄弟の特徴であるドキュメンタリー風の撮影と客観的な描写が、物語に深みを与えています。

登場人物たちの厳しい現実や行動に対して、観客は簡単に感情移入することはできませんが、その分多くの問いを突きつけられる作品です。本作は、現代社会の課題について深く考えるきっかけを与えてくれる一作と言えるでしょう。

トリとロキタ

トリとロキタ

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