今回紹介するベン・スミスの『Traffic』はBuzzFeedの創業者であるジョナ・ペレッティとGawkerの創業者であるニック・ベントンを中心に2000年代初頭に興隆とその没落を群像劇的に描いた作品です。ベン・スミスは元BuzzFeed News編集長だったので、まさにそれを間近で体験してきたのでしょうね。ベン・スミスが直接かかわった時期には一人称が増えていき、自伝のような感じにもなっていきます。
本書の主人公はBuzzFeedの創業者であるジョナ・ペレッティとGawkerの創業者であるニック・ベントンなのですが、その前日譚として保守系メディアのマット・ドラッジの「Drudge Report」を追う形でアリアナ・ハフィントンが「HuffingtonPost」を創業する様子を描きます。そして、マット・ドラッジの下で働いていたけど、Huffington Postの設立にも関わるアンドリュー・ブライトバート(極右メディアの「Breitbart News」創業者)。「フィルターバブル」というソーシャルメディアに対して批判的な言葉を生み出しつつ、自らFacebookのアルゴリズムに依存したメディア「Upworthy」を創業するイーライ・パリサーなど。ジョナ・ペレッティとニック・ベントンはその周辺にいた。
本書の面白いところはインターネットから生まれた新しいジャーナリズムを横軸に、インターネットの評価指標としてのトラフィックの考え方の変遷を縦軸に描いている点です。そして、さらに興味深いのは保守とリベラルのメディアは初期はかなり交流があったこと。思想は違えど「政治ブロガー」というくくりでは同じグループに属している感覚。政治とインターネットメディアの関わりがどのように変わってきたのかも描かれています。
当時から大きなトラフィックソースであったGoogleは2000年からすでにPageRankを公開していましたが、SEOはまだありませんでした。参考となる指標もComscoreがメイン。GoogleがGoogle Analyticsの元となるUrchinを買収したのは2005年ですから。ジョナ・ペレッティSEO的なハックを試み始めた時期です。そして、SEOが注目される中、Facebookが新しいトラフィックソースとして台頭してくる。
GoogleやFacebookからのトラフィックをさまざまなアプローチでハックしてきたのがBuzzfeedやGawkerなどの新しいインターネットメディアでした。New York Timesなどの伝統的なメディアはこの流れに乗れず、存亡の危機にあった。しかし、伝統的メディアも土俵際でインターネット時代に生き延びる方法を見出していきます。トラフィックの獲得はインターネットメディアに倣い、ペイウォールでコンバージョンさせていく。これまでのマネタイズはLexisNexis(データカルテル)とのコンテンツのバルク取引だけで、インターネットでのコンテンツは無料で提供してきた。現在のOpenAIを代表とする生成AIとの著作権をめぐる攻防はこの頃まで遡ることができます。
BuzzfeedやGawkerなどの新しいメディアもトラフィックの変化の影響を受けはじめ、GoogleやFacebookのアルゴリズム変更にインターネットのメディアは翻弄されることになります。コンテンツが大事とは言いますが、その良し悪しを決めるのはアルゴリズムでありプラットフォーム。「バズるコンテンツこそが正義」だったけど、そうではなくなってしまった。そこはジョナ・ペレッティでもニック・ベントンでも抗えない。インターネットも少年期のようないたずらの時代が終わり、青年期に入ったということなんでしょう。
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