2023年公開の『アンダーカレント』は、同名のマンガを原作とした今泉力哉監督による映画です。人と人とのすれ違いや感情の交錯を描く本作は、今泉監督の特徴的な作風が色濃く反映された作品に仕上がっています。
- あらすじ|静かに流れる「見えない感情」をめぐる物語
- テーマ|「表面下の感情」を描く今泉力哉監督の視点
- キャラクター造形|真木ようこの繊細な演技が光る
- 映画技法と演出|原作の良さを生かした今泉監督の作風
- まとめ|今泉力哉監督の色が出た静かな感情の物語
あらすじ|静かに流れる「見えない感情」をめぐる物語
物語の舞台は、父親から譲り受けた銭湯を営む関口かなえ(真木ようこ)が主人公です。かなえは突然失踪した夫・悟(永山瑛太)に心の中で揺れ動きながらも、日々の生活を続けています。そんな中、銭湯で働き始めた堀さん(井浦新)との交流や、夫の失踪をめぐる出来事を通して、登場人物たちの内面に秘められた感情が次第に浮かび上がってきます。
タイトルの「アンダーカレント(潜流)」が示すように、物語は表面には見えない感情や思いを繊細に描き出します。
テーマ|「表面下の感情」を描く今泉力哉監督の視点
今泉力哉監督の作品には、生活音や日常の風景を強調しながら、登場人物のすれ違いや内面の変化を描く独自のスタイルがあります。本作でも、登場人物たちの心の揺れ動きや、相手との距離感がリアルに描かれており、静かでありながら感情に訴える物語となっています。
特に本作では、「見えない感情」が物語の中心となっています。かなえ、悟、堀の3人がそれぞれ秘める思いが徐々に明かされ、観客は彼らの感情の流れに自然と引き込まれます。
キャラクター造形|真木ようこの繊細な演技が光る
主演の真木ようこが演じる関口かなえは、明るく振る舞いながらも内面に影を抱える女性です。その明るい表情の裏に見え隠れする不安や悲しみを繊細に演じ分けており、特に後半で彼女の感情が解き明かされるシーンでは、これまでの演技が大きな説得力を持っています。
また、夫・悟を演じる永山瑛太や堀さん役の井浦新も、それぞれのキャラクターの個性をしっかりと表現しています。特に堀さんの不器用ながらも温かみのあるキャラクターは、物語の中で重要な存在感を放っています。
映画技法と演出|原作の良さを生かした今泉監督の作風
今泉監督の特徴である、日常の何気ない瞬間を切り取る演出や、静かな生活音と音楽の使い方が本作でも活かされています。また、オフビートなストーリー展開と、完全なハッピーエンディングではないものの「行き着くべきところに行き着く」というラストは、彼の近作で見られる傾向を踏襲しています。
原作ありの作品では、監督自身が脚本を手がけた場合に比べて個性が薄れることもありますが、本作では原作の魅力と今泉監督の作風がバランスよく融合しています。
まとめ|今泉力哉監督の色が出た静かな感情の物語
『アンダーカレント』は、人間関係のすれ違いや表には見えない感情を丁寧に描いた映画です。原作を尊重しつつ、今泉力哉監督らしい繊細な演出が光る仕上がりとなっています。特に、真木ようこの演技がキャラクターの内面を見事に表現しており、物語に深みを与えています。
原作の持つテーマと監督の作家性が調和した本作は、今泉監督のファンはもちろん、静かな人間ドラマが好きな方にもおすすめの一作です。