カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画『ベロニカ・フォスのあこがれ』レビュー|ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の遺作

1982年公開の『ベロニカ・フォスのあこがれ』は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の遺作であり、「西ドイツ三部作」の最終章を飾る作品です。『マリア・ブラウンの結婚』(1979年)、『ローラ』(1981年)に続き、戦後復興期の西ドイツを舞台にした本作は、モノクロで撮影されたサスペンス映画として知られています。

あらすじ|過去の栄光に囚われた女優ヴェロニカ・フォス

物語の主人公は、戦前に名声を博したものの、戦後は落魄れた生活を送る元女優ヴェロニカ・フォス。彼女は精神的に不安定で、かつての栄光を忘れられず、薬物依存に陥っています。そんな彼女と出会ったスポーツ記者ロバートは、彼女を取り巻く謎や危険な人間関係に巻き込まれていきます。

物語は、ヴェロニカの過去と現在を対比させながら進行し、戦後復興の中で取り残された存在を描き出します。

テーマ|戦後復興における「取り残された存在」

「西ドイツ三部作」は、戦後復興期の西ドイツを背景に、それぞれ異なる女性像を描くシリーズです。『マリア・ブラウンの結婚』のマリアや『ローラ』のローラは、戦後復興を象徴するような強い女性として描かれていましたが、本作のヴェロニカ・フォスはその対極に位置するキャラクターです。

ヴェロニカは、戦後復興の中で社会に適応できず、かつての栄光にしがみつく「弱い女性」として描かれています。そのため、本作は復興の裏側で失われたものや、取り残された人々への視点を持つ作品ともいえます。ただし、これが戦後復興全体をどう象徴しているのかについては観る人によって解釈が分かれるでしょう。

キャラクター造形|ヴェロニカ・フォスの深い内面描写

ヴェロニカ・フォスのキャラクター造形は、彼女の不安定な精神状態や過去への執着が細やかに描かれており、非常に印象的です。彼女の孤独や痛みが、モノクロ映像の中で一層際立っています。

一方で、周囲のキャラクターは他のファスビンダー作品に比べるとやや印象が薄く感じられるかもしれません。特に、彼女を支えたり利用しようとする人物たちの描写が比較的シンプルで、全体的な深みを欠いているという意見もあるでしょう。

映画技法と演出|モノクロ映像によるスタイリッシュなサスペンス

『ベロニカ・フォスのあこがれ』はモノクロで撮影されており、その映像美が物語の雰囲気を強く支えています。ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』のようなハリウッド映画へのオマージュを感じさせつつ、探偵映画の要素を取り入れた演出が特徴です。

ファスビンダーらしいスタイリッシュな構図や映像表現は健在ですが、前衛性は控えめで、作品全体としてはオーソドックスなサスペンス映画の趣が強いと言えます。

まとめ|ファスビンダー監督の最後の試み

『ベロニカ・フォスのあこがれ』は、戦後復興期の西ドイツを背景に、かつての栄光に囚われた女性の悲劇を描いたサスペンス映画です。過去の作品と比べて特別感や鮮烈さには欠けるものの、モノクロ映像やスタイリッシュな演出が観る人を引き込みます。

ファスビンダー監督の他作品と比較すると、賛否が分かれる部分もあるかもしれませんが、彼の遺作として観る価値のある一作です。戦後復興や社会から取り残された人々の物語に興味がある方におすすめです。