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『私たちのオカルティックサマー』映画レビュー|初期衝動が詰まった青春ホラー

『私たちのオカルティックサマー』は、樋口翔一監督が大阪芸術大学映像学科の卒業制作として制作した青春ファンタジーホラー作品です。十三下町映画祭でグランプリと観客賞を受賞したことで、劇場公開に至りました。約63分という長編作品としては短い尺の中にやりたいことをすべて詰め込んだ感じの、初期衝動が詰まったような作品となっています。

あらすじ|学校の怪談と失踪事件の真相を追う

物語は、清水夏希(橋口果林)が姉の突然の失踪に直面する場面から始まります。夏希は姉の行方を追ううちに、学校で囁かれるプールの幽霊の噂にたどり着きます。この噂が姉と関係しているのではないかと考えた彼女は、真相を探るためにオカルト研究会に入部します。

部長の前田真嗣(木林優太)、巫女の家系に生まれた花京院千尋(吉岡杏莉)と共に調査を進める中で、次第に現実とは思えない怪奇現象に巻き込まれていきます。最初は軽い興味から始まった活動が、やがて恐怖と不安に満ちた展開へと変わっていきます。

テーマ|テーマよりもやりたかったこと

『私たちのオカルティックサマー』は、青春映画とホラー映画を掛け合わせた青春ホラー映画です。「こういう映画を作りたい!」という想いが先にあり、それを60分という尺の中に詰め込んだような作品です。そういう意味では、テーマ性はあまりないように思えます。

青春映画といっても、今どきの令和のオシャレな青春映画とは違います。平成の視点から見た昭和アニメのような「青春」です。昭和アニメ的な青春とは、例えば『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のような不条理青春です。そして、平成の視点とは『フリクリ』や『化物語』のような昭和不条理アニメを新しい感性でアップデートした感じです。

それにさらにホラーの要素を加えるのですから、そこに更にテーマを乗せると消化不良を起こしてしまうのだと思います。やりたいことをとにかく詰め込むという意味では、若さゆえの初期衝動が詰まった表現を出し切っています。

キャラクター造形|クセの強いキャラに囲まれた主人公

キャラクター造形の中心は、主人公の清水夏希(橋口果林)、オカルト研究部の部長の前田真嗣(木林優太)と部員で巫女である花京院千尋(吉岡杏莉)が中心となります。オカルト研究部のメンバーは、不条理アニメの登場人物がそのままスクリーンに飛び出したように非常にクセが強いです。特に花京院千尋の「〇〇ですわ」のようなお嬢様口調は典型的な漫画キャラクターです。

その分、主人公の清水夏希の普通っぽさが際立ちます。これも不条理アニメ/マンガの鉄板設定ですよね。周りがクセが強いので、ストーリーの中心となる主人公を中心に話が進みやすい。そのため、姉との関係を含めたホラー要素を主人公が引き受けています。

映画技法|コダワリが詰まった映像と音響

樋口翔一監督が一番やりたかったのは構図のコダワリなのではないかと思います。昭和や平成の不条理アニメのような変わった構図やカット割りが多く登場します。話よりも構図が気になってしまうくらい、過剰な演出。そういう意味でも「やりたいこと」を詰め込んだ作品ともいえます。

一方で音声については一般的な邦画よりも丁寧に扱っています。多くの邦画はセリフが聞き取れないものが非常に多いです。このような問題はポストプロダクションで修正できるものなのですが、様々な事情(もしくは無関心)でそのまま上映されてしまうものが少なくありません。本作は録音とポストプロダクションがしっかりしているのか、セリフが聞き取りにくい部分がほとんどありませんでした。

まとめ|初期衝動が生み出した愛すべき青春ホラー

『私たちのオカルティックサマー』は、樋口翔一監督の「こういう映画を作りたい!」という純粋な創作意欲が結実した作品です。昭和アニメの不条理な青春観を平成的感性でアップデートし、そこにホラー要素を掛け合わせるという野心的な試みは、63分という短い尺の中に詰め込まれることで独特の密度感を生み出しています。クセの強いキャラクターたちに囲まれた等身大の主人公、過剰とも言える構図へのこだわり、そして丁寧な音響処理まで、全てが監督の強いこだわりを反映した表現となっており、テーマ性よりも表現への情熱が勝った、ある意味で贅沢な作品と言えるでしょう。

大学の卒業制作から劇場公開まで押し上げた十三下町映画祭での受賞は、この作品が持つエネルギーと魅力を証明しています。完成度の高さよりも初期衝動の純粋さが際立つ本作は、現在の洗練された映画作りとは対極にある、むしろ懐かしささえ感じる手作り感が魅力となっています。監督の「やりたいこと」が溢れ出すような表現力は、今後の樋口翔一監督の成長と、今後への期待を抱かせる、記念すべきデビュー作として位置づけられるでしょう。