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書評|日本ではわかりづらいRedditを理解するためのテキスト|"We Are the Nerds" by Christine Lagorio-Chafkin

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Redditって有名だし、英語圏でビジネスをするならチャネルとしても無視できない。2019年1月時点でのAlexaのランキングでは18位。FacebookやTwitterのような定番以外にグロースハックをやるならRedditは検討しなければいけないチャネルの一つです。Reddit hug of deathというくらい、Redditで注目されればサイトがダウンするくらいトラフィックがきます。中国語ならWeiboを理解できないといけないのと同様な意味で、英語でビジネスをするならRedditを理解できないといけない。

今回紹介する"We Are the Nerds"は共同創業者の二人であるスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心として創業から現在までを振り返る構成となっています。正直にいえば、前半は登場人物がうまく描ききれていないし、後半はあまり面白くありません。それでも、ここまで詳しくRedditの歴史を追った本はないので、Redditを理解するテキストとして非常に有効です。

We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet's Culture Laboratory (English Edition)

We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet's Culture Laboratory (English Edition)

そもそもRedditってなに?

Redditは日本語版がないので日本人にはあまり馴染みがありません。簡単にいえばコメント機能が充実したはてなブックマークです。自分が気になるリンクをRedditに投稿して、それについてユーザーがコメントする。そのリンクに投票することもできて、高い投票を獲得したリンクが上の方に表示される。Redditにはカルマポイントというポイントシステムがあって、投票などでカルマポイントが増える。これがユーザーにRedditを使ってもらうインセンティブになっているわけです。

匿名性の高いアクティブなコミュニティーを形成しているのがRedditの特徴です。雰囲気としては日本の2ちゃんねるに近いかもしれません。2ちゃんねるで「ジャンル」と呼ばれるものはRedditではsubredditに近い気がします。そして、各ジャンルの下に「板」がたつ。それでも、Redditはユーザーのハンドル名があるし、完全に匿名とも言い切れません。また、コミュニティーマネージャーが存在して、各subredditにはユーザーによるボランティアの管理人もいます。2ちゃんねるとはやはり違います。英語で2ちゃんねるに近いのは4chan8chanですね。

Redditのはじまり

スティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは後にY Combinatorを立ち上げるポール・グラハムに心酔していて、わざわざ講演を聞きにボストンまで出かけて行き、自分たちのスタートアップアイデアをピッチしました。この時はまだY Combinatorを立ち上げていなかったのですが、この出会いがきっかけでY Combinatorの最初のバッチにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは補欠で選ばれます。本当は落ちていて、失意のまま電車で帰る途中だったのですが、当時、Y Combinatorを一緒に立ち上げた彼女のジェシカ・リビングストンに「え?あの子達いいじゃない!」という鶴の一声で呼び戻されました。スタートアップアイデアが認められたというよりも、二人の将来性が認められた形でした。

RedditのアイデアはY Combinatorの期間中にポール・グラハムも関わり合いながら形成されました。当時はブックマークサービスのdel.icio.us(はてなブックマークの元ネタ。紆余曲折を経て実質的に2017年終了)や掲示板サイトのSlashdotが人気でした。ポール・グラハムのモットーは「あまりイカしていないそこそこのサービスを最高のサービスにブラッシュアップさせろ」でした。del.icio.usもSlashdotも人気はあったのですが、まだまだ改善する余地がある。そうして生まれたのがRedditのアイデアだったそうです。

インターネットコミュニティーと企業文化

サービスとしてのRedditと2ちゃんねるの違いより、それを運営する企業文化の違いの方が大きいと思います。両方ともプラットフォームであり、そこでユーザーが何をやらかしても自由という精神で運営されています。リバタリアン思想。「メディアではなく、プラットフォーム」という位置付けは責任回避にも都合がいいので、FacebookもTwitterも同じ姿勢を取っています。いわゆるソーシャルメディアやソーシャルニュースは「完全自由」と「完全管理」で白黒くっきり別れるわけでなく、様々な濃淡のグレースケールのどこかに位置する感じとなります。大手になるほど管理が強くなります。2ちゃんねるは完全自由に近いですよね。Redditも当初は完全自由だったのですが、大手出版社のConde Nastに緩やかにではありますがコンテンツの管理をするようになります。そういう意味ではニコニコ動画に近いんじゃないかと思います。

Reddit(2005年6月)より半年先がけてDigg(2004年11月)がローンチして人気が出ます。RedditとDiggは非常に似ていました。着想自体はほぼ同時期なのですが、人気はDiggの方が高かったためにRedditは模倣サイトとみられることも少なくなかったそうです。Redditは2006年10月にConde Nastに買収されたのですが、Diggは2012年でした。

結局、DiggはRedditに抜かれてしまうのですが、これも企業文化なのかなと思える部分があります。Conde NastはRedditをほぼ自由に運営させていましたが、投資もほとんどしなかった。スタッフは本当に最小限。それに比べるとDiggは2005年、2006年のシリーズAとBの後、2008年に日本円で30億円近い資金を調達しています。そして、2010年に大規模なデザインのリニューアルを行うのですが、これがユーザー離脱の原因となってしまいました。コミュニティー運営って難しいですよね。

経営と運営の違い

Redditが2006年にConde Nastに買収された後も、彼らが引退する2009年までスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心としたコミュニティー運営母体としての色合いが強かった印象を受けます。コミュニティー運営のための決断(主にオハニアン)や開発上の決断(主にホフマン)はしますが、経営上の決断はほとんどしていません。

経営判断をするようになったのはPayPalマフィアの一員でFacebookでもディレクターとして機械翻訳プロジェクトなどで成功したイーシャン・ウォンがCEOになってからでしょう。ただ、経営者としてあまり有能ではなく、経営者(=経営)と現場(=運営)の乖離が大きくなってしまいました。その後任のエレン・パオもそれはあまり大差がなく。Redditの経営は全くうまくいってませんでしたが、運営はできていた。経営の役割って一体なんだろう?と考えさせられます。

この本はどんな人にオススメか

英語圏でビジネスをやる人は読んだ方がいいでしょう。インターネットコミュニティーが何にどのように反応するのか、Redditで実際に起きた出来事はコミュニティー運営の共有知となっています。ストライザンド効果なんて代表例ですね。

ソーシャルニュースサイトにおけるオープンソース(Redditのコードはオープンソースとして公開されていた)の意味とか、ImgurなどRedditのコバンザメとして発展してきた外部サービスとか。まあ、実際にRedditを使ってみるのが一番ではあります。

ただ、(個人的な感想ではありますが)著者が読者をぐいぐい引っ張っていく力量がないため、ストーリーとしてあまり面白くない。感情移入しにくいんですよね。本来ならエレン・パオがCEOになってからの彼女の戦いはスタートアップのジェンダー論争にとって重要な意味があるのですが、そこまでたどり着くまでなかなか苦痛です。エレン・パオが辞めたあとにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンがRedditに復帰するのですが、ぶっちゃけそこまで読めていません。