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『邪悪なるもの』映画レビュー|デミアン・ルグナ監督が仕掛ける不気味なエクソシスト・ホラー

アルゼンチンのデミアン・ルグナ監督によるホラー映画『邪悪なるもの』は、スプラッタとゴシック要素が融合したエクソシスト系の恐怖作品です。2025年1月31日に日本公開予定ですが、筆者は先行してBlu-rayで鑑賞しました。恐怖の根源を徹底的に曖昧にすることで観る者を追い詰める本作は、ホラー耐性がある人でも驚かされる。特にある場面がもう……

あらすじ|悪魔憑きと7つのルール

物語は、徐々に腐敗していく「悪魔憑き」の存在が発見されるところから始まります。悪魔憑きは、悪魔に取り憑かれることで肉体が変化し、周囲に伝染する危険な存在です。そのため、彼らを処理するための「7つのルール」が存在し、徹底的に実行されなければなりません。

主人公ペドロとその仲間ジミーは、ある日悪魔憑きの存在を発見し、ルールに従って事態を収束させようとします。しかし、その過程でペドロの判断ミスや隠された事情が次々と事態を悪化させ、彼ら自身が恐怖の渦に巻き込まれていきます。

テーマ|説明されない恐怖と人間の不安

本作の恐怖の本質は、「説明されないもの」への恐怖です。悪魔憑きが何であるのか、なぜ存在するのかといった根本的な理由は全く語られません。スティーブン・キングの作品を彷彿とさせるこの理不尽さが、人間の想像力を刺激し、恐怖を倍増させます。
人は理解できないものに本能的な不安を抱きます。本作はその感情を巧みに利用し、観る者に説明を与えることなく、状況だけを突きつけてきます。その曖昧さが、映画全体の雰囲気をさらに不気味なものにしています。

キャラクター造形|ペドロの悪手

主人公のペドロは、善良な人物であるにもかかわらず、その決断や行動が次々と状況を悪化させます。ジミーと共に悪魔憑きを処理しようとしますが、物語が進むにつれてペドロのミスが露呈し、結果として悲劇的な展開を招くことになります。

このキャラクターは、観客に共感を抱かせる一方で、恐怖の中心としての役割も果たします。「だいたいペドロが悪い」という感想が出てしまうほど、彼の判断が物語の進行に大きく影響を与えています。

映画技法|絶え間ない緊張感とジャンプ・スケア

『邪悪なるもの』は、演出と技法の巧妙さが際立つ作品です。観客に常に「何か悪いことが起きそうだ」という不安を植え付け、ジャンプ・スケアを効果的に利用しています。恐怖が来ると分かっていても、その瞬間には思わず「ヒィ!」と声を上げてしまうほどの緊張感があります。

また、暗い照明や腐敗した肉体のデザイン、音響効果などが、視覚と聴覚の両面から観客を恐怖の世界に引き込みます。画面の隅や背景に配置された不気味なディテールが、映画全体の恐怖感を増幅させています。

感想|「わからないから怖い」を極めたホラー

『邪悪なるもの』は、観る者に恐怖の理由を説明することなく、ただその存在を突きつけてきます。それが本作の強烈な個性であり、観客に深い不安を植え付けるポイントです。スティーブン・キング作品を思わせる理不尽な恐怖の描写は秀逸で、ホラー映画ファンにとって大きな魅力となるでしょう。

ペドロの判断ミスや、悪魔憑きの7つのルールといった設定が物語の核をなしており、それらが絡み合って展開するストーリーは一気に引き込まれます。ホラー耐性があると思っていても、本作の緊張感とジャンプ・スケアには驚かされるはずです。

まとめ|理不尽な恐怖の傑作

『邪悪なるもの』は、ホラー映画としての完成度が非常に高く、観る者を理不尽な恐怖の世界に引き込みます。スプラッタ描写やゴシックな雰囲気、説明されない不気味さが特徴的で、ホラー映画ファンには必見の一作です。理不尽で曖昧な恐怖を突きつける本作は、人間の本能的な不安を掻き立てる秀逸なホラー映画として記憶に残るでしょう。