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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|地道に働き続ける連邦政府職員のルポタージュ集|"Who is Government?: The Untold Story of Public Service" by Michael Lewis

アメリカの連邦政府職員が大量解雇されるニュースが世界中を駆け巡っています。イーロン・マスクを筆頭とする政府効率化省(DOGE: Department of Government Efficiency)」が主導する政府改革は、「無駄と不正と乱用」を取り除くという名目で進められています。その背景にあるのはアメリカのかなり高い一人当たりの税収入($20,436)にあると考えられます。フランスやドイツと同程度で、イギリス($17,229)より若干高い。日本($11,709)と比べるとだいぶ高いのがわかると思います。税制度は社会福祉も含めて単純に比較できるものではないのですが、アメリカの人たちが政府の税支出に厳しい目を気持ちは分かります。

とはいえ、すべてを民営化すればいいという極端な自由主義(無政府主義)に振り切るわけにもいかず、そのバランスを常に探していく必要があるのだと思います。マイケル・ルイスと6人の著名な作家が編んだ『Who is Government?: The Untold Story of Public Service』は、まさにDOGEが多くの政府職員の粛正に動いている、このタイミングで出版され、政府職員の知られざる姿を描き出しています。

ベストセラー『マネー・ボール』や『ビッグ・ショート』などで知られるマイケル・ルイスは、2018年に出版した『The Fifth Risk』で、第一期トランプ政権下における連邦政府の現場を描き、半年で50万部を売り上げました。今回の『Who is Government?』は、その続編とも言える企画で、ルイス自身が「The Avengers(アベンジャーズ)」と呼ぶ6人の優れた作家たちと共に、ワシントン・ポスト紙に連載された記事をまとめたものです。

複数のレポートの中でやはり一番目を引いたのがルイス自身が取材したクリストファー・マークでした。労働省で炭鉱の安全対策を革命的に改善し、何千もの生命を救った人物です。民間ではなく行政がである仕事をまさに代表している事例だと感じました。

炭鉱の仕事は危険が常に伴い、毎年死亡事故が多い業界です。しかし、どの企業も安全に投資したがらない。安全につながる発見をしたとしても、それがライバル企業のメリットにもなってしまう。だったら政府がやるしかない。

また、クリストファー・マークの仕事は非常に長期間にわたる調査に基づいて作り上げられたもので、これも民間企業で続けられるものではなかったでしょう。安全基準の数値化をしても、それは炭鉱の地理によって異なる。それをアルゴリズムで計算できるようにした。数十年かかった。

先日紹介したエズラ・クラインとデレク・トンプソンの『Abundance』では行き過ぎた規制が批判されているわけですが、当然ながら意味のある規制は多いわけで、それを忘れてはいけないのだと思います。新薬の開発に関してアメリカ政府はエズラ・クラインとデレク・トンプソンから批判されているわけですが、マイケル・ルイスはアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)が迅速な認可で人命を救った事例を紹介していたりもします。エズラ・クラインとデレク・トンプソンも超法規的措置で行政プロセスを短縮させた事例を紹介していて、行政だってやればできるんだからしっかりやれよということなんでしょう。

アメリカには230万人もの連邦職員がいるそうですが、すべてが意味のない無駄な仕事をしているわけではない。これは優秀な人もいれば、優秀ではない人もいる。それは民間だろうと行政であろうと変わらないのだと思います。DOGEが実施している自主退職制度では最も優秀な公務員から去っていくという皮肉な状況を引き起こしています。

それ以外にもジェラルディン・ブルックスが紹介しているアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)のなかにある犯罪捜査部(IRS-CI)については興味深かったです。シルクロードのロス・ウルブリヒト逮捕にも大きな役割を果たしましたし、暗号資産取引所Binanceに対する捜査においてもその存在感を示しました。

一方で、それら以外は「重要なのは理解できるけど、どこまでそこを頑張るべきなの?」と疑問に思ってしまうことも少なくなかったです。存在すべきだけど、その大きさに関しては議論の余地はあると感じました。アメリカ航空宇宙局(NASA)の全般的な活動にしてもそうですし、米労働省労働統計局(BLS)がまとめている消費者物価指数(CPI) についてもそうです。アメリカ国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration)も同様です。

アメリカには「パートナーシップ・フォー・パブリック・サービス」という非営利団体があって、行政におけるベストプラクティスを表彰しているそうです。行政がやっていることがすべて完璧なわけではないですし、かといってすべて無駄なわけではない。政権が変わったから増やしたり減らしたりするものではなく、きちんと評価する仕組みがあることが重要なんだと思いました。