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『ファーストキス 1ST KISS』徹底解説|人生の選択と結果、そしてその意味

『ファーストキス 1ST KISS』は、『花束みたいな恋をした』(2021年)や『怪物』(2023年)を手掛けた脚本家・坂元裕二と『ラストマイル』(2024年)に『映画 グランメゾン★パリ』(2024年)と立て続けにヒットを飛ばしている監督・塚原あゆ子が初めてタッグを組んだ作品です。

事故で夫を亡くした女性・硯カンナ(松たか子)が、偶然手に入れたタイムトラベルの力を使い、過去の夫・駈(松村北斗)と再び出会い、彼の運命を変えようと奮闘する物語です。

注意:徹底解説なのでこのレビューは多くのネタバレ要素を含みます
監督が意図しているテーマなど自分で探したい人にはオススメしません。観終わった後に、答え合わせに読むことはとてもおススメです。

あらすじ|過去を変えれば未来を変えることができるのか

硯カンナ(松たか子)は、結婚15年目にして夫・駈(松村北斗)を突然の電車事故で失います。長年の倦怠期を経ていた夫婦関係の中で、彼の死を受け入れようとするカンナでしたが、ある日、突如として2009年8月1日、15年前の世界にタイムスリップしてしまいます。

そこには、29歳の若き日の駈がいました。過去に戻れる方法を知ったカンナは、駈の死を回避するために何度も過去を書き換えようと奮闘します。しかし、どれだけ努力しても未来は変わりません。さらに、過去の駈はカンナに惹かれていき、二人の関係は思わぬ方向へと進んでいきます。

テーマ|人生の選択と結果と意味

本作では、タイムトラベルを通じて「愛する人を救いたい」という切実な願いが描かれます。カンナは過去に戻り、若き日の駈と再び出会い、彼を救おうとします。しかし、坂元裕二は最初にテーマを明らかにしません。倦怠期で離婚するまで冷え切った関係だった夫をなぜそこまでして救おうとするのか?

結婚で冷え切った関係は同じく坂元裕二『花束みたいな恋をした』(2021年)でも描かれていましたが、『花束みたいな恋をした』ではその過程が丁寧に描かれていました。本作ではその過程が最初に描かれていないので、妻である硯カンナの動機が観客には見えない仕組みになっています。

しかし、物語の後半で夫である駈(松村北斗)の視点からテーマが急に浮かび上がってきて物語にカタルシスをもたらします。それがテーマの一つである結婚生活の複雑さや、日常の中に潜む些細な幸せの尊さです。カンナは様々な選択を変えることで結果を変えようとしました。駈もカンナと同じように選択を変えて結果を変えようとします。そして、その選択と結果は「人生の意味」というさらに深いテーマに導かれていきます。

キャラクター造形|時間を超えて交差する二人の想い

『ファーストキス 1ST KISS』では、塚原あゆ子監督と坂元裕二脚本家によって、硯カンナと硯駈が複雑で多面的な人物として描かれています。タイムトラベルというファンタジー要素を背景にしながらも、彼らの感情の変化や関係性のリアリティが丁寧に表現されています。

硯カンナ(松たか子)|愛と後悔の狭間で揺れるヒロイン

松たか子は、カンナの感情の移り変わりを繊細に演じ分けています。現在のカンナは喪失感を抱えながらも前向きに生きようとする強さを持ち、過去のカンナは年齢のギャップを感じながらも、駈との恋にときめきを覚える姿がリアルに描かれています。また、コメディ要素を取り入れた演技によって、重いテーマを扱いながらも観客を楽しませるバランスの良いキャラクターを作り上げています。

松たか子は29歳のカンナと45歳のカンナを見事に演じ分けています。松たか子は47歳なので45歳の現在のカンナと近い年齢です。しかし、若いころの松たか子を知っている世代にとって、29歳のカンナは昔の松たか子がよみがえったような印象を受けるでしょう。メイクや特殊効果の力もありますが、29歳のまぶしく輝く松たか子と45歳のコミカルでかわいらしい松たか子は駈が恋に落ちる説得力を持たせるに十分な演技でした。

硯駈(松村北斗)|知的で情熱的な青年

松村北斗は、若き日の駈と15年後の駈を見事に演じ分け、彼の成長と変化をリアルに表現。研究者としての知的な一面と、恋に落ちる素直な一面の両方を巧みに演じることで、駈の魅力を引き立てています。特に、カンナに対する感情が徐々に変化していく過程を、自然な演技で見せており、観客が彼の気持ちに共感できるようになっています。

松村北斗もまた29歳の駈と45歳の駈を見事に演じ分けています。松村北斗は実年齢も29歳ですが以前の主演作である『夜明けのすべて』ともまた違う、恐竜が好きな少年らしさが残る演技で駈が本来持っている純粋さを表現しました。45歳の駈も松たか子と同様にメイクや特殊効果の力もありますが、駈の行きついた最後の選択の重みを受け止めることができる演技でした。

映画技法|時間の演出、切なさとコメディのバランス

塚原あゆ子監督は、『ファーストキス 1ST KISS』のテーマを際立たせるために、光や時間の演出を巧みに駆使しています。

最も時間を表現する演出は硯カンナ(松たか子)と硯駈(松村北斗)の年齢です。過去が29歳、現在が45歳の設定になっています。松たか子と松村北斗の演技分けの要素も大きいですが、メイクや特殊効果がとても自然に使われて違和感なく観客を過去と現代の世界に入れるような演出がなされています。

時間を表す演出として光の使い方も本作の象徴的な要素の一つです。特にロープウェイのシーンでは、柔らかな光に包まれたカンナと駈の姿が幻想的に描かれ、「瞬間と永遠」というテーマを視覚的に表現しています。タイムトラベルの描写も独創的です。過去への移動は、首都高の三宅坂ジャンクションや千代田トンネルの「光の中で道を曲がる」シーンを通じて表現され、単なる時間移動ではなく、「この瞬間」の重要性を強調しています。

また、本作は会話劇を重視し、坂元裕二の脚本による言葉がねられた台詞が、恋愛や結婚の核心に迫ります。さらに、松たか子の演技を活かしたコメディ要素が織り交ぜられ、重いテーマの中にも笑いや温かみが感じられるバランスの良い演出となっています。

これらの技法により、監督は「瞬間と永遠」「愛の複雑さ」「人生の選択」というテーマを繊細かつ力強く表現し、観客に深い感動と内省を促す作品を作り上げています。

まとめ|感動だけでなく人生を考える重みももった作品

『ファーストキス 1ST KISS』は、時間を超えた愛の物語として、多くの人々の心に響く作品です。過去と現在を行き来する中で描かれる夫婦の絆や、日常の中にある幸せの再発見が、観る者に深い感動を与えます。大切な人と一緒に鑑賞し、愛の形や時間の大切さについて語り合いたくなる一作です。