コンマリこと近藤麻理恵さんはすごいですよね!アメリカでも大人気です。アメリカの価値観の基本は「消費」であり「ショッピング」です。足し算の生活。コンマリはスパーク・ジョイ(心がときめく)という非常にわかりやすいキーワードで断捨離(引き算の生活)というカルチャーシフトを紹介しました。コンマリはアメリカ人にとってはまさに「目から鱗」だったんです。
ソーシャルメディアとスマホもカルチャーチェンジでしたが、これもアメリカ特有の足し算の生活の延長線上ですし、アテンションの消費でした。カルチャーシフトとまではいかない。そんなデジタルな世界にデジタル断捨離(というかデジタル・コンマリ)をもたらそうとしているのが今回紹介するカル・ニューポートによる著書"Digital Minimalism"です。
なお、2019年2月のデジタル系書籍のベストセラー第1位であるこの"Digital Minimalism"も、前回紹介した"The Age of Surveillance Capitalism"の文脈で書かれています。「監視資本主義」から離れてより人間らしく暮らすにはどうしたらいいかという具体的な手法を提案しています。(2019年10月3日に日本語版が出ましたね)
- 作者: カル・ニューポート (著), 長場 雄 (イラスト), 佐々木 典士 (その他), 池田 真紀子 (翻訳)
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/10/3
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Digital Minimalism: Choosing a Focused Life in a Noisy World
- 作者: Cal Newport
- 出版社/メーカー: Portfolio
- 発売日: 2019/02/05
- メディア: ペーパーバック
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デジタル・デトックスとデジタル・ミニマリズムの違い
デジタル・ミニマリズムの話をするとかなりの確率でデジタル・デトックスと混同されるので、まずこのふたつの違いから解説します。
デトックスは体から有害な毒素を排出させることです。溜まった毒を抜く。生活を改善しなければまた毒素はたまり、デトックスしなければいけません。デジタル・デトックスも一時的にデジタルの世界から離れてデジタルの毒素を抜くことを指します。生活を改善しなければデジタルの毒素はまたたまり、デジタル・デトックスしなければなりません。
デジタル・ミニマリズムはデジタルの生活習慣自体を見直して、デジタルに使っていた時間をより有意義な時間に使うことです。一時的なものではなく、長く続く習慣を身につけることを目的としています。
デジタル・ミニマリズムと断捨離の共通点
デジタル・ミニマリズムはむしろ断捨離に似ています。デジタル断捨離です。
断捨離は不用なモノを減らし、生活に調和をもたらすという思想です。
デジタル・ミニマリズムは不要なコトを減らし、生活に調和をもたらす思想です。
三つの前提条件
カール・ニューポートはデジタル・ミニマリズムを実行する上で三つのポイントを紹介しています。
- 散らかっている心理的コストは高い(Cluttering is expensive)
- 優先順位付けが大切(Prioritization is important)
- 意識的に行うことで満足感が得られる(Intentionality is satisfying)
この三つのポイントもコンマリの「人生がときめく片づけの魔法」に似てると思ったんですよね。Clutteringとは英語で散らかっていること。整理整頓の「整頓」は散らかっている状態を捨てることで散らかっていない状態にすることで、英語ではDeclutteringと言います。ちなみに整理はOrganizingですね。整理整頓は合わせてDecluttering and organizingです。コンマリの著書『人生がときめく片づけの魔法』の英訳タイトルにも入ってますね。
- 作者: Marie Kondo
- 出版社/メーカー: Ten Speed Press
- 発売日: 2014/10/14
- メディア: ハードカバー
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- 作者: 近藤麻理恵
- 出版社/メーカー: サンマーク出版
- 発売日: 2010/12/27
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整理整頓する上では捨てる基準が大切になってきます。これが優先順位ですね。カール・ニューポートはOptionalなものは全て捨てて、必要なものだけを残そうと言います。コンマリはもっとシンプルで「心がときめくモノ」だけ残そうですよね。ここまでズバリと言えないのがカール・ニューポートの惜しいところです。まるまるパクってFacebookは心ときめく?いや、ときめかない!(Facebook, does this spark joy? No!)みたいにすればいいのに。優先順位づけをパーソナルに保ちつつ、基準をわかりやすくしたコンマリは偉大だと改めて思います。
断捨離で「心ときめくモノ」だけ残った生活が幸福感・満足感を得やすいように、デジタル断捨離で「心ときめくコト」だけ残った生活はさらに幸福感・生活感を得やすいというのがカール・ニューポートの言いたいことなんだと思います。
断捨離オリジンとしての『ウォールデン/森の生活』
ちなみにカール・ニューポートがリファレンスとして使っているのは近藤麻理恵さんではなくて、ヘンリー・ソローの『ウォールデン/森の生活』です。これはこれで興味深いです。デジタル対民主主義の文脈でソローはよく引用されるからです。"The Age of Surveillance Capitalism"で強化理論により行動データを取得するためにプライバシーを犠牲にするのはやむなしという論調を作り上げた大元として糾弾されているバラス・スキナーの著作で監視資本主義の未来を描いたディストピア小説(本人はユートピア小説だと思ってた)に『ウォールデン2』というのがあるんですよね。
- 作者: B. F. Skinner
- 出版社/メーカー: Hackett Pub Co Inc
- 発売日: 2005/07/31
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ソローは森の生活の中で新しい独自の経済学を構築しました。経済というのは価値の交換ですよね。一般的な経済学の価値とソローの経済学での価値は違います。一般的な経済学の価値は足し算です。例えばカバン。エルメスのカバンとグッチのカバンは同時に所有できます。二つあれば価値が増えます。ソローの経済学の価値は引き算です。最も価値が高いのは自分自身の時間です。エルメスとグッチのカバンを得るために自分の労働時間が消費されます。自分の時間の対価としてどれくらい価値があるかどうかが判断基準となります。自分の時間は最も価値が高いので、それを消費しない方が価値が高いと言えます。
ソローはこの経済学を実践するために森の生活をおくりました。必要最低限の生活をするためのコストから必要な収入を導き出しました。そういう意味では断捨離オリジンと言える人です。
- 作者: ヘンリー・D.ソロー,Henry David Thoreau,今泉吉晴
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/08/05
- メディア: 文庫
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この本で紹介されていた面白い事例
ここまで書くと残りの内容をサマリーするのも面倒なので、面白かった事例のリンクだけ自分用のメモとして残しておきます。
- ソーシャルメディアを使うほど孤独を感じるという調査結果
- Financial Independent Movement(事例:Mr. Money Mustache)
- デジタルはアナログでやりたいことを補完することに有効(事例:Mouse Book Club)
- デジタル断捨離に役立つツール(Freedom.to)
この本はどんな人にオススメか
ボク自身は週末カレー屋をやったり、バンドをはじめたりでオフラインでの活動が増えてきていて、この本を読む前から必然的にオンラインでの活動が減ってきています。去年くらいからFacebookはほとんど使ってなかったですし、Twitterもこのブログのエゴサーチをするくらいにしか使っていませんでした。オフラインの活動が増えるほどに幸福度が増えてきていることは実感できます。この本を読んでから多くのSNSのアカウントを削除してしまいました。NewsPicksやニュース系のアプリもスマホからアプリを削除しました。スマホからアプリを削除するだけで随分と効果があります。
もちろん、デジタルが悪いというわけではないし、むしろデジタルは補完的な役割として積極的に利用しています。Instagramは美味しいカレー屋を発見するのにとても役立っています。本を読む手段としてAudibleとScribdも毎日使ってますし、NetflixもSpotifyもボクの映画生活と音楽生活を豊かにしてくれます。ギターの練習にUltimate Guitarは手放せません。耳コピできるほど上級者ではないので。もちろん、カタパルトスープレックスはボクにとってスパークジョイなので続けています。
「心ときめく」を基準としてスパークジョイするデジタルツールだけを残せばいいのです。そのガイドとしてこの本はオススメです。併せて近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』もいいかなと。