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アメリカのデジタル公共サービスの夜明け - オバマケア立ち上げ失敗、18F誕生の前日譚とCode for America

Mangrum and Otter Building 1235 Mission Street

1235 Mission Streetにあるサンフランシスコのフードスタンプオフィス(通称:1235)

原文:""People, Not Data - On disdain and empathy in Civic Tech" by Jake Solomon, Jan 6, 2014

 ここはサンフランシスコの大きなフードスタンプオフィスです(フードスタンプは低所得者に配給される金券。スーパーマーケットなどで食料品を買うことができる)。通称1235。1235 Mission Streetにあるから。私がはじめてここを訪れたのは2013年2月7日木曜日でした。コンクリート柱を通り抜け、二人の警備員が立っている金属探知機を通過。書類が散らかったテーブルの横を通り、ようやく待合室にたどり着きました。とても騒がしかった。天井のスピーカーの声がリノリウムの床に反響して響き渡る。サービスカウンターBと呼ばれる大きなカウンタートップに大勢が並んでいました。

 背の高い黒人男性が列の先頭にいます。彼は前かがみになって手をカウンターにおきました。厚くて曇った防弾ガラスシートが彼とワーカー(福祉サービスのソーシャルワーカーのこと)を分け隔てていました。彼らはガラスに取り付けられたひょろ長い会議用のマイクを通じて会話をしていました。彼はワーカーとのマイク越しの会話が聞き取りづらくて困っているようでした。マイクをつかんで上に向けようとしましたが、それより近づくことができません。さらに腰を曲げて頭の位置を下げ、耳をガラスにつけました。さらに膝を地に下ろし、マイクを顔に近づけ、腕をカウンターにもたれかけました。そしてひざまずいたまま会話は終わりました。

 私がいる場所。サンフランシスコ。私たちの国で最も繁栄している都市のひとつ。そこで私が見た風景。防弾ガラス越しに会話を聞き取るためにひざまずき、連邦政府からのフードスタンプを受けようとしている男性。

何かがとてつもなく間違っている

 これが私のCode for Americaのフェローシップのはじまりでした。2013年2月の後半にサンフランシスコの4つのシェルター予約サイトの1つであるミッション・ネイバーフッド・リソースセンターを訪問しました。シェルターで一晩のベッドを予約するのに12時間以上かかることがあり、シェルターよりストリートで寝ることを選ぶ人もいます。また次の日のベッドのために朝4時にシェルターをでて列を作る人たちもいます。ベットが欲しければ早く起きなければいけません。

 私のチームメイトもフードスタンプに登録しました。メールが送られてくるようになりました。しかもたくさん。それらはこのように威圧的だったり:

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なんでこんなに叫ぶような大文字ばかり?

文字だらけで混乱していたり:

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長〜いレター

あるいは全く意味をなさなかったり:

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$200から$200に変更?

 7ヶ月の加入期間中、20のメールを受け取り、3回ほど打ち切られそうになりました。下のタイムラインをみてください。

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フードスタンプタイムライン

サービスはユーザーを見下している

 これが私たちと政府とのやり取りです。私たちはひざまずき、シェルターでベットを確保すために並び、郵便で攻撃的なレターを受け取ります。本来なら困っている人に手を差しのべるサービスが助けるべき人たちを見下しています(disdain)。

dis·dain(見下す/軽視する)

動詞:その人を考慮する価値がないとすること

 このユーザー軽視は人生を変えるほど巨大で物議をかもす形で現れます。退役軍人が障害手当を受け取るのに260日かかります。私たちは家族が暮らす部屋を用意するためにひと月3,000ドルを費やしますが、その家族が必要なのは一人当たり900ドルの現金です。

 そして、このユーザー軽視は小さく静かに誰も気づかない形で現れます。サンフランシスコで無料の学校給食をオンラインで申請をするとウェルカム画面でこの警告が強調表示されます:

オンラインでできるのは一つの申請だけです。何らかのエラーが発生した場合は紙で申請する必要があります。

 またはCalWinのiPhoneアプリをダウンロードしてみてください。カリフォルニアの7億5000万ドルのクライアント福祉データシステムのアプリです。そこで目にするのは:

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はい、ホームスクリーンでは文字が切れて読めません。

 このようなユーザー軽視は上から下まで徹底しています。例えばhealthcare.govで起きた問題は政府のITがいかに壊れているかという長い議論(と周辺に巻き起こる批評)をもたらしました。しかしエズラ・クラインが何が壊れているのかの本質を言い表しています。

…一部の被保険者と裕福な人が持つ特権は貧しい人たちが日々晒されている低品質な公共サービスに対して言い訳をすることです。報道機関は大抵は見て見ぬフリをするか、全く本当に何も知らないかです。貧しい人たちが政府の官僚主義に日々どれほど打ちのめされているのか。そうして放置することで官僚主義はさらに悪くなっていきます。エズラ・クライン

 問題はWebサイトではありません。問題は1235でひざまずいている男性であり、ユーザーを軽視するマシンのような官僚主義がひざまずく彼を助けないことです。

共感からサービスを作ろう

 だから私たちはここにいます。ユーザー軽視のマシンと格闘しています。誰もそんなことは望んでいない。ソーシャルワーカーもユーザーがひざまずくことを望んでいたりはしない。CalWinの開発者も自ら開発したアプリがiPhoneのホームスクリーンで恥をさらすことを望んでいない。誰もホームレスの人々が徹夜で並ばなければいけないことを望んでいない。それはすでに政治の域を超えています。

 できるならば、これを勇ましい言葉で終わらせられたらと思います。「私と一緒に行動を起こしませんか?私たちの壊れた政府を直しませんか?ここをクリックしていますぐ寄付を!」しかし、私にはそれはできません。私はCode for Americaのフェローシップ期間中に解決策よりも多くの問題をみてしまいました。そこで私は一つの疑問を提起したいと思います。どうしたら共感力のある公共サービスを作れるのでしょうか?

 兎にも角にもまずはユーザーのニーズ。共感力のあるサービスはリアルな人々のリアルなニーズに根ざしています。必要なのはイノベーションではありません。ビッグデータ、government-as-a-platform、透明性、クラウドファンディング、オープンデータ、Civic Techなどではないのです。大事なのは人です。人々とそのニーズを優先することを学ぶこと時間をかけて学ぶべきです。このような変化はすぐには起こりません。一人づつ、ゆっくりと。でも私たちははじめなければいけません。

 私たちは非常に多くの創造性、ツール、そして非常に多くの素晴らしい事例があります。ユーザーのニーズを特定し、文書化し、説明し、ニーズに答えるのに役に立つ様々なリソースが。それを活用していないだけです。私はSF映画に出てくる宇宙船400台全ての相対的なサイズを知っています。しかし恥ずかしい話ですが、ホームレスのシェルターや刑務所がどのように機能するかはほとんど知りません。

 healthcare.govの侮辱と怒りを感じている最中、ティム・オライリーが大きな機会を気づかせてくれました。

healthcare.govの問題に嘆いたり、誤りや政治的な優位性をくまなく探すよりいいことがある。すべての人たちにとってシンプルで効果的で使いやすい公共サービスを創造する絶好のチャンスがいまなんだ。ティム・オライリー

 だから、穏やかにしかし根気強く意識をユーザーニーズに戻し、ひざまずく人を探して手を差し伸べられる共感力のある仕組みを作りましょう。

追記 (2014年1月22日)

 私が2013年2月にどっぷりと浸った日々は人生で最も有意義な職業経験でした。だからこそ私はそれについて書きました。世界の人々と共有するために。これにより問題の解決に関する議論をより広範なコミュニティに広がることを期待していました。そして、それは成功しましたし、それを誇りに思います。しかし、私のいくつかの疑問やいくつかの批判もありました。ですから、私は一歩立ち返って、地方自治体、公共サービス、特にサンフランシスコのヒューマンサービスエージェンシー(HSA)で働くことになった背景をもう少し詳しく説明したいと思います。

 地方自治体は非常に制約されていると知ったのは今年の大きな学びでした。自治体は地方の政治、州法、および連邦法の複雑な絡み合いに制約されています。制約は責任を伴い下まで行き渡っています。メールの内容を変更したり、SMSを送ったりするにも州と連邦の関係者との協力が必要です。このすべてがフラストレーションとなりえます。しかし、それこそ私がCode for Americaに最初に参加した理由です。本当のの問題を解決するために必要なことを学ぶこと。

 HSAは制約を理解し、それを解決をするのに何が必要なのか学ぶのに最適な場所でした。以下は私が在籍した時に解決を間近にみたことです:

  • HSAはユーザーの対面体験を改善するためにMedi-Calのロビーをデザインし直しました。さらに1235のフードスタンプオフィスもデザインし直しました(今は防弾ガラスとマイクは撤去されています)。
  • HSAはAffordable Care Act(通称:オバマケア)をはじめとする数百の新しい規制改善を実施しました。Medi-Calを数千の新しいサンフランシスコ住民にまで拡張しました。夜間と週末にもコールセンターにアクセスできるようになりました。何百ものスタッフに新しいプログラム要件のトレーニングを提供しました。これによりサービスが「間違ったドアなし "No Wrong Door"*1」に一歩近づきました。
  • HSAはフードスタンプのための報告義務を四半期から半期に削減しました。
  • HSAはフードスタンプの再認定のための対面式インタビューを廃止し、ユーザーが電話でインタビューできるようにしました。
  • HSAはフードスタンプのユーザーを支援するために特別に作られた最初の栄養ウェブサイトであるEatFresh.orgを提案、資金提供、構築、ローンチしました。
  • 最後にTrent Rhorerのユーザーのためにリスクを取る無限の意欲に感謝します。HSAはユーザーのためのSMSシステムを構築して実装した最初のヒューマンサービス機関となりました。

 HSAは2013年にこれをすべて実施しました。これこそがユーザーを第一とするサービスに必要なことです。HSAと2,000人以上のスタッフがそのために日々働いています。サンフランシスコの暮らしと生活を豊かにする助けをしてくれている彼らに感謝します。

 AlanとCrisのメスカルを飲みながらのフィードバックに感謝します。ドラフトを読んでくれたMarcとZavainに感謝します。そして、私たちをパートナーとして共に歩み、大事なことを実行し、実行し続けてくれているサンフランシスコのHSAに感謝します。

解説

この記事は2013年にCode for Americaのプロジェクトに参加して実際にサンフランシスコのヘルスケアシステムの改善に参加したJake Solomon氏のブログ記事""People, Not Data - On disdain and empathy in Civic Tech"の翻訳です。

背景には2010年に発表され2013年にローンチしたオバマケアの一部であるhealthcare.govの不具合があります。ほとんど機能せず、大きなニュースとなりました。「問題はWebサイトではありません」という言葉が胸に突き刺さるいい記事です。

以前にアメリカの大規模デザインシステムに関する記事を翻訳しましたが、それを実施した18Fの最初のプロジェクトがhealthcare.govの改善でした。18Fの設立が発表されたのが2014年3月のことでした。この記事はその前日譚とも言えます。さらにその前日譚はティム・オライリーの最新著書の"WTF"で紹介されています。

アメリカ政府がhealthcare.govの失敗を乗り越えて、デジタル公共サービスへ本格的に踏み切ったのはCode for AmericaのようなNPOと地方行政の取り組みも影響があったはず。日本にもCode for Japanがあるので同じことが起きるかもしれませんよ!

カタパルトスープレックスなかむらかずや

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*1:サービス側がユーザーが受けられるサービスを定義するのではなく、ユーザーが受けたいサービスを受けられる状態