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WeWorkの誕生と成長|自分がやりたいことを実現できるコミュニティーを作るということ

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WeWorkは資産評価35億ドルのユニコーン企業です。彼らのビジネスはコワーキングスペース。なぜWeWorkはそれほど資産評価が高いのでしょうか?コワーキングスペースを提供する企業は山ほどありますし、WeWorkがコワーキングスペースのコンセプトを生み出したわけでもありません。ボクがシンガポールやオランダにいるときも、WeWorkと同じくらいおしゃれでコミュニティー感が強くて広いコワーキングスペースはたくさんありました。代表的な例はImpact Hub(WeWorkより2年早い2008年に創業)やThe Surf Office(湘南や九十九里浜に欲しいなあ……沖縄もいいなあ)でしょう。

共同創業者でCEOのアダム・ニューマンは「Amazonがオンラインの本屋だと思っている人は本質を見ていなかった」と言います。では、WeWorkの本質とはなんでしょうか。WeWorkと他のコワーキングスペースを分け隔てているのはなんでしょうか。

イスラエルのキブツと最初のアイデア

WeWorkの共同創業者のアダム・ニューマンはイスラエル生まれ。失読症で9歳まで字が読めませんでした。10歳でアメリカに来ましたが、あまり馴染めずにイスラエルに戻ります。イスラエルではほとんどキブツで過ごしました。キブツはイスラエル独特の集団農業共同体で小さな規模で100人、大きな規模では1000人が共に暮らし、働きます。このキブツでの生活がWeWorkのアイデアに影響を与えているのではないでしょうか。

イスラエルの軍役の後、2002年、23歳でアメリカに戻ります。そして、ニューヨーク市立大学バルーク校に通い、起業を専攻します。大学ではスタートアップのコンペがあり、アダムはWeWorkやWeLiveの原型となるアイデアを提案します。そのアイデアは暮らしのコミュニティーと言えるもので「暮らしのコンセプト(Concept Living)」と名付けました。そしてクラスの中で唯一次のステージに進めなかったそうです。このコンペは5ステージあったのですが、一つも通過できなかったそうです。

実現が遅れたアイデア

これは後から学長に聞いたのですが、アダムだけが通過できなかったのはそれが不動産を扱うアイデアだったからだそうです。その年齢で不動産を扱うスタートアップをやって資金調達はできないと言われました。この言葉はのちにアダムの判断に影響してしまいます。WeLiveをはじめるのが7年遅れました。

振り返ってアダムは「教師に限らず影響力のあるリーダーは人々の可能性を限定するような言葉や行動を慎まなければいけない。可能性は無限にある。それに足枷をつけるようなことをしてはいけない」と語っています。ちなみに、アダムは卒業前に起業をしてしまったので、WeWorkで成功した後にバルーク校に戻り学位を取得しました。学長は当時の判断と言葉に関して謝罪してくれたそうです。そして、アダムは卒業したその日に学位授与式のスピーチ(普通はスティーブ・ジョブスのような人が卒業生に贈るスピーチ)を行うというユニークな体験をします。

WeWorkを立ち上げるまでの寄り道と失敗

アメリカに来た頃のアダムはお金に取り憑かれていたそうです。そして、「なんで自分ばかりこんなひどい境遇にあるんだ、自分はもっといい暮らしをする権利がある」と考えていたそうです。在学中もどのように成功できるのかを考え、様々なビジネスを立ち上げています。この頃に奥さんでもありビジネスパートナーでもあり映画監督でもあるレベッカ・パルトロウと出会います。レベッカとの出会いがカバラとの出会いに繋がり、お金ではない大事なことに気づき、考え方が徐々に変わっていきます。WeWorkのコンセプトにもレベッカは大きな影響を与えています。

アダムが最初に立ち上げたビジネスは折りたたみができるヒールがついた女性靴だそうです。これはモデルでもあった妹のアディ・ニューマンの歩く姿を見て思いついたそうです。これは全く成功しなかったようです。次に立ち上げたビジネスは「クローラーズ(Krawlers)」という膝にパッチのついた幼児用のジーンズで赤ちゃんのハイハイに最適でしたが、これも失敗。そしてデザイナーのスーザン・レイザーと「Egg Baby」という幼児用ブランドを立ち上げます。このブランドは大手の流通でも取り扱ってもらえ、今でも「Egg by Susan Lazar」として残っています(アダムは経営から手をひいています)。それでも借金は残ったそうです。その借金はWeWorkで成功した後に完済したそうです。

このアパレル系のビジネスをしていた頃、WeWorkを一緒に立ち上げるミゲル・マッケルヴィーと出会います。建築デザイン事務所で働いていたミゲルはアダムにブルックリンにあるオフィスに一緒に入るように勧めます。このオフィスがある建物がWeWorkの原型となります。

WeWorkの原型となるGreen Deskの立ち上げ

最初のきっかけはちょっとしたことでした。アダムが自分のオフィスの一部を貸すためにCraiglistに広告を掲載したのです。すぐに借り手が見つかりました。アダムとミゲルは当時のオフィスがあった建物にあまり他のテナントがいないことに気がつきました。あれ?スタートアップ向けのコワーキングスペースにできるんじゃない?一週間後に友人のギル・ハックレーを加えた三人はその建物の所有者であったジョシュア・グットマンを説得しようとします。ジョシュア・グッドマンは最初はかなり懐疑的だったようです。

「キミらはどれだけ不動産ビジネスについて知ってるんだい?」

「あなたが不動産ビジネスについてそんなに詳しいなら、なんでこの建物はこんなに空っぽなんだい?」

これがGreen Deskとなります(当時のローカルニュース)。株式の大部分はジョシュア・グットマンがもち、三人はそれぞれの投資額は5000ドル(約50万円)を出します。利益はジョシュア・グットマンと折半。この時は2008年で、Green Deskの準備期間中にリーマンショックが起きました。不動産ビジネスにとって経済環境としては最悪。流石にこの時はアダムも焦ったそうです。しかし、改装中にすでに予約がいっぱいになったそうです。結局のところ、アダムとミゲルのやろうとしていたことは不動産ビジネスではなくて、人とのつながりを生むビジネスで、それを求める人が多かったということでしょう。ちなみに、WeWorkの競合のImpact Hubもこの年に創業しています。

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当時のGreen Desk

コワーキングスペースのコンセプト自体はブラッド・ニューベルグが生み出したもので、すでに2005年にサンフランシスコに最初のコワーキングスペースがすでにありました。このGreen Deskがユニークだったのは再利用の家具と再利用エネルギーの利用です。だからグリーンなんですね。

Green DeskはWeWorkというよりもシェアオフィスのRegusに近かったそうです。アダムとミゲルはイベントやアメニティーが充実したコミュニティーとしてのいまのWeWorkのコンセプトに近いモデルを次に試したかったそうですが、ジョシュア・プットマンは成功しているGreen Deskのモデルを展開したかったそうです。方向性の違いが生まれました。

WeWorkの立ち上げ

進もうとする方向が違うため、アダムとミゲルはGreen Deckをジョシュア・グットマンに300万ドルの資産価値で売却、そこから得た30万ドル(約3000万円)を頭金にしてSOHOでビルを借り、自分たちでWeWorkを立ち上げます。足りない分は友達に借りたりクレジットカードで借りるだけ借りました。お金をセーブするためにイスラエルから友達を呼んで7日間ぶっ通しで内装工事を手伝ってもらいました。

「たぶん、ニューヨークで遊ぶために呼んだと思ったろうね!」

このような節約が功を奏して最初のSOHOのWeWorkは一ヶ月で利益が出るようになりました。これが2010年です。Green Deskをはじめて2年ですね。

次の物件が三人のイラン人兄弟が所有しているエンパイアステートビルの向かいの格安物件でした。格安と言っても100万ドル(約1億円)が必要でした。もちろん、そんなお金はありません。

「ニューヨークにいる一人を落とせばいけちゃうかもよ」と後にWeWorkに投資をするジョエル・シュライバーがアダムに囁きます。そして、アダムは実行します。イラン人オーナーの一人をたっぷり酔わせて虚ろなまま契約をもらいます。もちろん、後から文句を言われましたが「ペルシャ人は約束を守る人たちでは?」で問題なかったそうです。これが最初の資金調達。そして、その後にもシードで700万ドルほどの調達にも成功します。その後さらに二つのコワーキングスペースをオープンしてから続々と大型投資が決まって行きます。

それにしても、コワーキングスペースが多くある中、なぜWeWorkだけがこれほど成功したのでしょうか?

WeWorkにとっての「プロダクト」とは?

WeWorkの特徴はお洒落な内装、無料のビール、そしてたくさんのイベントですね。でも、これってすぐにマネできますし、実際におしゃれでイベントがたくさんあるコワーキングスペースってたくさんあります。ただ、内装へのお金のかけ方はWeWorkは突出していますし、無料ビールはなかなかないですけどね。別の言い方をすれば「WeWorkは何故そこまで多くの資金を調達できるのか?」とも言えます。

いろいろと調べると初期の成功はかなり「運」もあったと思います。WeWorkのようなコワーキングスペースは他のテクノロジー系のスタートアップと違い、不動産が必要です。多くの資金が必要です。最初にそれを引き寄せたのはアダム・ニューマンの熱意と創意工夫(オーナーの一人をたっぷり酔っ払わせるとか)でした。しかし、それもプロダクトとしてのWeWorkが優れていなければ継続して成功し(投資を引きつけ続ける)はできません。そうしないと彼らの考える「プロダクト」に投資できないですからね。

WeWorkにとってのプロダクトとはなんなのでしょうか?それを具体的な形に落とし込むにはどうしたらいいのでしょうか。

WeWorkのプロダクトは「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It's Monday!)」

アダム・ニューマンはWeWorkのコンセプトはカバラセンターから影響を受けていると言っています。カバラはユダヤの思想で、カバラセンターはニューヨークを拠点としてマドンナやデミ・ムーアなどセレブから支持を受けていることでも有名ですよね。アダムがカバラに目覚めたのは妻のレベッカの影響だそうです。それまでのアダムはお金のために働いていました。なんで自分はこんなに不幸な環境に生まれたんだと、成功していなことを環境のせいにしていました。言うことは大きい(Talk big)けど、レベッカをディナーに連れいくお金もない。カバラと出会い、お金よりも大事なことがあることに気づき、不健康な生活をやめたそうです。そして、お金よりも大事なことのために働きます。

アダムに限らず、多くの創業者たちは必死で働きます。でも、それはお金のためではありません。やりたいことがあるからです。Spotifyの創業者のダニエル・エクだったら「全部入りのiTunesを作る」だし、Airbnbの創業者たちなら「旅先での共同生活でしか味わえない体験」です。

生きていくためにお金を稼ぐのは犬にとってドッグフードを食べるのと同じです。しかし、創業者が必死に寝る間も惜しんで働くのはDropdox創業者のドリュー・ヒューストンが言うように、犬にとってのテニスボールを追いかけるのと同じです。

そのために働くのは単に「よく働き、よく遊ぶ(Work hard, play harder)」のような表面的な行動だけを抜き取ったものではありません。自分のやりたいことを実現すること自体が楽しいのです。これはスタートアップの創業者だけでなく、働く人一般に言えますよね。そういう環境を作りたいのいうのがWeWorkの原点であり、「プロダクト」です。

WeWorkのタグラインは「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It's Monday!)」です。ドッグフードをもらうためにご主人様の言うことをきちんと聞かなければいけないのであれば「やっと週末だ!(Thanks God It's Friday!)」となるでしょう。しかし、自分が大好きなテニスボールを追っかけているのであれば、早くボールが欲しいから「やっと月曜日がはじまる!」になるのです。おしゃれなオフィスだからって嫌な仕事が好きになれるわけないですよね。

コミュニティーマネージメント

WeWorkにはコミュニティーマネージャーという職種があります。コミュニティーマネージャーはもともとゲームのオンラインコミュニティー(特にMMORPG)をまとめる役割でした。どちらかといえば管理者的な側面が強いですね。これをブランドの代表者として主にソーシャルメディアを通じてユーザーの役に立つ情報を発信する役割に変えたのがLisa Brazielでした。そして、徐々にマーケティングの役割の一つとしてコミュニティーマネージメントは発展していきます。そして、多くの場合はマーケティング会社に外注されます。

WeWorkにとって、コミュニティーはリアルな集まりで、プロダクトにとってのコアとなります。そのため、WeWorkでコミュニティーマネージャーは外注ではなくそのための部門が存在します。

メンバーエクスペリエンス(UX)

これまでのRegusのようなシェアオフィスとは違い、WeWorkのプロダクトは「体験」です。WeWorkのユーザー(メンバーとよばれる)の体験が重要になります。

デジタルプロダクトであればUXは計測可能です。しかし、WeWorkはデジタルプロダクトではないので一般的なUXのための計測ツールは使えません。そこでWeWorkが開発したのがPolarisです。

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WeWorkで開発されたUXレポジトリのPolaris

WeWorkは各国にコワーキングスペースを展開していて、それぞれの拠点でUX調査を行なっています。そこで、重複するような調査を避けたり、別の場所での学びを他に展開するために一つの場所にPolarisに調査結果を集めています。WeWorkでは調査の最小単位をNuggetといい、Polarisには調査結果がNugget毎に保存され、検索性を高めています。

おそらく、他のコワーキングスペースもそのスピリッツや考え方はWeWorkと同じなんだと思います。

まとめ

働き方改革などいろいろと言われていますが、究極的には「自分のやりたい仕事ができているのか?」なんだと思います。WeWorkも日本に上陸してきました。日本の働く環境も「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It's Monday!)」になるといいですね!

参考文献

Adam Neumann / Washington Ideas 2017 - YouTube

ECNY Events - Adam Neumann - YouTube

Adam Neumann Real Estate | WeWork NYC

The founding story of WeWork - Business Insider

Inside The Phenomenal Rise Of WeWork

When WeWork was young: the early years | VatorNews

Democratizing UX – Tomer Sharon – Medium

Community Manager Role Has Changed: A Decade of Community Management

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