表現って大事ですよね!文字だけじゃなくて、絵で表現したり、動画で表現したり。前回インタビューで紹介したSketchPostのスケッチノートも新しい表現方法だし、インフォグラフィックもあたら生まれて定着した表現スタイルですよね。
マイクロソフトのPowerPointが1990年に生まれてから、スライドがビジネスに置ける表現方法として確立されましたよね。日本でも「パワポ」の愛称で親しまれていますよね。インターネット時代になってもSlideshareやSpeakerdeckといったオンラインでスライドを共有するサービスが生まれたりして、その幅も広がっています。さらにTEDのような新しいカンファレンスはプレゼンテーションの新しい世界を提示しています。
そして、スライドを作るスタイルもだんだんと洗練されてきています。でも、実際のビジネス現場ではまだまだそのスタイルの進化についていけていない気がします。そこで今回インタビューするのはシンガポールでビジュアルコミュニケーションをビジネスとするスタートアップのHighsparkです!インタビューに応えてくれたのは二人の共同創業者のKai Xinさん(写真左)と、Eugene Chengさん(写真右)です。なお、今回は彼らの日本出張中に時間をもらってかんだやぶそばでインタビューを行いましたよ!
カタパルトなかむら:
HighSparkをツィート(140文字以内)で説明してみてください!
HighSparkカイシン&ユージーン:
ビジネスリーダーが抱えている複雑なアイデアを説得力のあるビジュアルストーリーに変換して行動を起こすためのインスピレーションを与えるプレゼンテーションコンサルティングです!
カタパルトなかむら:
HighSparkはどんなビジネス課題を解決するんですか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
「アイデアは自分の手から離れその結果を見るまで価値がない」って言いますよね。私たちはアイデアを自分の手から離すだけでは十分ではないと思うんです。だってアイデアは他の人に理解されて受容されてはじめて力を持つから。
カタパルトなかむら:
つまり、わかりやすくするということですか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
専門性の高いプレゼンターは無意識に聞く側も同じレベルだと想定してしまうんです。専門用語や親しみのないコンセプトは聞く側を置いてきぼりにしてしまうんですよ。
例えば同じプロダクトだとしても開発者は技術的な細部に目がいくし、マーケターはそのプロダクトが顧客にもたらす価値に重きを置きますよね。専門家目線でのプレゼンテーションは違う目線のオーディエンスには伝わらない。聞く側のペルソナに合わせて作ることが大事ですね。
カタパルトなかむら:
あと、プレゼンテーションってダラダラと長くて記憶に残らないことが多いです。どういう工夫が必要ですか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
毎日数百万単位でスライドが作られているんですよ。多くのスライドはビジュアルが少なくテキストに依存したスライドです。少し輝きにかけるんですよね。メッセージがパッと頭に入ってこない。
HighSparkではカギとなるメッセージをスライド一つ一つ抽出してそれを強調する様なビジュアルを選択することによって退屈なスライドを記憶に残るプレゼンテーションに磨き上げます。
カタパルトなかむら:
TEDのプレゼンは分かりやすいだけでなく、聞き手にインスピレーションを与えますよね
HighSparkカイシン&ユージーン:
いいプレゼンテーションは送り手と受け手が感情的に繋がりをもたせます。TEDはとてもいい例ですよね。ただ、すべての人がそのやり方を理解してスライドを作っているわけではない。
よくあるのがどこからはじめてどこで終わればいいのかという問題。これが難しいからテンプレに頼ってしまう。テンプレはスライドとそれを聞く人を感情的に分断してしまうんですよ。何かやらないとという衝動やそのトピックについてもっと知りたくなるようなインスピレーションを与えづらい。
カタパルトなかむら:
HighSparkでは具体的にどのような手法でインパクトのあるプレゼンテーションを作るんですか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
簡単に言えば広告の手法を取り入れています。もう少し難しくいうと認知科学をスライド制作に取り入れてスライド一枚一枚が与える影響を最大化しています。
プレゼンテーションを説得するためのツールとして捉えるのではなく、情報ツールとして捉えることが重要です。
カタパルトなかむら:
スライドは様々な使い方がされていますよね。オススメの使い方をいくつか教えてください
HighSparkカイシン&ユージーン:
大きく分けて、1) マーケティングツール、2) エンゲージメントツール、3) 営業ツールとしての三つの側面があるでしょうね。
マーケティングツールとしてのスライド
まずはオンラインでシェアしてプレゼンテーションの賞味期限を伸ばす方法があります。よく使われているサービスはSlideshare、Speaker DeckやauthorSTREAMですよね。
これらはプレゼンテーション版のYouTubeのようなものです。自分のスライドをアップロードして、プレゼンテーションを見てもらえるリーチを広げることができます。それぞれのプラットフォームにはすでにユーザーがたくさんいて新しいプレゼンテーションに非常に興味を持っています。やはりYouTubeのようにアップロードしたスライドをウェブサイトやブログに埋め込んでソーシャルネットワークでシェアすることもできます。
自分たちの会社をはじめた頃、SlideShareにアップロードしたらいきなりトップページに取り上げてもらえたんですよ。いきなり10万ビューのアクセスがあって、最初のクライアントもそこから獲得できました。2年間で100万ビュー以上が生まれてSEO効果も相まって自分たちのウェブサイトにかなりのトラフィックが流れましたね。
その後、LinkedInに買収されて、マイクロソフトに買収されてそれほどトラフィックは流入しなくなってしまいましたが...。それでもウェブサイトやブログにスライドを埋め込んで認知度を高めることには非常に役に立ちます。
ツイートできるスライドを作るコツ
そしてプレゼンをソーシャルメディアでシェアしやすいように工夫するのもマーケティングの役に立ちますね。視覚的で短いメッセージを添えたスライドを一枚一枚アップロードできるようにソーシャルメディアに投稿するスケジュールを組みます。シェアされることを意識したスライドはこんな感じです。こういうスタイルなら実際のプレゼンテーションでもスマホで写真を撮ってソーシャルメディアでシェアしやすいですよね。
エンゲージメントツールとしてのスライド
スライドはエンゲージメントツールとしても使えます。Presentainというサービスを使えばどんなデバイスからでも自分のプレゼンに参加してもらうことができて、質問を受け付けたり参加者の興味のレベルを調べることもできます。プレゼンの音声を録音して後でシェアすることもできるんですよ。
営業ツールとしてのスライド
スライドは素晴らしい営業ツールにもなりますし、Flideは営業だったら使って見たほうがいいですよ。 Google Forms、MailchimpやSalesforceといった二十以上のサービスと連携させることができて、スライドを営業ツールに変えることができます。これを使ってポテンシャルのあるリードにスライドを送って、ツール内で営業サイクルをクローズすることができるんですよ。
カタパルトなかむら:
プレゼンテーションのためのスライド作りにはどんなことを気をつけたほうがいいですか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
これも三つのことを注意したほうがいいですね。
ユーザー視点
自分視点ではなくユーザー視点はスライド作りでも大事です。多くのプレゼンテーションは会社紹介、製品紹介、実績、事例のような形ですよね。このフォーマットはとても自分視点で、ユーザー視点が欠けているため、見る人は自分の重要でないと思われていると考えてしまいます。ユーザーのニーズがわからない場合、このようなテンプレ化したフォーマットは「安全」だと考えられています。でも、私たちは「営業される」のは好きじゃないですよね。だから、プレゼンテーションは「いかに私たちのサービス/製品は優れているか」ではなく、「私たちのサービス/製品がいかにユーザーを素晴らしくするのか」であるべきです。
(見た目ではなく)機能を重視したデザイン
ビジュアルは糸をわかりやすく伝えるために使うべきなんです。単なる装飾のために使われるとノイズになってメッセージがわかりづらくなります。下の二つのビジュアルを比べて見ましょう。
左のグラフィックは見た目はいいのですが、何がメッセージなのかが明確ではありませんし、どこから見たらいいのかがわかりません。右のグラフィックは色使いの関係で見た目はそれほど目を引くものではないのですが、大きなヘッドラインのためメッセージは明確で、上から下への論理的な順序が示されているためわかりやすいです。
同じことがスライド作りにも言えます。ビジュアルはメッセージを強化するために使う。これを意識することで下のようなスライドを避けることができますよ!
プレゼンの主役はプレゼンター、スライドは補助
テキストだらけのスライドは聞く側の意識がテキストを読むことに向けてしまうため、肝心なプレゼン自体に集中できなくなります。プレゼンする側にとってもスライドの文字をプロンプターのように読んでしまうので、アイコンタクトやジェスチャーがうまくできずに聞く側との意識のギャップを生んでしまいます。
スライドはプレゼンのビジュアル的な補完であって、主体ではないのです。特に抽象的なアイデアを伝える時には大事です。効果的なプレゼンは一枚のスライドあたりに必要最低限のテキストをヘッドラインとしてキーとなるメッセージを伝えます。
Slideshareに効果的なプレゼンをするために避けたほうがいい三つの間違い"3 Reasons why you lost your sales pitch"をまとめたので参考にしてください!
カタパルトなかむら:
これからのプレゼンテーションはどうなっていくと考えていますか?
HighSparkカイシン&ユージーン:
ソーシャルメディアとともにこの10年でスライドを活用するツールがたくさん出てきましたよね。ソーシャルメディアが生まれて生活のリズムが早くなることによって人が何かに注目する期間もすごく短くなりました。コンテンツもテキストからよりビジュアルなものにシフトしてきています。
そのようなよりビジュアルに適したスライドを作るニーズに合わせて多くのスタートアップがマイクロソフトのパワポやアップルのキーノートのオルタナティブを生み出してきました。Haiku Deck、CanvaやPreziがいい例ですよね。そして、作ったスライドをシェアしたいというニーズに応えるためにSlideShare、Speaker Deck、authorSTREAMが生まれたというのがこれまでの流れでしょう。
プレゼンテーションのスタンダードや期待値はどんどん上がっています。その期待に応えるために私たちのようなプロフェッショナルなプレゼンテーションコンサルタントが求められています。Facebook Liveや Stickersに代表されるようにソーシャルメディアはインタラクティブメディアとしてさらに進化してきています。あとVRやARですよね。企業は二、三年以内に単にビジュアルに優れたプレゼンテーション以上のものを求められるようになるでしょうね。もっとインタラクティブで聞く側がより参加できる形になるでしょう。
そしてFlideのようにインタラクティブなスライドを作るツールがもっと出てくるでしょうね。スライドのようなフォーマットが廃れてVRやARを使った新しいフォーマットになる可能性もありますよね。
新しいツールや表現方法はたくさん生まれているのですが、多くの企業はなかなか取り入れられていないですね。パワポへの依存度は相変わらず高いです。新しいツールはクラウドのツールが多いので、セキュリティーの問題で企業ではなかなか取り入れられないかもしれませんね。ブランドガイドラインも新しいツールを取り入れるハードルになっているケースもあります。この二つが新しいツールを使いこなすためにプレゼン資料をアウトソースする動機づけになっていると思います。
ただ、新しいビジュアルツールでより魅力的なスライドは作れるようにはなるのですが、それが必ずしも聞く側と強い結びつきを生み出す必要条件というわけでもないんですよ。究極的にはストーリーラインという強固な背骨が記憶に残るプレゼンには必要なんです。見た目は付け足しですよね。企業も次の五年でこのようなプレゼンテーションの新しいトレンドに追いついてくるんじゃないかと思います。TEDはいいお手本を示していますし、PechaKuchaもその表れですよね。