「ソースにあたれ!」って大事ですよね。何かを本質的に理解したければソースを探す。グロースハックに関しては「ソース」は間違いなくショーン・エリスです。そしてショーン・エリスをここまで有名にしたのはDropboxでの成功です。では、ショーン・エリスは具体的にDropboxで何をして、それがどのような形で今のグロースハックとなっているのでしょうか。
- ショーン・エリスとDropboxの出会い
- グロースハックとマーケティングの違い
- グロースハックの最終的な目標は企業全体にグロースの文化を植え付けること
- 成長の原動力となる数字となる道しるべの指標(Northstar Metrics)
- 道しるべの指標(North Star Metrics)と最重要指標(One Metrics That Matters:OMTM)の違い
- 企業がグロースハックを取り入れるのに必要なこと
- 参考文献
- 関連記事
初期のDropboxの成長に関してはいろんなところに事例として取り上げられています。もっとも有名なのは共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンがまとめたこのスライドでしょう。
Dropboxの場合は「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*1)」をかなり早い時期に作り上げることができたものの、成長(グロース)させるのに苦労していたことがわかります。そこでDropboxに参加したのが「グロースハック」の生みの親であるショーン・エリスです。「何が必要だったか」は色々と資料があるのですが、「では、実際にそれを解決するためにどうしたのか?」に答えてくれる資料はあまりありませんでした。
ショーン・エリスとDropboxの出会い
ショーン・エリスが参加した時、Dropboxはまだ10人のエンジニアチームでした。ショーン・エリスはオンラインゲームのUproarやリモートデスクトップのLogmeInなどでマーケティングの担当役員を経験しながらスタートアップに必要な成長の手法を文書化してきました。それを本格的に活かしたのがDropboxで後にグロースハックと名付けられる手法でした。
グロースハックとマーケティングの違い
まず、スタートアップはグロース(成長)に集中するしかないという現実が出発点となります。最も大事なのは新規ユーザー獲得、ユーザーから顧客への転換、顧客の維持の三つです。大企業と違い、リソースも少ないから伝統的なマーケティングの「認知」や「ブランディング」にリソースを費やせません。
つまり、グロースハックというのはスタートアップに必要な成長のコアとなる部分を数値に基づいたテストで徹底的に行うことです。そして、伝統的なマーケティングとは違いカスタマージャーニー全般に関わること。成長を軸とした組織をまたがるマトリックス戦略とも言えます。
アンドリーセン・ホロヴィッツのアンドリュー・チャンは開発との融合を強調していて、それが定義として広まってたりもしますが、ショーン・エリスのオリジナルのコンセプトでは必ずしもエンジニアとの融合は不可欠ではないそうです。
グロースハックの最終的な目標は企業全体にグロースの文化を植え付けること
ショーン・エリスのDropboxとの契約は暫定CMOとして6ヵ月間。契約書でゴールとして設定したのは数値に基づくテストによるグロースの文化をDropboxに定着させること。最初の2週間はDropboxの成長の仕組みを質的に量的に理解することに徹したそうです。そこでわかったのは製品への入り口がたくさんあり、ホームページから入るユーザーは思ったより少ないということ。
使いにくい摩擦になるような箇所を取り除き、よい体験ができるように、それぞれの入り口でテストしていきました。プロダクトのテストは10人のエンジニア集団なのでやってきましたが、グロースのテストをそれまではやったことはなかったそうです。
最初の三、四のテストはCEOのドリュー・ヒューストンと一緒にやり、コツを掴んでいきました。そして徐々にエンジニアが参加してテストをコンセプト化して実装していきました。こうしてグロースの文化が全体に波及していきました。
Dropboxを去ってすぐ後にショーン・エリスはスタートアップのピラミッドを発表します。これは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」のステージ、以降のステージ、グロースのステージの三つに分けるシンプルなものでした。
しかし、グロースハックの最終的な目標は初期のDropboxでもわかるように組織に数値テストを基にしたグロースの文化を定着させることです。ショーン・エリスはそれを加味した上で、上記のように「成長のピラミッド」として「スタートアップのピラミッド」をアップデートしました。
成長の原動力となる数字となる道しるべの指標(Northstar Metrics)
アップデートしたピラミッドでもまず大事なのは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」があること。「市場に受け入れられるプロダクト」とは使っているユーザーに価値を提供できるプロダクトとも言えます。
そして、「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」を探す道しるべとなるのが「道しるべの指標(Northstar Metrics)*2」です。つまり、ユーザーベースにどれくらいの価値を提供しているかを示す指標です。
ショーン・エリスの経験から言えることは、どのようなプロダクトでも最大のグロース要因は口コミだそうです。だったら短絡的に口コミを増やせばいいというわけではありません。必要なのは二つ。1)価値を提供することに集中すること、2)それを定期的に計測して確認すること。大事なのはユーザーに提供する価値とその数値化です。
ショーン・エリスがはAirbnbとFacebookを例として説明しています。Airbnbなら道しるべの指標は「宿泊予約数」です。Airbnbにとってアプリのインストール数やユーザー数は道しるべになりません。予約をして、体験をしなければ価値は生まれないから。その体験によって口コミも生まれるし、エコシスステム全体がビジネスとして活性化します。Facebookの場合なら道しるべの指標は1日の利用者数(Daily Active User:DAU)です。アクティブなユーザーが増えれば、コンテンツが増えて価値が生まれます。
道しるべの指標(North Star Metrics)と最重要指標(One Metrics That Matters:OMTM)の違い
この「道しるべの指標」と似ているのが『リーン・アナリティクス』で紹介されている「最重要指標(OMTM)」です。OMTMはその時のビジネスを成長するのに何に集中したらいいのかというコンセプトですが、「道しるべの指標」はもっと長期的な本質的な価値指標となります。
ショーン・エリスは自身のLogmeInでの経験で違いを説明しています。リモートデスクトップソリューションのLogmeInの場合はリモートコントロールセッションがユーザーの価値を生む「道しるべ指標」でした。しかし、95%の新規ユーザーはリモートコントロールセッションを行なっていませんでした。そこでマーケティングとエンジニアチームは共同でサインアップから利用までのコンバージョンを改善するために実験とテストを繰り返しました。これはLogmeInが急成長した時期と重なります。この時に注力したコンバージョン率がOMTMですが、リモートコントロールセッションの数が「道しるべ指標」であることは変わりません。OMTMはグロースの段階で変わりますが、「道しるべ指標」は変わりません。
企業がグロースハックを取り入れるのに必要なこと
グロースハックの最終的な目標は組織全体に数値に基づいたテストによるグロースの文化を定着させることですが、それはいうほど簡単ではありません。スプリットテストなどの手法はグロースハックの一部でしかありません。
例えば、LogmeInの事例ではマーケティングとエンジニアチームがそれまでのすべての活動を止めて新規ユーザーのサインアップから利用までのコンバージョンに集中しました。実際に成長の妨げとなっていることを解決するには製品自体のプロセスの場合もあります。
多くの企業ではそれぞれの部署が得意とする分野に特化した役割を持ちます。そして、それは時として縦割り組織の弊害を生みます。例えば、製品開発は長期のロードマップに沿って開発されるし、マーケティングもリードの獲得などに集中して、製品に関わるランディングページのような部分には深く関われていません。
グロースハックを組織に根付かせるには、「道しるべの指標」をどの部門でも改善する指標として持ち、数字に基づいたテストを継続的に行う必要があります。下のYouTubeのビデオでもあるようにDropboxでは現在でもグロースハックの文化が定着しているようです。
参考文献
The Growth Pyramid Revisited – Growth Hackers
Sean Ellis, CEO at Growth Hackers, an episode from Intercom on Spotify