2025年5月2日に日米同時公開されたマーベル・スタジオ最新作『サンダーボルツ*』(原題:Thunderbolts*)は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)第5フェーズを締めくくる重要作です。監督は『ペーパータウン』やNetflixドラマ『BEEF/ビーフ』で知られるジェイク・シュライアー。脚本はエリック・ピアソンとジョアンナ・カロが手がけました。
本作は、過去に傷を負ったアンチヒーローたちがチームを組み、それぞれの過去と向き合いながら、贖罪と再生の道を歩むという群像劇です。時系列的には『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』の後になり、バッキー・バーンズは議員として登場します。

- あらすじ|過去に囚われた者たちが挑む、償いと変革のミッション
- テーマ|内なる闇と向き合う勇気、そして共に生きる力
- キャラクター造形|傷を抱えた者たちが紡ぐ、共感と再生のドラマ
- 映画技法|視覚と感情を結ぶ、誠実な映像表現の力
- まとめ|内面に焦点を当てたMCUの静かな挑戦
あらすじ|過去に囚われた者たちが挑む、償いと変革のミッション
物語はマレーシアで始まります。CIA長官ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌの命を受けたエレーナ・ベロワが、極秘実験「プロジェクト・セントリー」の証拠を隠滅するため、O.X.E.グループの研究所を破壊。しかしその裏には、デ・フォンテーヌが自身の失脚を防ぐため、過去の実験に関わった工作員たちを始末しようとする陰謀がありました。エレーナ、ジョン・ウォーカー、アヴァ・スター、アントニア・ドレイコフらは、偽りの任務で危険な施設に送り込まれ、アヴァがアントニアを殺害する事態に発展します。そこで彼らは、死んだと思われていた超人兵士ボブと出会い、彼の助けによって辛くも脱出に成功します。
その後、レッド・ガーディアンことアレクセイ・ショスタコフに救出されたメンバーたちでしたが、すぐにバッキー・バーンズに捕らえられ、フォンテーヌの罪を明かすための証言を求められます。やがてバッキーは、ボブの正体がフォンテーヌの手で最強兵器「セントリー」に変えられていることを知り、チームと共にニューヨークの監視塔(旧アベンジャーズタワー)に潜入する決意を固めます。
テーマ|内なる闇と向き合う勇気、そして共に生きる力
『サンダーボルツ*』の根底にあるのは、心の葛藤とその克服というテーマです。監督ジェイク・シュライアーは、他のスーパーヒーロー映画とは一線を画し、登場人物たちの精神的苦悩──後悔、恥、トラウマ、孤独──に光を当てました。登場人物たちは皆、自らの過去に囚われた「壊れた存在」として描かれ、外的な敵よりも、内なる闇とどう向き合うかが物語の核となっています。特に、ボブの中に宿る“ヴォイド”は、彼ら全員が抱える絶望や自責の象徴でもあり、単なる戦闘を超えた精神的な試練となっています。
また、物語は「贖罪は孤独の中ではなく、他者とのつながりによってこそ実現する」という強いメッセージを伝えています。それぞれ異なる傷を抱えたサンダーボルツの面々は、最初はバラバラな存在でしたが、互いに支え合いながら少しずつ変わっていきます。名もなきアンチヒーローたちが、仲間という存在を得て初めて「ヒーロー」へと歩み出す過程は、現実に生きる観客にも共鳴する力を持っています。人生が思い通りにいかなかったとき、人はどう立ち上がるのか──本作はその問いに対し、「孤独ではなく、共にあることこそが希望を生む」という希望の答えを提示します。
キャラクター造形|傷を抱えた者たちが紡ぐ、共感と再生のドラマ
エレーナ・ベロワ|喪失と共感の象徴
エレーナ・ベロワは、本作の感情的な中心人物として物語を牽引します。元ブラック・ウィドウであり、姉ナターシャ・ロマノフを失った彼女は、深い喪失感と虚無に苦しんでいます。物語を通じて彼女が直面するのは、ただ敵と戦うことではなく、自分の存在意義や人生の意味を問い直すこと。エレーナは、仲間を完全に救えなくとも寄り添い、共にいることの価値を示します。終盤では、チームを率いて“ヴォイド”の中に自ら踏み込み、他者の闇を共に引き受ける姿勢を見せ、彼女の優しさと強さが物語全体の支柱となります。
バッキー・バーンズ|贖罪と変化のロールモデル
バッキー・バーンズは、過去にウィンター・ソルジャーとして数々の罪を犯してきた自責の念と戦う人物です。本作では、彼がサンダーボルツのチームに介入し、後に共に行動することで、かつての暴力的な過去から脱却しようとする姿が描かれます。彼のリーダーシップや冷静な判断力は、チームを一つにまとめる潤滑油であり、贖罪のために自ら行動を起こすその姿勢が、他のキャラクターたちに影響を与えていきます。バッキーは、「過去に縛られていても、人は変わることができる」という可能性を象徴しています。
ボブ・レイノルズ(セントリー)|心の闇と回復の寓話
ボブ・レイノルズは、超人兵士「セントリー」としての圧倒的な力を持つ一方、その内面には破壊的存在「ヴォイド」が潜んでいます。ヴォイドは、彼自身の鬱屈した感情、自己否定、トラウマを具現化した存在であり、彼を含む仲間たちが乗り越えるべき最大の障壁となります。ボブの物語は、「心の病は外から見えないが、確かに存在し、それと向き合うには周囲の理解と支えが不可欠である」という本作の核心的テーマを体現しています。
映画技法|視覚と感情を結ぶ、誠実な映像表現の力
『サンダーボルツ*』では、ジェイク・シュライアー監督が映像を通して内面の葛藤を視覚化することに注力しています。特に象徴的なのが“ヴォイド”の演出で、人間が一瞬で「影」と化す描写は、広島の原爆投下後に残された影に着想を得ています。この表現は、トラウマや精神的崩壊の突然の衝撃と持続的な影響を象徴しており、単なる特殊効果以上の深い意味を持っています。シュライアーはCGIの多用を避け、現実味のある撮影や実際のカメラワークによって、観客の感情に直接訴えかける演出を徹底しました。
撮影監督アンドリュー・ドローズ・パレルモとの協業により、アクションシーンであっても混乱を避けるために計算された固定アングルや事前に構成されたカット割りが使用されています。編集チームは撮影現場でリアルタイムに編集作業を進めるスタイルを採用し、各キャラクターの感情の流れや物語の主題がぶれることなく画面に落とし込まれています。これにより、スーパーヒーロー映画にありがちな視覚の過剰さではなく、登場人物一人ひとりの内面にフォーカスした映像美が実現しています。
また、シュライアー監督は自身のインディペンデント映画的感性をブロックバスターの文法に巧みに取り入れ、壮大なスケールの中に繊細な人間ドラマを織り込みました。特に、光と影の対比を用いたシーン構成は、絶望(ヴォイド)に覆われた空間から、仲間の連帯によって光が戻るという構造を象徴的に描いています。映像、編集、音楽、演出すべてが「感情の誠実さ」を核として構成されており、シュライアーは視覚だけでなく心に残るヒーロー映画を創り上げました。
まとめ|内面に焦点を当てたMCUの静かな挑戦
『サンダーボルツ*』は、派手なアクションやヒーローの活躍以上に、キャラクターたちが抱える心の痛みや葛藤に重点を置いた作品です。ヒーローとしての力よりも、過去とどう向き合い、どう支え合うかというテーマが物語を動かしており、これまでのMCU作品とは異なるアプローチが試みられています。
登場人物それぞれの成長や変化が、静かに、しかし確かな重みを持って描かれており、感情的な誠実さが映像や演出にまで丁寧に反映されています。シリーズの枠を超えて、より人間的なドラマを求める観客にとって、本作はMCUの中でも異色でありながら意義ある1本となるでしょう。