多くの日本人にとって麻薬とか覚せい剤とかコカインとかヘロインってピンとこないですよね。テレビや映画で出てくるもの。そういう意味ではアヴェンジャーズと変わらない。これがアメリカだとドラッグは日常とさほど離れていない存在となります。特に、都市部に住んでいればなおさらです。
それでも、アメリカの郊外となるとドラッグはあまり日常的なものではなくなります。しかし、1990年代後半から2000代にかけてヘロインが大流行しました。しかも、その発信地は郊外でした。ベス・メイシーによる書籍"Dopesick"(禁断症状)はどうして郊外で麻薬の流行がはじまったのかを調査したドキュメンタリーです。
Dopesick: Dealers, Doctors, and the Drug Company that
- 作者: Beth Macy
- 出版社/メーカー: Little, Brown
and Company - 発売日: 2018/08/07
- メディア: Kindle版
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前提その1:そもそも「麻薬」ってなに?
まず、この書籍の「主人公」となる麻薬について理解しないといけません。麻薬とは読んで字のごとく「麻」から作られた「薬」です。痛みを麻痺させてくれる効果があるので、鎮痛剤などに使われます。
大きく分けてオピオイド系の「ヘロイン」と、コカを原料とする「コカイン」があります。クラックは「コカイン」の一種です。他にもエクスタシーに代表される「MDMA」や「覚せい剤」などありますが、ここでは詳しく触れません。「麻」を原料とする「ヘロイン」は昔からあって、アヘン戦争のアヘンもルーツは同じです。強い多幸感と強い禁断症状が特徴です。
コカインやエクスタシーのようなMDMAは都市部で広がっています。簡単に言えばドラッグは都市問題でした。ところが、近年の「ヘロイン」の流行は郊外から発生しました。
前提その2:調剤薬の仕組み
薬には市販薬と調剤薬があります。市販薬は街のドラッグストアで買える薬です。バファリンとか正露丸とかです。調剤薬は医師の処方箋が必要で、調剤薬局で買う薬です。例えばバイアグラなどがそうですね。多くの抗生物質もそうです。ちなみに、抗生物質を沢山処方する医者はあまり信用しないほうがいいですよ。
薬の世界には「営業」はいません。薬の世界で「営業」に相当する役割があるとすれば「メディカル・レプレゼンタティブ(MR)」で、医師に自社の製品を紹介する人たちです。医薬品の適正使用を促すことがMRの目的で、医薬品に関する情報を医師など医療従事者へ提供します。日本では「医薬情報担当者」と呼ばれています。
命を扱う仕事ですので、MRの仕事は厳しく管理されています。例えば価格のことを話してはいけません。つい最近も「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて(リンク先はPDFです)」*1が厚生労働省から発表され、MRの活動がさらに制限されるようになりました。
で、なんでアメリカ郊外から「ヘロイン」が流行したの?
簡単に言えば調剤薬「オキシコドン」の乱用です。製薬会社のパーデュー・ファーマがオキシコドンの薬物依存性を故意的に過小評価して、過大なマーケティングを行った結果でした。ヘロインのようなオピオイド系の薬物は強い禁断症状が特徴で、オキシコドンを処方された患者がどんどんとオピオイド系の薬物の中毒患者になっていきました。
禁断症状を起こした患者たちは色々な理由でオキシコドンを調合してもらうように医師に頼み、場合によっては必要以上に処方箋を書いてもらうことにより転売で利益を上げました。そして、その利益を自分がオキシコドンを買うために使いました。まさに負のサイクルですね。
この事件の怖いところ
一般的なイメージだとドラッグって暴力団や麻薬密売人が売るものですよね。それとか以前に紹介したシルクロードのような闇サイトとか。表に出てこない裏のルートで扱われるものでした。実際にアメリカでも都市部ではそうなんです。ところが、今回の場合は製薬会社が出した商品が正規の表ルートで家庭に届けられてしまいました。日本だとトヨタ自動車の役員が逮捕されたことで知られましたね。
*1:ほんと、マジでPDFとかやめてほしいんですけど!