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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

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How Atlassian built a $20 billion company with a unique sales model | Inside Intercom by Geoffrey Keating via Inside Intercom

マイクロソフト、オラクル、IBMのような伝統的な法人顧客にソフトウェアを販売する企業は同じようなやり方で営業します。交渉、長い営業サイクル、実際には使わない意思決定者から要求される機能のチェックリストなど。

しかし、アトラシアンはこれとは全く違うソフトウェアビジネスの成長モデルを見つけました。アトラシアンはJiraやHipChatの開発やTrelloの買収で12.5万ユーザーを伝統的なセールスプロセスなしに獲得しました。

このような成長はSaaS企業にとって珍しいことです、特異ですらあります。典型的な超成長の道筋は営業活動に多大な投資をし、長期的な顧客生涯価値がの顧客獲得の初期コストを上回って全体的に利益が出ることを期待します。

アトラシアンは全く違う道筋を作りました。IPO当時、売り上げの19%しか営業マーケティングに使っていませんでした。同規模の企業と比べると全く少ない投資額です。

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もし、これが「真実にしては都合が良すぎる "Too good to be true"」と感じるのであれば、それは間違っていません。他者が営業マーケティングに巨額の投資をする中、アトラシアンは全く違うチャネルに投資をしました。 高速でボトムアップの拡散マシンを10年近くかけて磨きあげました。

私たちはアトラシアンのプレジデントであるジェイ・シモンズに時間をもらい、アトラシアンでそれがどのように機能してきたのかを聞きました。

すべては注目すべき"Remarkable"プロダクトからはじまる

成長を推し進める役割としての「口コミ」はすでに確立されています。

顧客は「口コミ」が製品購入の意思決定において最も重要だと答えています。創業者は最も重要な顧客獲得チャネルだと言います。それが初期段階でも拡大期でも。しかし、あまり理解されていないのは、セス・ゴーディンの言葉ですが、人々から注目"Remark"されるには、自分自身が注目に値する"Remarkable"にならなければいけません。

製品が勝手に売れていくのは、アトラシアンの初期の成長の鍵となった発見でした。しかし、いくつかの条件が整った場合に限りです。それは、ユーザーが熱中して自らが伝道師として組織の内側にも外側にも伝えたくなるような素晴らしい製品であることです。製品とマーケティングとユーザーの密接なフィードバックループによって、アトラシアンはビジネスを前進させる非常に効率的なフライホイール(慣性を利用した推進装置:弾み車)を作り上げました。

「フライホイールは素晴らしい製品作りから始まります。アトラシアンの初期において、私たちは注目に値する"Remarkable"な製品を作る議論をしました。"Remarkable"という言葉を意識的に使いました。私たちは人々が注目"Remark"せずにはいられない製品を作りたかったからです。ここから口コミがはじまります。そして、フリーホイールは顧客にとって意味のある問題を解決する素晴らしい製品でなければ成立しません。そのために顧客にとっての摩擦はなるべく排除するようにしました」ジェイ・シモンズ

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アトラシアンのフリーホイール

なぜ、ロータッチは21世紀の法人営業モデルなのか

現在の法人顧客は10年前とは全く違う方法でソフトウェアを調達しています。自分自身を考えてみましょう。Googleで検索して、知人に聞いて、会社の同僚と話をする。私たちは供給が限定的で需要をコントロールしていたサプライヤーの世界から無限の供給がある顧客が全ての力を持つ世界に移行しました。

この新しい世界では、顧客は全ての知識、意見、を持って営業サイクルの中に入ってきます。すでに自分自身で学んでいます。すでに、フリーミアムのバージョンを使っているかもしれません。そして、獲得するための最良の方法は営業に電話をしてもらうことではありません。最良の方法は製品を利用してもらい、その価値をなるべく早く理解してもらうことです。

「多くの評価者や顧客にとって、購入サイクルはインターネットによる情報の民主化によってここ10年で大きく変わっています。確かHBRの記事にあったとも思うのですが、65%の購入サイクルはすでに顧客によって完了しているとされています。

そこで、私たちのフリーホイールは顧客にとっての摩擦を極力減らすことに注力しています。いくらくらいコストがかかるのか、よくある疑問はどういうもので、どのような答えなのか、そしてそれを支えるサービス。そうすることによって私たちの製品の価値が顧客自身で簡単に発見できるようにすると言えるのです。」ジェイ・シモンズ

ロータッチはノータッチではない

アトラシアンのアプローチは他のビジネスにとっても魅力的です。正式な営業組織をなくし、間接コストを削減、研究開発への投資を増やすせます。ほとんど魔法のようです。製品をWebサイトにおいて、トラフィックを集めて、奇跡的に全く努力せずに製品が売れていく。

しかし、「使いやすくていい製品が勝手に売れていく」はSaaSにとっては神話の一つです。ジェイもそこを強調するのに苦慮しています。ロータッチはノータッチではありません。ロータッチモデルでは営業サイクルの初期において営業チームを完全に無くしたり、最小限にすることができます。しかし、アトラシアンでは依然として人の手でロータッチモデルを維持しています。

「もし、あなたが大企業の顧客でより複雑な課題を持ち、私たちにとっても大きな価値があるのであれば、それを手助けするチームが存在します。エンタープライズ・アドヴォケートです。この組織は4年前くらいからはじめ、大企業の複雑な問題に特化しています。

しかし、全ての顧客に対してこのモデルで対応すると、12万の既存顧客に5000の新規顧客を四半期に獲得するのは非常に困難になります。私たちはフリーホイールによる効率的なモデルを作り上げることに集中し、顧客が自分自身でサインアップしてプロダクトを使いはじめる仕組みを作らなければいけません。もし、私たちの関与が必要なけらば、それは素晴らしいことです。もし、私たちの助けが必要でしたら、最大限の支援をします。」ジェイ・シモンズ

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透明性の高い価格モデルの利点

価格のオンラインでの公表に抵抗感を感じるB2Bソフトウェア企業は多いと思います。競合が価格を参考にして下回る値付けをしないか心配になります。大きな商談でもっと価格を上げることができるのではないかと考えます。大企業の顧客が価格交渉の材料にするのではないかと懸念します。

B2Bソフトウェアの世界でアトラシアンは際立った存在です。彼らの価格ゴールは顧客の決断を助けること。余計な営業プロセスに惑わされず、なるべく簡単に素早くソフトウェアを動かすことができるようにする。クリック、購入、利用。

「顧客にとって、よくあるつまずきポイントは価格です。価格をWebサイトに明示しないことで、営業にコンタクトさせる。心理的には"顧客を驚かせて逃したくない、なるべく高い価格設定で売りたい、ソフトウェアの機能を説明する前に、顧客の課題を理解して、その解決を提示することで価格の正当性を訴えたい"でしょう。

私たちのモデルでは、価格が顧客にとってのつまずきポイントにならないように気を配っています。最上位プランにおいてもです。それで速度を上げることができます。大企業の顧客でもWebサイトから1万ドル(約100万円)で10から50人のチームのプランを営業の関与なしに購入することができます。」ジェイ・シモンズ

ロータッチ営業モデルが全てではない

ビジネスモデルは事業の成否を決める判断の一つです。間違ったモデルを選べば、始まる前から失敗してしまいます。正しいビジネスモデルを選ぶのは、単に価格のページを変えたり、機能を追加したり、具体的なマーケティング施策を実施したり、営業チームを雇ったりすることではありません。全てのビジネス要素を考慮に入れなければいけません。

「あなたのビジネスモデルはあなたの市場と、その市場にどのようにアプローチするかに依存します。もし私がワークデイ(大企業向けの人事ソフトウェア)で、世界で最も大きな2000社を市場としてみるのであれば、アトラシアンのモデルは適していません。HRの管理システムは複数導入するものではないので、ワークデイのソリューションの購入はとても大きなトップダウンの決断になります。たった一つを選ばなければならず、人事のトップとCIOがスポンサーとしてつくことでしょう。つまり、コンサルティングが必要となり、非常に営業サイクルの長い商談になるでしょう。まずやってみようのようなモデルではありません。

創業者として、あなたは全てを考慮しなければいけません。私のアドバイスは"アトラシアンを参考にしてアトラシアンのモデルを採用する"と安易に考えないことです。」ジェイ・シモンズ

ジェイのアドバイスは明白です。SaaSでサービスを売ろうが、物理的なモノを売ろうが、まずは顧客を理解し、どのように魅力的に感じてもらうかです。そうすることで、ようやくロータッチ営業モデルの適用を判断することができます。