原文:"Wechat Mini Program Part I: What Is It and Why Is It Significant?" by Yelin Qiu
ざっくり言うと
- ミニプログラム(小程序|シャオチェンシュ)はアプリの中から利用できるアプリ(微信に続き支付宝も参入)
- サードパーティーも開発可能で微信の独自の機能(決済やチャット)にアクセスできるため利便性が高い
- PWAと同様にAppStoreからダウンロードせずに使える
- 中国ではミニプログラムによりアプリの概念が大きく変わる可能性がある
- 同じことはPWAでも可能だが、決済などの独自の機能は使えないし、トラフィックも期待できない
- 参考:2018年は次のプラットフォーマーになる準備をはじめるべき年
1月9日にラスベガスでCESが行われていたころ、8億4千万ユーザーを誇る中国の微信(WeChat)がミニプログラムを立ち上げました。ミニプログラムは微信に組み込まれダウンロードもインストールも必要がありません。(技術的には「ミニアプリ」といったほうがいいのですが、Appleが許可しなかったというのがもっぱらの噂)
これは非常に大きなニュースで、太平洋を越えてアメリカ西海岸のGoogle、AppleやFacebookに寒気を起こさせるのに十分でした。想像してみてください。それほど使わないアプリをダウンロードしなくても済むとしたら?すべてのサービスを一つのアプリから必要な時だけ使えるとしたら?どれだけの時間を節約できて、どれだけスマホの画面が整理されるか。画面が大きく変わるためにスマートフォンのデザインすら変えてしまう可能性は?この微信の最新の動きはApp Storeに大きな一撃を加える可能性があります。そして親会社の2400億ドル(26兆円)の時価総額を誇る騰訊(Tencent)にとって、ミニプログラムはさらに大きな賭けに出る最初の一歩にすぎません。
微信の熱心なユーザーであり、中国のテックシーンを追いかけている身として、どうしてミニプログラムの立ち上げがそれほど重要なのかを解説したいと思います。
微信の万里の長城
ミニプログラムによりユーザーはApp Storeからダウンロードすることなく機能を使えることができるようになります。ユーザーは微信に用意された新しいパネル、Facebookのニュースフィードにちかいところからアクセスすることができます。
アンドロイドではホームスクリーンにミニプログラムのアイコンを普通のアプリのように置くこともできます。
Facebookと同様に、微信はソーシャル以外のユーザーの時間を占有しようとしています。ただ一日か一週間に一回くらいデリバリーを頼んだりUberを使うみたいな一時的な利用のために、わざわざアプリをダウンロードしないといけないのか?それくらいのことなら容量も食わないしホームスクリーンを散らかす必要のないライトなミニプログラムでいいんじゃない?
これにより微信はOSのなかのOSになる。他のサービスをいろいろと利用できるたった一つのアプリ — WSJ
微信はユーザーが微信からもっとサービスにアクセスするだろうし、それを気にいると考えている。万里の長城に囲まれた庭園を造り、できる限りその庭園にユーザーに居てもらいたいと。
サービスかコンテントか
個人と企業はそれぞれ微信を通じてユーザーと接することなるやり方がある。サービスアカウント (服务号)かサブスクリプションアカウント (订阅号)の二つ。違いに関してはいろいろと議論がされているが、大まかには以下のようになる。
微信はサービスアカウントもサブスクリプションアカウントも同様に補完するサービスが生まれつつあり、健康的なエコシステムにより成長していることに気が付いています。
しかし、サブスクリプションアカウントはサービスアカウントに比べてユーザーエンゲージメントの観点で遅れがみられます。サービスアカウントは騰訊にとってはB2Bへの進出の糸口となるため非常に重要です。ミニプログラムはサービスアカウントのエンゲージメントとサービス品質の向上のために立ち上げられました。
すべてとつながる
サービスアカウントではできず、ミニプログラムでできるようになったことはなんでしょうか?それは現実世界とつながることです。
ユーザーは現実世界で必要な時に必要なアプリを取り出せばいい。使いたい時だけ。ダウンロードもインストールも必要ない。なんか聞いたことありますよね?GoogleのInstant Appsは同じ目的を持っていますが、まだ実現していません。
一般に向けたスピーチで、微信の開発者で創業者の张小龙(Allen Zhang)はミニプログラムの例を二つあげました。
- バス停にいる時、バス停のQRコードをスキャンしてバスの到着時刻を知る
- 長距離バスのバス停で、QRコードをスキャンしてバスのチケットを購入。チケット売り場でわざわざ並ぶ必要なし。
この現実社会とのコネクションは騰訊のビジョンにとって非常に重要な柱となりつつあります。人と人をつなぐ、人とサービス、人とビジネス、人とモノをつなぐ。
微信は間違いなく最初の三つにこれまで注力してきました。まだ「人とモノ」に関しては完全には実現していません。
多くの企業は組込チップやIOTのようなモノやARやVRを使ってモノとデバイスを繋げてきました。
そして、多くの場合はハードの制約にハマることになりました。しかし、中国では別のやり方で「人とモノ」を繋げることが流行りました。それがQRコードです。
QRコードは現代の中国においてはどこにでもあります。QRコードを使って支払いをしたり、広告を見たり、そのほかのサービスにアクセスすることに慣れています。QRコードをサービスに関連するモノに取り付けるのは多少のコストと労力がかかります。スキャンしてブランドや価格を知る、バスをスキャンして路線を知る、サインをスキャンして方角を知る。中国でインターネットの潮流は独自の方向へ進んでいます。QRコードはデジタルとリアルのハイパーリンクとして機能しています。
QRコードの裏側にあるのは具体的な情報やサービスで、微信はミニプログラムによってこれらのサービスに効率的にアクセスできるようにしています。微信にとってミニプログラムはQRコードをさらに普及させ、デジタルとリアルの関係を強化できるかもしれません。
本当のターゲット:オフラインとソーシャル
ミニプログラムにはあまり直感的ではない(しかし意図的な)機能があります。ユーザーはミニプログラムをモーメント(タイムライン)ができず、スマホに保存されたQRコードでミニプログラムにアクセスすることもできません。
ユーザーは三つの方法でしかミニプログラムにアクセスできません。
- リアルな世界でQRコードをスキャンする
- 検索(あいまい検索ではなく)
- チャットで直接共有
最初の方法はオンラインとオンラインのトラフィックの抑制を意味しています。意図的にオンラインのトラフィックを抑制することでオフラインの価値が高まります。微信はプロダクト開発者とサービス提供者がオフラインからのトラフィックに集中させることによってオフラインへの野心を明確にしています。
最後のポイントは微信がもつソーシャルのビジネス的な可能性を解き放つ意図があります。特にグループチャットの産業別コミュニティー。
オフラインとソーシャルの可能性をそれぞれ見ていきましょう。
オフラインの可能性を解き放つ
毎日どれくらいスマホの画面を眺めているでしょう。16時間起きていて、そのうち2時間だとします。その2時間のうちの3/4がソーシャルアプリだとしましょう。つまり50くらいスマホに入っている残りのアプリは毎日残された30分のために競争をしていることになります。平均すれば一日36秒ということになります。
AppStoreでの過酷な競争を勝ち抜いてホームスクリーンでの場所を獲得したアプリもそれほどのアテンションを獲得できるわけではありません。開発者やサービス提供者にとってこれはあまりいい賭けではありません。
オンラインのトラフィックの獲得が困難になってきたことで、微信は「ちょっと待て、スクリーンを見ていない残りの14時間はどうよ?」と考えたのでしょう。
オフラインの14時間は具体的なコンテキストがあります。レストランで食事をしていたり、空港に着いたり、ホテルにチェックインしたり。これらのコンテキストではスマホに時間を独占されていませんし、ここに可能性があります。
例えば空港に到着した時に航空会社特有のQRコードがあったとします。そしてそれをスキャンすることでチェックインのためのミニプログラムを立ち上げることができます。このチェックインアプリは本来オフラインでチェックインしていたであろう時間を切り取ることとなります。アプリを具体的なコンテキストで使うことは、それ以外でのコンテキストで使うよりも可能性として高くなります。またASO(アプリ版のSEO)につぎ込むか金額を考えれば、ユーザー獲得コストは小さなものです。QRコードをプリントしてオフラインの場所に設置するだけ。
オフラインのコンテキストはたくさんあります。微信は開発者とユーザーにこの可能性を解き放つよう促しています。
解説
オフラインに関して中国にいる開発者の人たちに確認しました。微信のミニプログラムは多くのAPIを呼び出すので、オフラインのプログラムを書くのは理論的には可能だが(現時点では)あまり現実的ではないようです。つまり、オンラインの状態でミニアプリを活用することで、オンラインで使っていたであろう時間まで浸透できるという意味なんだと思います。ソーシャルの可能性を解き放つ
微信はグループチャットが価値のあるビジネスコンテキストだと理解しています。産業別のコミュニティーが集まり、友達同士でオススメをしたり、サービスにすぐにアクセスする場所です。
例えば友達同士で旅をすることをグループチャットで話していたとします。サービスまでのジャーニーはこんな感じです。
- メンバーの意見をまとめるリーダーを選ぶ
- トラベルアプリをダウンロードして予約する(色々と調べながら予約)
- グループに予約を説明
ミニプログラムでのジャーニーはこのように変化します。
- メンバーがトラベルミニプログラムをチャットに送る
- メンバーが同時に色々調べてコメント
- メンバーが決めた旅行先をそれぞれ予約
ミニプログラムはチャットで全てを完了することによりサービスとユーザーのジャーニーを短くします。つまりソーシャルのコンテキストでユーザー獲得とコンバージョンのスピードが増します。そのビジネスの可能性を考えればFacebookのMessengerが同じことを考えてもおかしくないですよね!
ミニプログラム:未来への扉
ミニプログラムは騰訊(Tencent)が微信のソーシャル帝国を守るための壁だと考える人もいるでしょう。しかし、それは隠されていることでもなく、テック企業ではよくあることです。.
微信のミニプログラムは私たちに次世代のプロダクトとサービスのあり方を見せてくれています。
- ユーザー獲得コストが低く、利用率/リピート率が高い具体的なオフラインコンテキストに基づいていること
- ジャーニーを短くでき、トラクションが高くなるようなソーシャル/産業コミュニティー
ミニプログラムがあろうとなかろうと、微信は自らが進む方向に全力疾走していくことでしょう。ユーザーの一人としてその発展を見守っていきたいと思います。
解説
最初は中国語の記事を翻訳していたのですが、流石に専門用語と口語表現に挫けてしまいました😂😂😂
ベータから取り組んでいる中国の開発会社のブログを読むとミニプログラムの開発は決して簡単ではなかったようです。サードパーティーに提供されるAPIに制限がありすぎて、簡単なユースケースでしか開発できなかったようです。おそらくその状況は徐々に改善されているものの、ミニプログラムは発展途中であることも事実でしょう。
それでもどうしても中国で進行中のミニプログラムの発展をどうしても紹介したかったので、英語の記事ではありますが翻訳しました。間違いなくこの流れは中国の外にも波及してくるはずです。
カタパルトスープレックスなかむらかずや