原文:"What is inclusive design?" by Engineering Design Centre, Department of Engineering, University of Cambridge
全てのデザインにおける決定はユーザーを含むか含まないか潜在的な判断がある。インクルーシブ・デザインはユーザーの多様性を理解することにより、自らが対象となっているのかユーザーに理解できるようにすることを強調しています。それにより、できる限り多くのユーザーを包括できるようにします。ユーザーの多様性はユーザーのできること、ニーズ、動機などを含みます。
ここではまずプロダクトパフォーマンス指標(PPIs)の例を紹介します。プロダクトやサービスが機能していることを確認する上で考慮しなければいけない指標です。ここではユーザーのニーズがどのようにこの指標に当てはまるのかをみていきます。そしてPPIを全てカバーするには対象となるユーザーの多様性の理解がどのように必要なのか、そしてその多様性にインクルーシブ・デザインを通じてどのように対応していくのかを説明していきます。また、「全てのためのデザイン」や「ユニバーサル・デザイン」との違いも提示します。
プロダクトパフォーマンス指標(PPIs)
インクルーシブ・デザインは人々の多様性とそのデザイン上のインパクトに着目します。しかし、パフォーマンス指標は人、利益、環境を含み幅広い側面をカバーしなければいけません。下のパフォーマンス指標フレームワークを参照してください。
パフォーマンス指標を利用して製品のライフサイクルを通じてどのようなインパクトがあるのかを様々な側面で検証します。製品のライフサイクルは一般的に以下のステージから構成されます:
- 開発する
- 製造する
- 流通販売する
- 利用する
- 廃棄する
- 再生する
多くの現行製品にとってユーザーはゴミ箱に捨てて「廃棄する」でしょうし、埋め立てて「再生する」でしょう。しかし、リサイクルや改修はその代替となる例となります。
訳者注
ケンブリッジ大学の許可のもと、カタパルトスープレックスデザインのGithubでPowerPointのテンプレートの日本語版を無償で配布しています。
ユーザーの多様性を理解する
ユーザーを正しく理解できないとプロダクトに不必要な不満の原因となり、ユーザーを除外することとなります。そして、それは返品やカスタマーサポートの増加に繋がり、商業的に成功する可能性を低くします。。
ユーザーの多様性を理解する上で、「健常者」や「障害者」といった偏見のある枠組みを疑うことは重要です。2003年にマイクロソフトから委託されたアクセシビリティテクノロジーに関する調査で以下のコメントを得られました:
「障害者」というコンセプトはアクセシビリティテクノロジーのニーズを理解する足かせとなる可能性がある。 ... IT業界は利益を受けるより幅広い人たちを考慮すべきだ。- マイクロソフト (2003)
人々の多様性は「できること」を全てカバーしたピラミッドモデルがより正しく表現できます。このピラミッドでセグメントを作ります。一番下のセグメントは困難がないことを示し、上にあがると困難の度合いが高まります。具体的な例を下に示します。
この多様性は「できること」という視点で最初に作られましたが、それ以外の観点でも利用することができます。例えば、ライフスタイル、動機、性別、過去の経験などです。要するに「違うことはあたりまえ」(引用:Lange and Becerra, 2007) なのです。
インクルーシブ・デザインの定義
英国規格協会(British Standards Institution)は2005年にインクルーシブ・デザインを「メインストリームの製品/サービスにおいてなるべく多くの人たちが特別なやり方やデザインなくアクセスでき、利用できるデザイン」と定義しています。
インクルーシブ・デザインはいつも一つのプロダクトが全ての人のニーズに対応することが可能(または適切)だと示唆していません。そうではなく、以下の点を通じて人々の多様性に対応するようガイドします:
- 一つの製品ではなく、製品ファミリーや派生製品を開発し、できるだけ多くの人々をカバーする
- それぞれ個別の製品が明確なターゲットユーザーを持つことを確実にする
- 様々な場面において幅広いユーザー層のユーザーエクスペリエンスを高めるために製品利用の困難度合いを減らす
ユニバーサルデザインとの比較
「すべての人のでためのデザイン(Design for all)」と「ユニバーサル・デザイン」は同じ文字通りの意味があります。これらの考え方は建造環境*1やウェブサイトのデザインから起因していて、当初は政府の規定を背景として活用されました(the Design for All FoundationのウェブサイトやUniversal Design Handbookより)。
プロダクトデザインにおいて「すべての人のためのデザイン」も「ユニバーサルデザイン」も一つの製品がすべての人々をカバーできないことは認めています。それでも、これらのアプローチはメインストリームの製品は技術的に可能な限りより多くの人がアクセスできるようにするべきだとしています(Universal Design Handbookより)。
インクルーシブ・デザインはプロダクトデザインから派生して、特定の製品が特定のユーザーのニーズに合わせることにフォーカスすることで、ユーザー自身が適切な製品を選ぶことができ、その特定マーケットのプロダクトパフォーマンス指標を最大化します。インクルーシブ・デザインはメインストリームの商品のユーザー層の拡大を意図しますが、同時に対象ユーザーのニーズを満たすための商業的な制約も認識しています。
ウェブサイトや建造環境のターゲットユーザーはほぼすべての人たちなので、この場合は三つのアプローチは同じと言えます。
ネクストステップ
ケンブリッジ大学ではワークショップやコンサルティングを提供しています。
訳者からの解説
この記事はUniversity of Cambridgeによる記事"What is inclusive design?"を著者の許可のもと、日本語に翻訳しています。この記事はカタパルトスープレックスのなかむらかずやにより日本語に翻訳されました。University of Cambridgeはこの翻訳の正確さを保証してません。正確な内容については、原文による正式の文言を確認してください。
このインクルーシブ・デザインという考え方は主にヨーロッパで普及していて、デジタルサービスが最も進んでいるとされるイギリス政府の公共サービスでもその理念が踏襲されています。デジタルが使えない人たちをどのように取り込んでいくのか。日本においてもデジタル化が期待されていますが、高齢化社会においてはインクルーシブ・デザインの考え方が役に立ちます。「高齢者」と一括りにせず、困難度のピラミッドを使ってどのようにデジタルを活用できない層を包括していくといいでしょう。高齢者だけがデジタルが苦手なわけではないですし、高齢者だからといってデジタルが苦手なわけでもないですから。
なかむらかずや