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2018年映画ベスト8本(ネタバレなし)|ベスト・オブ・2018

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2018年は映画業界におけるネットフリックスの存在感が際立った年でした。今回選んだベスト映画も『アナイアレイション -全滅領域-』、『ROMA/ローマ』と『バード・ボックス』の三本がネットフリックス配給となっています。テレビドラマではすでに大きな存在感を示したネットフリックスですが、映画にまでその影響力が広がった年になりました。また、新進の配給会社であるA24の更なる躍進の年でもありました。ここに入っている『エイス・グレード』の他にも、ボクはまだ観れていないですが『ヘレディタリー/継承』や『Mid90s』は海外でもとても評価が高かったです。

ちなみに、世間的には大評判の『ボヘミアン・ラプソディ』や『万引き家族』はまだ観ていないので、ここには入っていません。「あれ?なんでこの映画は入ってないの?」と思ったら、それはきっとボクが観ていないだけです。

今年はエンタメ映画の佳作が多くて、ここに入っていない『ソロ』、『レディー・プレイヤー・ワン』、『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』なんかもよかったです。『ソロ』は一般的な評判は悪いですが、ボクは好きですね。ぜひ続編を作って欲しい。同じく世間的には評価の低い『パシフィック・リム/アップライジング』も悪くないですよ。むしろ、一般的には評価の高い『ブラックパンサー』はボクはイマイチでした。

ちなみに今年一番のクソ映画は『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(地元の吉祥寺が舞台ということで期待しすぎました)でした。『カメラを止めるな!』は事前に「期待しすぎないほうがいいよ」とアドバイスをもらっていたので、気楽に観れてよかったです。まあ、映画の評価というのは主観的なので。順番は公開順(日本未公開の映画は本国公開日を基準)

『アナイアレイション -全滅領域-』

「なんか、メジャーっぽいのに観たことがない面白い映画がネットフリックスで観れるらしい」とネットをざわつかせた映画。ナタリー・ポートマン主演の映画が映画館ではなくストリーミングで公開されるという衝撃。SF映画っぽい派手さはないものの、謎めくストーリーと幻想的な世界観でグイグイ引っ張っていく。もっと派手で一般向けに作って欲しい配給側のパラマウントとこのままで十分面白いと考える製作側の意見の不一致によりネットフリックスに売却されました。ナイス判断。とてもいい前例を作りました。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

文字通りシリーズ最大の問題作。マルサスの『人口論』を宇宙レベルで信じるサノスをアヴェンジャーズが阻止できるのか?という内容。新規参入の『ドクター・ストレンジ』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が大好きなので、ボクは大満足。サノスを哲学的な暴君として描くところに「浅ましさ」を感じる人もいるでしょうが、ボクは素直にそういうの好きです。ウンウン、制作側の意図にのりましょう!

しかし、どうやって風呂敷畳むんでしょう?『エヴァQ』を観た後と同様のどこか変なところに取りに越されてしまった感覚。来年公開予定だった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3』も監督更迭で先行きがわからない状態。ここはマーヴェルの踏ん張りどころですね。ああ、次回作にスタン・リーはカメオ出演しないんですねえ……

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『デッドプール2』

今回は「家族愛」がテーマ!R指定のファミリームービーですよ。大抵のアメリカ人男性はデップ(デッドプールの略)が大好きです。女性にオススメしませんが、「男の子」なら観るべき映画。

ヒーロー映画で個人的には『キック・アス』を追い抜きました。21世紀フォックスがディズニー傘下に入ったことですでにアベンジャーズ参戦実績のあるスパイダーマン(コロンビア配給)がデッドプール(20世紀フォックス配給)にようやく参戦できるか?など来年以降は楽しみが増えました。

ちなみに、この予告編はアクションシーンばかりでデップ2のいいところを全く観せていません。デップ2のよさはアクションシーン以外にあります。

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『リーヴ・ノー・トレース』(日本公開未定)

アメリカのランド研究所によると20%の帰還兵がPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)で苦しんでいる(PDF)そうです。当然ながらアメリカでは社会問題になっていて、彼の国の嫌戦ムードも道徳的な意味合いだけでなく実際の社会生活においての問題にも起因しています。この映画も帰還兵のPTSD問題が背景としてある(そのため「わかりにくい」と判断で現時点では日本未公開なのだと思います)のですが、むしろ傷ついた父と娘の関係を通じて「家族」という普遍的なテーマを描いた映画となっています。

似た設定で、社会と断絶して父親と子供が森の中で生活をする話としては、2017年に日本でも公開された『はじまりへの旅』があります。『はじまりへの旅』はヒッピー的なユートピア思想に基づいたストーリーで、積極的に森での暮らしを選択していました。しかし、『リーヴ・ノー・トレース』は父親のPTSDのためにやむなく森での暮らしを選択しています。そして、父親と娘は再び……という話です。

ちなみに、リーヴ・ノー・トレースとは自然保護団体のシエラクラブやボーイスカウトが取り入れているアウトドアの倫理規程で、環境保全のためのガイドラインです。「自然はありのまま」にというのが大原則なのですが、そこには「人間もありのままに」というメッセージに重なってくるような気がします。

『エイス・グレード』(日本公開未定)

最近、英語圏のネットでよく目立つのはイントラヴァート(内向的な性格)の話。オタクとかそういうのではなくて、内気で人と話すのが苦手なタイプ。Mediumあたりでそんなブログ記事がたくさん上がりました。「オンラインではわからないけど、オフラインではイントラヴァートなんだ」みたいな。アメリカ人でも当然そういう人たちはいるし、少なくない。『エイス・グレード』は中学卒業間近のイントラヴァートな女の子の話。YouTuberとかリア充っぽくやってるけど、本当はイケてないの。

海外の学校の仕組みがわからないとついていけない部分があるからか、日本ではまだ未公開ですが、とてもいい映画です。

ムーンライト』や『レディー・バード』でノリに乗っているA24の配給作品。アメリカで八年生(タイトルとなっている8th grade)は日本では中学校二年生。翌年から四年間の高校生になります。ミドルスクールからハイスクールに、思春期に入る難しい年頃です。アメリカでは高校までが義務教育で、学区内の高校に12年生(高校四年生)まで通い続けます。

アメリカだけでなく、多くの海外の学校では「バディーシステム」があります。シャドーイングともいいます。新入生にその学校の年長組の子供が慣れるまでついてあげるんですね。ある意味「高校デビュー」をしやすくしてくれる仕組みとも言える。アメリカの場合は中学生と高校生では三年の年の差があるからすごいお兄さん(お姉さん)です。クルマも運転できる。そうすると、当然ながら沖田浩之の『E気持ち』みたいな「あん、あ、あ、ああん、あーん」な話も出てくる。アメリカの場合は野球*1に例えますけどね。"Trueth or Dear"*2のようなパーティーゲームでそっちの方向へ持っていくのも古今東西の男の子のチープトリックですね。

 

『マンディ/地獄のロード・ウォリアー』

『ランボー/怒りの脱出』や『コブラ』などスタローンの筋肉映画を作ったジョージ・P・コスマトス監督の息子、パノス・コスマトス監督作品。タランティーノが作り上げた高品質B級映画というジャンルに突然表れた新星でありB級のサラブレッド。

タランティーノがサーフ音楽やカンフーといった「わかりやすい」B級を調理したのに対して、コスマトスはプログレやチャールズ・マンソンのような宗教カルトといった「わかりにくい」B級というハードルの高い材料を調理しています。それに「コスマトス」というブランドまで背負ってますからね。それを乗り越えたのが今作品と言えるでしょう。

この映画はストーリーよりもその雰囲気を楽しむ映画ですね。特に映像と音楽。主役を演じるニコラス・ケイジもそれを理解した上での怪演となっています。70年代のプログレやハードロックのアルバムジャケットを多くデザインしたロジャー・ディーンのような幻想的な風景を美しいテクスチャーのある映像に仕上げています。今年の2月にコカイン中毒で亡くなったポストクラシカルの異端児ヨハン・ヨハンソンによるプログレッシブな音楽。ヨハンソンにとってはこれが遺作になってしまいました。

『ROMA/ローマ』

こちらもネットフリックス配給作品。『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞を受賞したエマニュエル・ルベツキ監督の新作。この映画にも『ゼロ・グラビティ』っぽいシーンが出てきます。ストリーミング配信のみに関わらず、ヴェネツィア国際映画祭の最高賞の金獅子賞を受賞。

どうして「ローマ」なのかはよくわかりませんが、舞台は一党独裁時代の1970年のメキシコ。裕福な医師の過程とそこに住み込みで働く家政婦の日常を描いた作品。ご本人もメキシコ出身で学者の家庭に生まれたため、自叙伝的な意味合いもありそう。

雰囲気としては高峰秀子が出るような昔の日本映画に近い雰囲気があります。成瀬巳喜男とかそんな感じ。台詞よりも、移動する方向や視線で色々なことを語りかけている。この監督は長回しが得意なので、そういう意味では溝口健二ですかね。淡々と描いているからわかりづらいけど、みんなそれぞれ大変なんですよね。生きるのって大変。ちなみに、この女優さん、ガチで泳げないそうです。

『バード・ボックス』

テレビCMも打って大々的に宣伝しているネットフリックス配給のストリーミング映画。サンドラ・ブロック(『ゼロ・グラヴィティ』『オーシャンズ8』など)、ジョン・マルコヴィッチ(『マルコヴィッチの穴』『RED/レッド』など)にトレバンテ・ローズ(『ムーンライト』など)など俳優陣も豪華。お金かかってます。

ネットフリックスはスティーブン・キングの中編(スティーブン・キングにとっては短編)『霧』をテレビシリーズ『ミスト』として仕立てて成功しました。スティーブン・キングの小説では登場人物が何の説明もなく突然に不条理な状況に置かれます。『バード・ボックス』もそういう意味では非常にスティーブン・キング的です。

現在と過去を交差する手法はネットフリックスのテレビシリーズの佳作『ホーンティング・オブ・ヒルハウス』でも効果的に使われましたが、本作も同じように現在と過去を交差しながら現在の状況が徐々にわかってくるという仕組みになっています。そうすることによって、単に「川を下る」という話に厚みがついています。スティーブン・キングの小説の場合はバッドエンドが多いのですが、この作品はどうでしょうか(安心してください、ネタバレしていません)。

番外編『恐怖の報酬 オリジナル完全版』

『恐怖の報酬』はアンリ=ジョルジュ・クルーゾーのオリジナル版(1953年)とウィリアム・フリードキン監督のリメイク版(1977年)の二つがあります。今回、オリジナル完全版というややこしい副題で公開されたのはフリードキン監督のリメイク版。日本で公開されたのは30分カットされた短縮版だったので、120分のオリジナル完全版は日本初公開。一般的にはクルーゾー版の評価が高いし、個人的にもこのフリードキンのオリジナル完全版を見た後でもやっぱりクルーゾー版の方がシンプルだからこそ面白いとは思う。ただ、ポスターにも使われている雨の橋を渡るシーンに関しては素晴らしい。

*1:一塁ならキッス、二塁なら日本で言うところの"B"…ホームベースなら"C"ですね。

*2:Truethならなんでも質問に答える、"Dear"なら難しいことに挑戦する