顧客起点とよく言いますよね。本来であれば「マーケティング」というのは顧客のことを理解して、顧客が求めるものを作り、届けることです。「営業」は顧客の困りごとを理解し、その困りごとを解決する方法を紹介することです。 つまり、顧客起点とは顧客への奉仕です。マーケティングはサービスです。
でも、実際には「マーケティング」はSEOを意識したキーワード対策だし、ダメな商品やサービスをキレイな写真や有名タレントでごまかすことですよね。どうすればバズるのか。「営業」も必要ないかもしれない商品やサービスをあたかも必要なもののように誤魔化しながら売ることですよね。そこに「罪悪感」があればまだいいのですが、「それが仕事だから」とロボットのように会社と仕事に奉仕してしまうことが多いのではないでしょうか。「仕事だから」ってよく聞くフレーズです。
『パーミッション・マーケティング』で日本でも有名になったセス・ゴーディンはその新著"This Is Marketing"でマーケティングは根本的に変わったと言います。
This is Marketing: You Can’t Be Seen Until You Learn To See
- 作者: Seth Godin
- 出版社/メーカー: Portfolio Penguin
- 発売日: 2018/11/15
- メディア: ペーパーバック
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インターネットでマーケティングが変わった
こう書いてしまうと「なにをいまさら当たり前のことを言ってるんだ!?」と思う人も多いでしょう。このカタパルト・スープレックスを読んでいる人ならなおさらでしょう。でも、本当にそうですか?では、その「当たり前」の考えや知識に従って、行動も「当たり前に」変わっていますか?
当たり前なら、なんでマーケティングは変わっていないのでしょうか?テレビや雑誌のマスメディア時代と同じ広告主体のマスマーケティングの価値観から抜け出すことができないのでしょうか?全ての人に満足してもらう、万能商品を作ることも売ることもできないのに。これがこの本の本題です。では、マーケティングはどうあるべきなのでしょうか。
マーケティングとは何か
セス・ゴーディンによればマーケティングとは変化を起こすことです。開発はモノやサービスを作ります。しかし、作るだけでは「変化」は起こせない。それが必要な人たちに気づいてもらわなければいけない。例えば何かいいアイデアがあり、それを上司に認めてもらい、予算を承認してもらい、実現に向けて実行したいとする。「アイデアを実現する」という「変化」にはマーケティングが必要です。上司がどのような価値観に基づき、何を求めているのかを理解しなければいけない。
つまり、マーケティングとは「変化を起こすこと」であり、「マーケティングの課題」があるというのは「何か良い変化を起こすことができる」ということです。
背の高いひまわりは根を深くはっている
「より大きく」は変化の一つです。より高く、より安く、より使いやすく。マーケティング担当者は「どうすればバズるのか?」と悩みます。これは戦術の問題です。そして、最初に悩むべきはそこではありません。成長をひまわりにたとえ、より背の高いひまわりを育てたいのであれば、根を深くはらなければいけません。
では、どこからはじめるべきなのか?セス・ゴーディンのロジックはこうです。
- 戦術は「差」をつけることができる
- 戦略はすべてを「変える」
- しかし、文化は戦略を打ち負かす
- だから、文化こそ戦略であるべき
- 文化は「人の集まり(マーケット)」
「文化」とは人の集まりです。この本では『リーン・スタートアップ』のMVPになぞってSmall Viable Market(SVM)という言葉がよく出てきます。ビジネスとして成立するための最も小さなマーケットという意味です。自分たちが奉仕したい最小限のグループはどこにいるのでしょうか。そこから「文化」を作りはじめましょう。
マーケターが理解しなければいけないこと
これを実現するためにマーケターは次のことを理解しないといけません。
- 想像力のある人たちが全力を尽くせば世界を変えることができる
- しかし、全ての人を変えることはできない
- 「変化」は意識して起こす
- 人はそれぞれ自分の「ものがたり」がある
- 同じ「ものがたり」を持つ人たちを探す必要がある
- 企業やプロダクト自身の語る「ものがたり」は重要ではない、人々が企業やプロダクトについて語る「ものがたり」が重要である
マーケットを理解するということ
マーケターが問い続けなければいけないのは二つだけです。
- これは誰のため?
- これは何のため?
マーケティングの世界でよく引用される格言に「人々が欲しいのは1/4インチのドリルではなく、1/4インチの穴である」(セオドア・レヴィット)があります。しかし、本当にそうでしょうか?とセス・ゴディンは問いかけます。本当はこうでないでしょうか?
- ほしいのは、ドリルでなく穴。
- しかし本当にほしいのは棚。美しい本棚
- それを作るためのきれいな穴
- そして、大切なのは棚を自分で作ったということ(達成感)
- そして、それを家族が褒めてくれること(承認)
- 床に散らかっていた本が片付き、気持ちが安らぐこと(安堵感)
つまり、欲しいのは「達成感」であり「家族からの承認」と「片付いたという安堵感」ですよね。そして、これこそ「ものがたり」です。
この本はどんな人にオススメか?
マーケターだったら読んだほうがいいでしょう。この書評では出だしのサマリーしか書いていませんが、内容的には「戦術」までカバーしています。しかし、戦術だけ真似ても全く意味がないし、効果もありません。この書評に書かれているような本質的なマーケティングを実施したいと考えるのであれば、とても役にたつと思います。
当然ながら経営者やスタートアップ創業者も読んだほうがいいでしょうね。結局のところ、マーケターが会社に奉仕するマシーンになってしまうのは、それを経営者が求めるからです。経営者がマーケターにとってのロールモデルだからです。