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信用経済と健康経済|どう便利になる?個人情報は?

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「データは新しい石油」とイギリスのデータサイエンティストで大手スーパーマーケットであるテスコのポイントシステムを作ったクライブ・ハンビー最初に言ったそうです。価値があるものだが、石油と精製しないと使い物にならない。それ以来、様々な場面で語られるフレーズとなっています。

これまでの経済で誰が強いかといえば石油を仕切っている人たちでした。米ドルの強さの源泉も石油です。石油は米ドルでなければ取引ができません。本当に石油に相当するくらいの価値があるかは議論の余地がありますが、データは重要なビジネスの源泉です。

データの中でも特に価値が高いのが個人データです。個人の行動データはGAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)のようなプラットフォーマーの強さの源泉でもあります。個人IDと紐づいた行動データから趣味嗜好を理解して広告を表示し、オススメの商品を売ります。インターネット上の行動データや購買データの他に価値が高いとされるのは信用データと健康データです。

信用スコアと信用経済

信用スコアによる信用経済は中国で発展しています。具体的には2015年にスタートしたアリババの芝麻信用(ジーマーシンヨン|Sesame Credit)です。金融機関にとってお金を貸すビジネスは利益の源泉となります。しかし、お金が返ってこないと利益が出ません。そこで、貸したお金が返ってくるかどうかを数値化しています。これが信用スコアです。

信用スコアの歴史は1956年の米国FICO設立まで遡ることができます。このFICOの信用スコアは多くの金融機関で採用されることになりますが、このためにローンへのアクセスが不当に妨げらる事案が見られるようになりました。そこで消費者信用保護法(Fair Credit Reporting Act)が成立されることになり、これは現在でも続いています。

FICOもそうですが中国の芝麻信用はクレジットの与信だけでなく、お金のやりとりが発生しないことでも利用されはじめています。例えば、FICOスコアは企業の採用で使われるケースもあるようです。芝麻信用は利用者にインセンティブを与えるために、信用スコアの高い利用者には様々な特典を用意しています。

信用スコアの光と闇

これが信用スコアによる信用経済です。中国の場合は金融インフラが整っていなかったため、ローンへのアクセスに制限がありました。そのような背景から、よりアクセス性の高い芝麻信用を利用したローンは広く受け入れられました。その結果、利用者も信用スコアに悪影響を与える行動を慎むようになり、経済発展に寄与したと言えます。

しかし、利用者が見えない場面で個人の信用情報が様々な用途で活用されているのも個人情報保護の観点からあまり望ましくないという考え方もあります。キャシー・オニールの『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』では信用スコアが適切に運用されていない例が多く紹介されています。

信用情報は誰が管理する?

信用情報は個人情報なので、その管理は重要です。国によって異なりますが、多くの場合は法律で保護され、国に指定された指定信用情報機関が管理します。日本の場合だとCIC等です。アメリカの場合はFACT法で保護され、Equifax,Experian,TrunsUnionの大手三社が管理していて、FICOがスコアを提供しています。

中国の場合はこれまでこのような法整備が追いついていなかったため、アリババやテンセント等の企業が独自に行ってきました。しかし、ようやく法整備が整ってきて百行征信有限公司、通称シンリエン(信联)が国から認可を受けた信用情報機関として設立されました。アリババなども信用情報機関のライセンスを受けようとしていましたが、これは認められませんでした。これまで信用スコアをとってきたアリババなどはシンリエン(信联)にスコアを提供する形になります。シンリエン(信联)がEquifqxなど信用情報機関の役割を担い、アリババの芝麻信用(ジーマーシンヨン|Sesame Credit)などはFICOと同じ位置づけですね。

自分自身の個人情報は自分自身がチェックして、間違っていれば訂正できるようになっていなければいけません。ブラックボックスにしてはいけないというのが基本的な考え方です。

個人の健康情報と健康経済

お金の流れを一元的に見れるようにしたいというニーズがフィンテックの発端でした。しかし、預金口座、株式の情報、有形無形の資産情報はバラバラに管理されていました。今もそうですが、それでもフィンテックのおかげでデジタル化されてだいぶマシになりました。

個人情報でバラバラに管理されているもう一つの代表例が健康情報です。風邪をひいて病院に行けば、自分のカルテはその病院にあります。歯医者に行けばまた別のカルテがあります。薬を飲んだ履歴は薬手帳で手元にあるかもしれません。

病気や薬の情報以外にも、Fitbitなどを使った運動の情報もあります。Apple Watchで脈拍などとってるかもしれません。これらの健康情報は個人のファイナンス情報と共通点があります。

  • 非常に高度な個人情報
  • バラバラに管理されている
  • 新しいビジネスを創出すると考えられている

健康情報の電子化と標準化

しかし、ファイナンス情報と違い、健康情報はデジタル化が進んでいません。欧米でも電子カルテ(EHR)の普及は進んでいますが、複数の病院のEHRはそれぞれ個別で管理され、個別のポータルサイトでしか参照できません。日本はまだそこにすらたどり着けてないですね。

ヘルスケア分野でAIだのビッグデータだの言う前に、まずは標準化されたデジタルデータがないとどうしようもありません。いまは自分自身の健康データすら見れないのですから。

個々で管理されている情報をまとめるには標準化が必要です。健康情報の標準はHealthcare Interoperability Resources(FHIR|ファイア)があります。

個人情報としての健康情報の取り扱い

健康情報のデジタルデータはいろいろと便利に活用できるのですが、同時に高度な個人情報でもあるため、取扱は慎重に行わなければいけません。そこで、個人の信用情報がFACT法で守られているように、健康情報はHIPAA(ヒッパ)で守られています。

HIPAAはHealth Insurance Portability and Accountability Actの略です。日本語では「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」です。HIPAAでは診断や保険の情報へのアクセスの保証や、プライバシーやセキュリティについて規定されています。

日本でも

健康情報の現在

簡単に言えばHIPAAに準拠してFHIR標準に従ってデジタル化すればいいということになります。ようやくその法整備や標準といった基盤がようやく整いました。

そして、何と言っても健康は巨大ビジネスです。アメリカでの健康関連の支出はGDPの17.8%に相当します。MicrosoftやGoogle、Appleといった巨大企業も当然ながらこの市場を狙っています。Microsoft、Amazon、Google、IBM、OracleとSalesforce.comは共同でFHIRへの対応へのコミットメントを表明しました。

特にAppleはFHIR対応に熱心です。iPhoneやApple Watchで収集される健康データはFHIRに準拠しています。

電子カルテや個人ヘルスレコード(PHR)ではAllscriptsに今年になって買収されエグジットしたPractice Fusiona16zが投資しているCiitizenなどが注目を浴びています。これからデジタル化という意味では初期のフィンテックに似た状況なので、これからスタートアップが増えてきて投資も集まってくるでしょう。

で、どうなの?

個人の健康に関するデータがクラウドで統合されると便利になるのは確かだと思います。どのような生活習慣が病気と相関関係があるのかわかりますし、医療機関も統合されたデータにアクセスできるので、よりデータに基づいた治療ができるようになるでしょう。いろんな健康関連の新しいサービスも出てくると思います。

しかし、これは信用データと同じなのですが、個人データです。意図しない使われ方をしたらたまったものではありません。当然ながら健康データの悪用への懸念は法整備がされているとはいえ払拭しきれるものではありません。

中国の場合は法整備が追いついていないことからアリババやテンセントのような営利企業による信用スコアの発展につながりましたが、それ以外の国でその動きに簡単に追従しないのはそれなりに理由があるのです。