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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

グローバルコミュニティーの作り方|第一回:Kickstarter|クリエーターのためのコミュニティー

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21世紀のビジネスの特徴にコミュニティーの重視があります。20世紀だとブランドロイヤリティーが重要視されていましたが(もちろん、今も重要視されていますが)、コミュニティーはその一歩進んだ考え方です。ハーレーダビッドソンとかいい例ですよね。ハーレーダビッドソンのバイクに乗る人にとってはライフスタイルの象徴なわけです。これがブランドロイヤリティーの源泉ですね。そして、それはハーレーダビットソンを愛する人たちのコミュニティーで維持されている。コミュニティーがなければロイヤリティーもありません。今回の特集ではビジネスにおけるコミュニティーの重要性についてみていきたいと思います。

第一回目はクラウドファンディングのKickstarterです。物理的なプロダクトを作るときの資金集めでクラウドファンディングは非常にありがたい存在です。OculusもPebbleもグローバルなプロダクトですがKickstarterがなければ存在しませんでした。

 

 

そもそもクラウドファンディングとは

資金を一般から調達するパブリックファンディング自体は昔からあって、新しいアイデアではありません。ホメロスは『イーリアス』の翻訳のため750人の支援者をパブリックファンディングで獲得して出版しました。モーツァルトもコンチェルト作成のためにパブリックファンディングを行いましたし、自由の女神もパブリックファンディングです。あれ、税金で作ってないですからね(本体はフランスからの贈り物で、台座はアメリカ側で一般の募金で資金調達)。

このパブリックファンディングをインターネットで行うのがクラウドファンディングです。

クラウドファンディングで成功するために必要なコミュニティー

クラウドファンディングで成功するにはコミュニティーが必要です。そして、クラウドファンディングのコミュニティーには二つのレイヤーがあります。一つはその商品独自のコミュニティー。もう一つはクラウドファンディングのプラットフォームがもつコミュニティーです。

商品独自のコミュニティー

以前にインタビューしたIoTプラットフォームのThe Things Networkの場合、クラウドファンディングをはじめる前にワークショップをたくさん開催しました。実際にツールに触れてもらい、簡単にIoTネットワークを構築できることを体験してもらいました。そして、ワークショップ参加者の中から「早くこの商品が欲しい!」という声が十分あがるまで待ちました。例えば、支援する人(バッカー)が100人必要だったら、最初の20人をこのコミュニティーの中から確保する必要があります。以前に「Kickstarterで資金調達するときに大事な三つのこと」という記事を書きましたが、数日で20%達成したプロジェクトの79%は成功するからです。

この商品独自のコミュニティーはローカルなコミュニティーで構いません。The Things Networkの場合も最初はアムステルダムでワークショップをやってました。オンラインのプロダクトならいきなりWebでグローバルもありでしょうが、今回はクラウドファンディング(=物理的なプロダクト)ということで物理的なプロダクト前提です。オンラインは第二回:ProductHuntでカバーします。

プラットフォームのコミュニティー

クラウドファンディングのコミュニティーは言語で分断化されています。本当の意味でグローバルなプラットフォームはまだありません。日本(だけ)でクラウドファンディングをしたければやっぱりMakuakeCampfireの方がいいですし、中国(だけ)だったらJD.comのジョンチョウ(众筹)でしょうし、韓国(だけ)だったらWadizでしょう。しかし、できるだけ多くの国をカバーしてグローバルコミュニティーに広げるならば英語でKickstarterでということになります。*1

前置きが長くなりましたが、クラウドファンディングのプラットフォームにはその中に独自のコミュニティーがあります。Kickstarterは独自のコミュニティー作りに成功していて、その特徴の一つがリピート率です。Kickstarterは統計を公開していますが、クラウドファンディングを支援する人(バッカー)の30%以上がリピーターです。単純に考えると商品独自のコミュニティー(20)にプラットフォームのコミュニティー(30)を足せば半分以上がコミュニティーからの資金調達になります。残りが新規ですね。新規を獲得するのは大変ですから、コミュニティーの割合が高いほど成功の確率は高まります。

それほどクラウドファンディングにとって大切なコミュニティーなのですが、そもそもKickstarterはどうやってコミュニティーを作り上げたのでしょうか?先に答えを言ってしまうとほぼ何もしていないです。では、どうやってここまで大きくなったんでしょう?

Kickstarterのはじまり

ペリー・チェン(2001/2002)

Kickstarterの創業者の一人であるペリー・チェンはニューヨークで生まれて、ニューオリンズに移り住んでいました。2001年か2002年の頃の話です。いろんな仕事を掛け持ちしながら音楽もやっていました。音楽が好きだったら考えますよね。自分で好きなアーティストを呼べたらなあって。ペリー・チェンも同じことを考えていて、そのためのWebサイトとかあればいいのにと思っていました。でも、彼自身はデベロッパーでもないし、デザイナーでもないのでアイデアだけでとどまっていました。

ヤンセイ・ストリクラー(2005)

しかし、人生で選択を迫られる時ってあるものです。ペリー・チェンはニューオリンズで仕事がなくなって、ニューヨークに帰ることになりました。だったらレストランで働きつづけるより、自分のやりたいことを追いかけてみたら?そう考えたそうです。そして、ニューヨークに戻ってからウェイターとして働いていたレストランで二人目の創業者のヤンセイ・ストリクラーと出会います。これが2005年。そのレストランの常連だったヤンセイは音楽雑誌の記者だったので話があったのでしょうね。ペリーの考えているアイデアを二人で具体的にイメージしていきました。

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ペリー・チェンが描いた初期のワイヤーフレーム

チャールズ・アドラー(2007)

三人目の共同創業者のチャールズ・アドラーはシカゴのWebのデザインエージェンシーのAgency.com(今は吸収合併されて別の名前)に長年勤めていました。ほぼ初期メンバーですね。最後の方は(あまりやりたくない)営業職でしたが、それもこなしていました。上司とクライアントに行く途中に飛行場で「キミが失敗してもクビにしないから安心したまえ」と言われました。(ざけんじゃねーよ、オレはこの会社の苦しい時からやってきてんだ。てめー何様だ)と内心思いました。ちなみにこの上司は前の会社をクビになって移ってきたそうです。そして、チャールズは会社を辞めてニューヨークへ行きます。

チャールズはニューヨークで自分のデザインスタジオを設立しました。そして、友達からペリーを紹介されます。最初にペリーと電話で話をした時、ぶっちゃけクライアント候補と考えていたそうです。ペリーは電話でアイデアについてまくし立て、チャールズは大まかに理解しました。まだ存在しないアイデアだけを人に伝えるのは難しいことも含め理解しました。そして、面白そうだと思いました。

まず、数週間だけ一緒にコラボレーションすることにしました。まあ、ビールを奢ってくれればいいよと。その間に何か意味のあるものが生まれなかったらやめればいいし、意味があるものが生まれたらその時に考えようと。そして、それが続くことになります。チャールズが参加してから紙のワイヤーフレームからデジタル版に進みはじめました。チャールズは開発とデザインの両方ができました。ちなみに、これは2007年の話で、三人とも別の仕事をしていました。アイデアで食べていけませんからね。

チームの立ち上げとローンチ(2009)

チャールズは開発を進めるためにチームを作りはじめます。最初は外部の開発会社やデザインエージェンシー。4回目でようやくこれはと思えるチーム(アンディー・バイオとランス・アイヴィー)に当たったそうです。スタートアップの場合はあまり大きな金額を払うことができないので、株で参加してもらうことが多いですよね。Kickstarterも同様でした。

そしていよいよ2009年にローンチします。最初の着想から8年ですね。最初にペリーがグレース・ジョーンズのTシャツプロジェクトを立ち上げ、ヤンセイがその最初の支援者となりました。この時点で初めて正社員を雇います。

Kickstarterがマーケティングらしいことをしたのは50人の友人にプロジェクトをスタートさせる招待状を渡したこと。そしてその50人がそれぞれ5人の友達を招待できるように招待状をプレゼントしたことでした。たったそれだけ。そしてローンチから三日目で最初の成功プロジェクトが生まれました。

Kickstarterにとってのプロダクトとコミュニティーとは

Kickstarterの創業者たちはKickstarterをクラウドファンディングと言ったことはないそうです。Kickstarterはクリエーターが自分たちのやりたいことを実現するためのプラットフォームなのだそうです。その仕組みがたまたまクラウドファンディングだったと。

そして、クリエーターを支援したい人たちがプロジェクトを見つけることができる場所でもある。クリエーターは自分たちのプロジェクトとともに自分たちのコミュニティーをKickstarterに呼び込み、Kickstarterのコミュニティーは徐々に広がります。

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参考文献

Startup Grind Chicago Hosts Charles Adler (Co-founder Kickstarter) - YouTube

at first i remember standing in my kitchen talking...

How Was The First Year Of Kickstarter?

Happy 3rd Birthday, Kickstarter! — Kickstarter

Kickstarter and the Economics of Creativity (Full Session) - YouTube

Employee #1: Kickstarter

On to the next 2,271 days… – Hacker Noon

Eight Years of Kickstarter (1 of 2) – Lance Ivy – Medium

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*1:日本語でKickstarterはオススメしないです。日本語なら素直にMakuakeでやりましょう。Makuake(日本語)で成功してから、次のステップででKickstarter(英語)やジンチョウ(中国語)というのはアリです。