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グローバルコミュニティーの作り方|第二回:Product Hunt|プロダクトのコミュニティーづくり

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スタートアップのグローバルコミュニティーはStartup Grindなどいくつかあります。その中でも特にオンラインでグローバルに存在感があるのはProduct Huntでしょう。Product Huntは英語のサイトなので日本ではあまり知られていませんが、英語圏ではスタートアップの登竜門とも言える重要なサイトです。

今回はProduct Huntのそもそもの成り立ちについて解説します。Product Hunt自体はどうやってグローバルなコミュニティーを構築したのでしょうか。また、ZapierやBufferの創業者といったもっと有名な人たちとやっていたStartup Editionはうまくいかなかったのはなぜでしょうか。

 

 

Product Huntを立ち上げる前、ライアン・フーヴァーは「ギグ経済」に生きていました。「ギグ」とはスポットの小さな仕事のことで、フリーランスがスポットの仕事をしながら生計を立てるスタイルを指します。以前の記事「書評|ソーシャルメディアの協同体|"Ours to Hack and to Own" by Trebor Scholz and etc」でも紹介したように、クラウドソーシングやシェアリング経済による搾取の仕組みは海外では徐々に批判の対象となりつつあります。

ライアンも自分の価値が時間によってのみ測られる「ギグ経済」に不満を持っていました。そのアウトプットがどのような価値を産もうと1時間は1時間ですからね。ところが、Product HuntのMVPは20から30分、Product Hunt自体は8日間でローンチしています。そして、Angellistによって2000万ドル(約20億円)で買収されます。

プロダクトのシグナル

不満があっても具体的なアイデアがなければどうしようもありません。Product Huntのアイデアは「シグナル」という形でライアン・フーヴァーに訪れます。最初のシグナルはMessageMe(後にYahoo!が買収)でのチャットでした。ここに30人ほどの多くの起業家や投資家が集まり新しいアプリやサービスについてチャットしていました。

そのほかにもオフラインでのシグナルがありました。映画が好きな人たちなら「この前あの映画見た?」のような会話をします。スタートアップが好きなら「あのアプリ試した?」のような会話をします。ある意味テンプレ化した会話ですね。しかし、このようなオフラインではテンプレ化した会話がオンラインではない。これもシグナルでした。

最初のMVP

ロンドンのMakeshiftが作ったLinkydinkというシステムで2013年11月に作ったメーリングリストがProduct Huntの最初のプロトタイプでした。ライアンが自分自身でRuby on Railsで作れば数週間かかるところ、Linkydinkを使えば20から30分でできました。

ライアンはプログラミングもできましたが、どちらかといえばハッカー(デベロッパー)というよりはハスラー(ビジネス)の素養がありました。ライアンはProduct Huntを立ち上げる前にニール・イヤールのベストセラー"Hooked"(邦題:Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール)の執筆を手伝います。そのため、行動心理学に基づいたデザインややり方を採用しています。ゴールは仮説を検証することで、システムはそれを検証するためという割り切りができています。

Linkydinkで作ったメーリングリストのMVPの目的は「流行りのプロダクトのリストが求められている」という仮説の検証でした。 スタートアップはリスクがたくさんあります。そのため、最初は細かにリスクを取り除いていきます。「早く、安く、多く失敗する(Fail fast, fail cheap, fail often)」のはこのためです。

結果は素晴らしいものでした。Sequoia CapitalやUnion Square Venturesといった大手のヴェンチャーキャピタルのほか、有力なスタートアップから大きな反応がありました。二週間で170人が新たにメーリングリストに登録しました。この成功の裏にはProduct Huntのアイデアの素晴らしさもありますが、ライアン自身のネットワークもありました。ライアン自身はブログ記事を多く書き他の媒体にもゲストライターとして記事を書いていました。こうしたオンライン上の信頼(Credibility)は何かをはじめる上で非常に重要だと振り返っています。

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LinkydinkでのMVP成功(クレジット:Ryan Hoover)


プロダクト開発

MVPで仮説が検証されたため、プロダクトとしてのProduct Huntのローンチの準備を始めます。ライアン自身も開発はできるものの、それほど複雑なことはできないため開発ができる人を見つけるために心当たりのある友人何人かにメールをします。

その中でいい返事をくれたのがネイサン・バショウでした。

ライアン「シンプルで技術的な知識がなくてもサクッと立ち上げるにはどうしたらいい?」

ネイサン「もうすご感謝祭(11月の後半)で実家に戻るから、一緒にやってみる?」

ライアン「もちろん、スゲーうれしい!」

そして、8日後にできたのがProduct Huntでした。

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最初のProduct Hunt(クレジット:Ryan Hoover)

 

当時、ライアンはフリーランスとして他の仕事をしていて、ネイサンもGeneral Assembly(WeWorkの教育版みたいなもの)でフルタイムで働いていました。数ヶ月はお互いにサイドプロジェクトとしてProduct Huntに関わります。

サイドプロジェクトからスタートアップに

2014年はProduct Huntにとって転換期となりました。ネイサンが仕事の関係でニューヨークに移り住むことになったのです。ライアンとネイサンはフルタイムでProduct Huntにコミットするか話し合いました。そして、ライアンはProduct Huntにフルタイムでコミットし、ネイサンはサイドプロジェクトのままニューヨークに移り住むことになります。

スタートアップにフルコミットするのは大変です。安定した職業についていれば特にです。MailChimpも初期メンバーが抜けていますし、Dribbleもフルタイムになるまで時間をかけましたよね。Product Huntでも同様でした。

Product Huntの場合、2014年7月にAirbnbと同様にY Combinatorのプログラムに合格することでフルタイムでのコミットメントの道が拓けます。さらに2014年の後半には610万ドル(約6億1000万円)の資金調達に成功します。

コミュニティーの育て方

ライアン自身はブログやミートアップを通じてサンフランシスコのスタートアップコミュニティーとつながりを持っていました。これがProduct Huntのコミュニティーのタネになります。これにメーリングリストやProduct Huntへの登録によって徐々に増えていきます。ライアンはコミュニティーをはじめる場合、このコミュニティーのタネとなる人達が一定の人数まで集まる必要があると考えています。

このコミュニティーのタネをライアンは慎重に育てました。例えば、登録したばかりのユーザーはコメントをすることができませんでした。ボク自身もある程度Product Huntでの活動(投票やTwitterでのシェア)を継続的にして、ようやくコメントをすることが認められました。いまではそうでもありませんが、スタート当初はコミュニティーの雰囲気をよくコントロールしていました。

最初のタネとなる人達はすでになんらかの形で知り合いです。これらの人たちはすでにエンゲージされている状態なので、特別な何かは必要ありません。しかし、新しく参加する人達もいます。ライアンはProduct Huntに登録してくれた人たちに一人一人お礼のメールを書きました。テンプレートを使わず、コピペもせず、一件づつ丁寧に。そして、Product Huntで特にアクティブな人には「Product Huntが好きそうな友達がいたら是非紹介して!招待状を送るから!」とアプローチしました。このようにユーザーを徐々に増やしながらよい雰囲気のコミュニティーに育てていきました。

コミュニティー管理の問題

もちろん、登録したユーザーに自動でテンプレ化したメッセージを送ることもできました。しかし、初期のコミュニティーづくりにはこのような手作り感が重要だと考えました。

また、コミュニティーのサイズが大きくならないようにも注意を払いました。これはライアンとネイサンの二人しかいないので管理が行き届かないという問題もありました。Dribbleでも同じ理由で招待制にしていましたが、Product Huntもやはり最初は招待制でした。初期の頃は大きなオープンなコミュニティーよりも小さな町の集会のようなコミュニティーであることに心がけました。

少し前にやっていたStartup Editionがサイドプロジェクトでとどまっていたのは、このようなコミュニティーが無かったからとも言えます。有名人がコンテンツを書いてもそれはいつか尽きてしまいます。

コミュニティーのスケールアップ

手の届く範囲で徐々にコミュニティーを作ると言ってもライアンはサンフランシスコ、ネイサンはニューヨークです。アメリカはとても広いので、その間には大きな空白地帯があります。オンラインでカバーするにしても親密さはなかなか生まれません。

Product Huntがオフラインをカバーした方法がハッピーアワーです。ハッピーアワーはProduct Huntのファンが集まるミートアップのことです。それぞれの国や地域にProduct Huntのコミュニティーがあって、その人たちが集まる支援をProduct Huntがしています。

ただ、これにもなかなか難しくって、ボクの場合はシンガポールのハッピーアワーには参加しましたが、アムステルダムのハッピーアワーには参加しませんでした。それを取り仕切る人の人望って大事なんですよね。主催者が仕切り屋すぎると参加者は受動的になるし、「自分たちのコミュニティー」というより「主催者のためのコミュニティー」という感じになってしまう。アムステルダムがまさにそんな感じでした。その地域のコミュニティーのために献身的に働いてくれる人でないと難しい。

参考記事

The Product Hunt Story: How it all began according to its founder Ryan Hoover

How To Build Active Online Communities: Q&A With Product Hunt Founder Ryan Hoover

Product Hunt Began as an Email List | Ryan Hoover

Hunting for Habits: Keying in on smart design to... | Ryan Hoover

How We Got Our First 2,000 Users Doing Things That Don’t Scale