中国のプラットフォーマーであるBAT (Baidu:百度/Alibaba:阿里巴巴/Tencent:腾讯)に続く中国ユニコーンがTMD (Toutiao:头条/Meituan-Dianping:美团点评/ Didi:滴滴出行) ですね。今回は美团(以下メイトゥアン)です。
トウティアオ(头条)が中国における「コンテンツのキング」だとしたらメイトゥアンは中国における「O2Oのキング」です。もともとはGrouponのコピーとしてはじまりましたが、現在では外食だけでなく、タクシー、映画や旅行のサービスまで拡大しています。
- 中国版Facebookレンレンワン(人人网)の立ち上げと最初の苦い成功
- 中国版Twitterファンホウ(饭否)での挫折
- 三度目の成功と競合との差別化
- ピンチをチャンスに
- コピーからオリジナルへ:なぜO2Oキングなのか
- 日本でのメイティエン活用方法:インバウンドの必須ツール
- 参考文献
- 関連記事
メイトゥアンについて語るとき、その創業者である王兴(以下ワン・シン)のこれまでの道のりを知る必要があります。
ワン・シンは福建省の裕福な家庭に生まれた「フーアーダイ(富二代)」で、地元では最初にパソコンを持つことができました。これが1995年の出来事。学業も優秀で清华大学を卒業後、デラウェア大学にコンピューターサイエンス博士課程取得のために留学しましたが、シリコンバレーで起きていることをそのまま中国にコピーして持って来ることの可能性を感じます。そこで、博士課程を途中でやめて、北京に戻ることにします。ワン・シンは徹頭徹尾コピー戦略を推し進めます。ここまでやり抜けば見事というくらい。
日本でも欧米のスタートアップのコピーがたくさんあります。むしろ本当にオリジナルのアイデアって少ない。スタートアップで言われるのは「アイデアはフリー、実行はプライスレス(Idea is free, execution is priceless)」です。実行して成功した人が正しい。コピーも一貫してやり続ければ戦略になるということですね。
中国版Facebookレンレンワン(人人网)の立ち上げと最初の苦い成功
最初にコピーしたのがFacebookでした。2005年にワン・シンは大学時代の友人のワン・フイウェン(王慧文)と中学時代の同級生のライ・ビンチャン(赖斌强)の三人でFacebookのコピーであるシャオネイワン(校内网)を立ち上げます。これは大学の卒業生たちをインターネットでつなぐもので、すぐに10万ユーザーを獲得します。そして、一年後には100万ユーザーまで膨れ上がりました。
しかし、ユーザー数が増えてもビジネスモデルが見つかりませんでした。そのため、Sequoiaなどの米国の有力なVCからなかなか投資を受けることができませんでした。100万ユーザーのシステムの運用費を稼ぐことができず、仕方なくチェン・イージョウ(陈一舟)に200万ドル(約2億円)で売却します。
ちなみに、チェン・イージョウは買収したシャオネイワンをFacebookと同様に一般公開をしてレンレンワン(人人网)に発展させました。2008年にはソフトバンクが3億4000万ドルの投資で14%の株式を取得します。レンレンワンの成功と比べるともともとそれを作ったワン・シンが得たものはそれほど多くはなかったと言えます。
中国版Twitterファンホウ(饭否)での挫折
ワン・シンが次にコピーしたのがTwitterでした。マイクロブログのファンフォウ(饭否)を立ち上げます。前回と同様にすぐに10万ユーザー、2年後には100万ユーザーを獲得します。日本でもTwitterコピーはたくさん現れましたよね、成功したのは一つもありませんでしたが。
前回のレンレンワンでビジネスモデルの重要性を理解していたので、ファンフォウはスポンサーモデルをとりました。最初のスポンサーはHPでした。しかし、そこで起きたのが2009年のウルグイ騒乱です。この話題がファンフォウに溢れてきました。中国はこの手の言論統制に非常に厳しいので、シャットダウンしなくてはならなくなりました。この時在籍していたのが同じく不運なトウティアオ(头条)の創業者であるジャン・イーミン(张一鸣)でしたね。
当初は暫定的な処置だったのですが結果的に505日後の2010年11月25日まで再開することができませんでした。シャットダウンの間に立ち上がった同様のマイクロブログのウェイボ(新浪微博)に90%のユーザーを奪われてしまいました。
三度目の成功と競合との差別化
今回のメインとなるメイトゥアン(美团)は三回目の起業の起業となります。その時にワン・シンがコピーしたのがクーポンサイトのGrouponでした。2010年6月のことです。しかし、クーポンサイトの流行により同じようなサービスが5000くらい立ち上がったそうです。すごいレッドオーシャンですね。様々なサイトが顧客獲得のために多大な広告費を投入しました。クーポンサイトがかける一人当たりの獲得コスト(CPA)は100中国元(当時の1500円くらい)だったそうです。
微妙な成功と大きな失敗の後、ワン・シンが学んだことはゆっくりと進むことだったそうです。FacebookのコピーもTwitterのコピーも多くのユーザーを獲得できましたが、それをうまく活用することができませんでした。他のクーポンサイトが新規顧客に注力している中、ワン・シンが注力したのが顧客維持でした。新規顧客獲得のためのCPAは10中国元に抑え、顧客満足のための施策を多く打ち出しました。その中で特に特徴的なのは未使用のクーポンの返金でした。これらの施策のため、最初の三ヶ月は大きな利益を上げることはできませんでしたが、会員数が増えると利益も生むようになりました。
二回目の資金調達の頃にはすでに同じくらいの額のキャッシュがあり、クーポン提供のパートナー企業は競合よりもメイトゥアンと契約を望むようになりました。そしてメイトゥアン立ち上げから約1年半でクーポンサイトのシェア40%を達成します。
ピンチをチャンスに
しかし、クーポンサイトの流行に陰りがではじめるとメイトゥアンの資産評価も最盛期の1/3まで下がりました。これはライバルのクーポンサイトも同じで、資本市場からの圧力が高まります。更にアリババ(阿里巴巴)のバックアップの元で新しいフードデリバリーサービスであるEle.me(饿了么)が徐々に追い上げてきました。この頃、メイトゥアンは単月で約6億元の損失を計上しています。
当時ライバルだったダージョン・ディエンピン(大众点评)との合併もこのような背景から進むことになりました。敵の敵は味方ということですね。これによりビジネスの土台を確かなものにします。
コピーからオリジナルへ:なぜO2Oキングなのか
メイトゥアンはO2Oのビジネスを各産業ごとに展開します。外食関連の次は映画の予約とチケット販売でした。クーポンによるグループ購買は映画のチケットとの相性が良く、メイトゥアンの売り上げの30%まで成長します。そして、その範囲をグループ購買だけでなく、予約や口コミにまで広げます。
タクシーではディディと、旅行ではCtripと競合
下のイメージはメイトゥアンのスクリーンショットです。これを見ても分かる通り、グルメや映画だけでなく、ホテルや航空券といった旅行サービスやタクシーの予約といった滴滴出行と直接競合するサービスもアプリ内で提供しています。すでにサービス提供を行っている上海ではタクシーブッキングのシェアをすでに1/3をメイトゥアンが獲得しています。
例えば、旅行の場合だと中国ではCtrip(携程)が有名です。日本で言うところの楽天トラベルみたいなサービス。メイトゥアンはブッキングに関してCtripに及びませんが、旅行のために参考にするサイトとしては四番目に入っています。
Booking.comやAgodaの親会社であるBooking Holdingsがメイティエンに投資を決めたのもこのためでしょう。Booking HoldingsはCtripにも投資してるんですけどね。世界最大のOTAでも中国の旅行を取り入れたければCtripとメイトゥアンは外せないと判断したのでしょう。
メイトゥアンはユーザーがオフラインで何かやりたいときに使うオンラインプラットフォーム。つまり、O2Oの地位を獲得していると言えます。外食と映画で成功したO2Oのモデルをそれ以外のサービスまで広げて成功することで中国における「O2Oのキング」の座を勝ち取るのでした。
メイトゥアンは今年のIPOが囁かれていますが、IPOにより多くの資金を獲得できたらO2Oの地位を高めるために更に旅行やタクシーなどの分野に投資をしてくるでしょう。
それにしても、アリババとテンセント(腾讯)を敵に回してここまでの地位を築くのはすごいですよね。アメリカで言えばFacebookとGoogleを、日本で言えばソフトバンクとサイバーエージェントを敵に回して勝つってことですよ。
日本でのメイティエン活用方法:インバウンドの必須ツール
ボクの個人のインスタを見てもらえばわかりますが、ボクは美味しい食べものや飲みものが大好きです。『食いしん坊のデザイナーたち』という会を主催しているくらいです。好きが高じて『THREE BOTTLE BAR』なんて立ち上げるくらいです。美味しいもの大好きです。海外に出張に行くときは必ずその土地の美味しい食べものを調べます。綿密に予定を組みます。中国に行くならメイトゥアンで事前にチェックしておく必要があります。必須アプリです。あ、前置きが長くなってすみません。
東京で行列のできるお店に並んでいると、かなりの確率で中国人観光客も並んでいます。なぜか?彼らもまた事前にメイティエンで調べて来るのです。メイティエンはCtripやチューナー(去哪儿)のような旅行サイトを除いて最も旅行情報として活用されているサイトです。下のスクリーンショットはボクの行きつけである吉祥寺のホルモン酒場 焼酎屋『わ』です。メイトゥアンで検索すればサクッと見つかります。インバウンドを考える上でメイトゥアン対策は欠かせません。
更に支払いもQRコードに対応するといいですね。海外では飲食で現金払いはしません。特に旅行中はクレジットカードですね。中国ではアリペイ(支付宝)またはWeChatペイ(微信支付)が主流です。
日本でこの二つに簡単に対応するにはOrigami(アリペイ対応)かコイニー(WeChatペイ対応)ですね。残念ながら両方に対応しているペイメントサービスはまだ日本にはなさそうです。楽天ペイは対応すると発表していますが、現時点(2018年6月時点)ではまだ対応していません。
中国人向けインバウンド対策やってみたい!と言う飲食店があればTwitterでお声かけください。これは紹介したい!と思えるようないいお店なら2018年7月末までは絶賛無料でお手伝いします。ちょっと、自分でも試して見たいんで!
参考文献
斗士王兴:人人网、饭否、美团……他总是与成功失之交臂,又绝处逢生-科技频道-手机搜狐
Little-known start-up Meituan Dianping just hit a valuation of $30 billion
New Research Available: Analyst Session + Data Sheet on Ctrip and China Online Travel – Skift
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