このブログを再開する前にウォルト・ボグダニック(ピューリッツァー賞三回受賞)とマイケル・フォーサイス(NYT記者)による"When McKinsey Comes Town"というマッキンゼー批判本を読んでました。そしたら今度はマリアナ・マッツカートの新著“The Big Con”もコンサル会社批判本でした。なんか最近はコンサルティング会社が批判の的になってるのか。
マリアナ・マッツカートは『企業家としての国家』が日本でも翻訳出版されているリベラルの論客で、イノベーションにおける政府の役割を強調してきました。当ブログでも前著"Value of Everything"を紹介しました。
それにしても、今回のタイトルであるThe Big Conとはだいぶ痛烈だなと。Conは英語で詐欺のこと。日本でもドラマ『コンフィデンスマンJP』がありますが、あの「コン」です。コンサルのコンは詐欺の「コン」であると。ちなみにコンはConfidence Trick(信用詐欺)の略称です。すぐにできるのがスモール・コンで、長期間にわたる大規模な詐欺がビッグ・コン。今回のタイトルです。
本著でも"When McKinsey Comes to Town"でも語られていますが、コンサルティング会社の仕事は経営の効率化による株主利益の創出です。マリアナ・マッツカートはコンサルティング会社の急成長は1980年代からのネオリベラル台頭と呼応すると分析します。第三の道とかニュー・パブリック・マネジメントのような市場の原理や民間の経営手法を公共サービスに取り込もうという流れですね。コンサル会社がこの流れを作ったわけではないですが、この流れに大いに乗って急成長した。
マリアナ・マッツカートはネオリベラルの特徴は民間企業に生産性を委ねることだとします。金は出すが口は出さない。「小さな政府」は支出が減るわけではない。実際にサッチャー政権(1979年から1990年)7.7%政府の支出は増加したし、レーガン政権でも年率で平均9%支出は増えました。この流れの象徴的になった書籍がデビッド・オズボーンとテッド・ゲーブラーによる"Reinventing Government"(邦題『行政改革』)でした。クリントン政権やブレア政権で"reinvent"はよく使われることになります。この流れのもとで民営化、官民連携とアウトソース化が進められ、取りまとめ役としてコンサル会社が公共サービスで使われるようになります。
官民連携でよく使われる手法がPPP/PFIです。PPPはPublic Private Partnership、PFIはPrivate Finance Initiativeの略です。第3の道の特徴的な契約形態です。PFIでは最終的な支払い義務は公共側ですが、オフバランスになり財務諸表に載りません。よって、政府の支出の増加につながらない。ファイナンシングは民間側で受け持つ。リスクは公共側が持つ。PFIが積極的に採用された理由の一つがこれです。オフバランスですが最終的な支払い義務は公共ですので、支払い義務という意味では支出は倍になった国もあるそうです。PPP/PFIは日本でも進められていて、イギリスのInfrastructure Project Authority(旧IUK/PUK)に近い民間資金等活用事業推進機構や多くの地方自治体が参加する日本PFI・PPP協会があります。
PPPの枠組みにおけるPFI契約では広範囲で長期的な契約をプライムコントラクターがまとめて行います。複雑な契約なため、コンサル会社がプライムコントラクターになることもあります。契約初期にはスコープが定まりきっていないこともあります。特にDX領域なんてそうですよね。PFI契約では追加の入札が必要ないため、契約も不透明になりやすい。実際の利用者や納税者から見たら不透明な契約ですが、最終的なリスクを負うのも納税者になります。
コンサルが関わったPFI契約で破綻した失敗例として挙げているのが英国第二位の建設会社カリリオンの破産と世界一高い病院となってしまったスウェーデンの新カロリンスカ大学病院です。アメリカのHealthcare.govの失敗も仲間に入れてもいいでしょうね。Healthcare.govのCode for Americaのサルベージに関しては以前にも紹介しました。アメリカのCode for Americaや18F、イギリスのGDSは本書で提案される解決策にも繋がってきます。
英国2位の巨大建設会社破綻から学ぶ3つの教訓 | 日経クロステック(xTECH)
本著のテーマは先日紹介したブルース・シュナイアーの"A Hacker's Mind"とも共鳴します。ブルース・シュナイアーが定義する「法律や政治、人の認知システムを含めた広義のシステムのハック」はコンサル会社が得意とするところだからです。"A Hacker's Mind"でも代表例として取り上げられているオフショアを使った節税なんてまさにコンサル会社の商売ですし。本著で紹介されているアンゴラの独裁政権による資産逃避とかも手引きしているのはコンサル会社でした。
あと、以前紹介した『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド』もマッキンゼーの関与がありましたし、医療業界のエンロン事件とも言われたバリアントの問題もやはりマッキンゼーが関与していました。もう、違法じゃなければなんでもやっていいというブルース・シュナイアーが危惧するようなことの裏にはだいたいコンサル企業がいる。
ブルース・シュナイアーとマリアナ・マッツカートは視点は違いますが、同じ危機感を共有しているんですね。コンサルがやってるのはハックだし、市場の原理を公共サービスに持ち込んでもうまくいかないことはわかってきた。マリアナ・マッツカートも処方箋を最後に提案していますが、新自由主義の時代は長かったので、その揺り戻しも時間がかかりそうですね。