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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|エドガー・アラン・ポーの未完の作品からスタートした怪作|"The Lighthouse" by Robert Eggers

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これまで日本ではまだ翻訳されていない本を紹介してきましたが、今年はもっと日本未公開の映画も紹介していきます。今回は良作を連発して勢いが止まらないA24制作でロバート・エガース監督作品"The Lighthouse"です。評価が高い映画なので、そのうちに日本でも公開されると思います。

ロバート・エガース監督による15世紀の魔女伝説を舞台とした前作『ウィッチ』はホラー映画と言い切れない不思議な映画でしたが、今回の19世紀の灯台を舞台とする"The Lighthouse"は更にカテゴリーしにくい映画です。昔のニューイングランドを舞台に隔離された環境に閉じ込められるシチュエーションは同じですが、更にホラーっぽさは無くなっています。うーん、ホラーじゃないかなあ。ホラーと言えばホラーか?哲学的でもありドラマとも言い切れない。

The Lighthouse [Blu-ray]

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ウィッチ(字幕版)

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"The Lighthouse"のスタート地点はエドガー・アラン・ポーの未完の作品"The Light-House"でした。ロバート・エガースの兄弟マックス・エガースがこれを完成させる取り組みをしていましたが、二人で映画の脚本とすることにしました。しかし、結果的に全く違う話になりました。むしろ、インスピレーションとして強く影響を受けているのが1801年に起きたウェールズにあるスモールズ灯台での殺人事件です。

映画の舞台は19世紀後半の米国ニューイングランド。灯台の守役として4週間派遣されたウィレム・デフォー演じる老人とロバート・パティンソン演じる若者の二人を描いた映画です。登場人物は二人だけ。19世紀後半なので当然ながら電気水道ガスは完備されていません。水や食料の備蓄がなくなるとやばい環境。それなのにカモメが……補給が……。灯台の明かりはオイルを燃やしてフレネルレンズで増幅させ、石炭を使った蒸気で回転させます。なかなかボロボロな灯台でメンテもたいへん。

この映画の特徴は四つあります。

まず第一にほぼ正方形の画角。これは1920年代中頃から1930年代初頭に短い期間に使われたMovietoneというフィルム式トーキーのフォーマットらしいです。ボクなんかは昔はブローニーフィルムを使って写真を撮っていたので、そっちに近い感覚だと思いました。ボクらが慣れている画角って映画なら横長、スマホなら縦長の長方形ですよね。四角い映像はどことなく狭苦しく感じます。この映画ではこの狭苦しさが効果的に使われています。

二つ目が光の効果的な使い方です。灯台ですしね。モノクロ映画なので光のコントラストがとても重要な表現方法となります。二人のどちら側に光が当たっているとか、光が当たる方向とか。とにかく光が大事な映画です。登場人物は二人しかいないので、映像に語らせないといけないのですよ。しかも、ウィレム・デフォー演じる老人はかなり特殊な話し方や英語表現をするため、何を言っているのかよくわからなくなるし。ボクでも字幕がないとかなり辛かったです。

三つ目が老人と若者がそれぞれ象徴するものの対比です。老人と若者、神と下僕、酒と水、海と森、信仰と欲望。では、存在としても対照的な二人なのか?そうではありません。合わせ鏡のような存在で、関係性も変わってきます。ひょっとしたら同一人物なんじゃないかという印象を観る側に与えます。そして共通点として二人とも嘘つきです。「信用できない語り手」です。嘘と幻想の世界。誰の視点の話なのかによって解釈はだいぶ変わると思います。

最後に比喩の多用です。死の象徴としてのカモメ、欲望の象徴としての人魚、神の象徴としての光がとても印象的です。かなりわかりやすい形で提示されます。まあ、二人しか登場人物がいないので、わかりやすい小道具は必要ですよね。

まだ一月終わりですが、今のところ、このThe LighthouseとChained for Lifeの二作が2020年のベストですね。特に今作はウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの怪演が凄まじすぎます。とっつきやすさはChained for Lifeなんですが、The Lighthouseは映画自体のパワーが凄いと言いますか。ロバート・パティンソンは『トワイライト』でのイケメン吸血鬼の印象が強いですが、凄い役者になりましたね。今年はクリストファー・ノーラン監督の期待の新作『テネット』にも出演が決まってますし、新しいバットマンにも抜擢されましたしね。

2020年1月後半までに観た映画にひとこと(観た順)

殺人の追憶:タランティーノの多幸感溢れる『ワンハリ』以降では、評価しにくい映画。

電人ザボーガー:迸る原作愛!

KING OF PRISM by PrettyRhythm:既成概念の斜め上を駆け抜ける応援上映のキング

KING OF PRISM PRIDE the HERO:今回は腹筋から空爆!

The Lighthouse:本作

ウィッチ :本作と比べると練り込みが浅いが、悪くはない。

ジャックは一体何をした?:『ツイン・ピークス』のエピソードのようなデヴィッド・リンチのお遊び

魂のゆくえ:クリスチャンじゃないとこれは厳しいっす……

スティル・クレイジー:ビル・ナイにはもっとこういう役をやってほしい