「サービスデザイン」はその名の通り「サービス」をデザインします。プロダクトデザインと大きく異なるのは人との関わり。たとえばホテル(コンシェルジュやベルキャプテン)、小売業(店員)、コールセンター(カスタマーサービス)に飲食店(ホールスタッフ)。サービス業の接点はプロダクトだけでなく、人が大きくかかわってきます。
このブログでこれまで紹介した本はすべて組織に関することです。サービスの根幹が人であるならば、その人の集まりの組織は非常に重要だからです。いくらオペレーションのデザインが素晴らしくても、それを運営する人が幸せでなければいいサービスにはならない。ここにどこまで踏み込んでいけるかがサービスデザインプロジェクトの成否を握ってると言えます。
「いい仕事戦略」と「わるい仕事戦略」
今回紹介する"The Good Jobs Strategy"は日本語に訳すと「いい仕事戦略」です。ビジネス戦略には「いい仕事戦略」と「わるい仕事戦略」がある。「いい仕事戦略」を実行している企業は競合より安い商品を提供し、顧客を満足させ、従業員を満足させています。そして利益がでる。たとえて言うなら「ダイエー」より安くてサービスがいい「成城石井」や「明治屋」をイメージしていただければいいかと思います。
(右が"The Good Jobs Strategy"著者のZeynep Ton)Photo By US Department of Labor - L-16-02-12-A-053, CC BY 2.0, Link
「いい仕事戦略」は人事戦略とオペレーション戦略に分かれます。人事戦略は驚くほどホラクラシーのような自律型経営に似ています。オペレーション戦略はトヨタのようなリーンマニュファクチャリングに近いものがあります。自律型の組織と標準化は相性が悪そうなのですが、そうではありません。
「いい仕事戦略」の人事
「いい仕事戦略」では人材に多くの投資をします。そして、従業員の満足度が高い。だから離職率がものすごく低い。例えば米コストコではストアマネージャークラスで年収が1000万円です。エントリーレベルのスタッフでもウォルマートなどと比べると圧倒的に高い。マズローの欲求段階ではないですが、ベーシックなニーズが満たされないと、それ以上のことに集中できない。
トレーニングにも多くの投資をしている。たとえばレジだけではなく、精肉もできるし、在庫管理もできる。そういうクロストレーニングをすることによってピークタイムに必要なワークロードの平準化を行うことができます。
そして自律型の組織運営に近いので、現場で起きていることを現場で対応できる。ホラクラシーやティール型の組織に考え方がすごく似ている。実際にZapposも「いい仕事戦略」の例として紹介されています。
「いい仕事戦略」のオペレーション
ひとは定型化された作業を嫌う傾向があります。それでもオペレーションの効率化には必要なのである種の「必要悪」とみなされます。ここで紹介されているオペレーション上の戦術はとても興味深いものです。たとえば、サービスって需要がなかなか読めません。サービスをするにはスタッフも配置しなければいけないし、スタッフには当然人件費がかかる。「いい仕事戦略」を取る企業は人に多額の通しをしているのですから、なるべく無駄なコストにはしたくない。
一つだけ紹介すると需要に対して「フラット戦略 "Level Strategy"」と「需要追っかけ戦略 "Chase Strategy"」がある。多くの企業は無駄をなくしたいから需要予測を細かく行って「需要追っかけ戦略」をやろうとする。しかし「いい仕事戦略」を取る企業の多くは「フラット戦略」をとる。そうすると需要と供給のギャップが生じるのですが、クロストレーニングなどで弾力性を持たせることで無駄なコストにしない。こういう経営視点はサービスデザイナーも持つべきです。
この本はおススメか?
ここで紹介されているのは小売業なのですがサービス業であればどの産業でも当てはまります。製造業であってもこれからサービス化は避けて通れない成長戦略ですから、見習うべきところは多いと思います。経営者なら読むべきです。
また、サービスデザイナーも読むべきです。サービスデザインプロジェクトでは多くの場合、顧客接点の後ろにあるバックステージのデザインを含みます。ここで経営視点が持てないと「絵に描いた餅」になってしまいます。人事領域にまで踏み込むにはそれなりの知識が必要となります。
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