カタパルトスープレックス

イノベーションに効く世界の情報を日本語で

企業のイノベーションプロジェクト成功に本当に必要なこと

f:id:kazuya_nakamura:20190813175650j:plain

Photo by sergio souza from Pexels

夏休みということもあり、このブログで紹介するような書籍は読んでいません。劇団☆新感線の『けむりの軍団』を見に行ったり、話題の『三体』を読んだり、カレーのメニューを開発したりしています。そのため、通常のブログ記事の更新はありません。

今回は最近ちょっと考えていることを書きます。

このブログは「イノベーションに効く世界の情報を日本語で」をテーマにして英語や中国語の情報をいち早く日本語でお届けしています。ブログをはじめた頃はまだ海外にいました。海外だからこそ入ってくる情報もあるので、それを日本語で紹介するという趣旨でした。途中で日本に戻ってきましたが、外国の情報を日本語で発信するスタンスは変わっていません。

知らないことに興味はない

一般誌や書籍の編集者とお話しする機会があります。私もブログではなく紙の媒体で書いたらどうかと紹介してくださる方々のおかげです。紙媒体の編集者の方々と話をしていると一般読者は「知らないことに興味はない」と言われます。海外事情はあまり読まれないそうです。例えば、セブンイレブンやユニクロのような知っている企業の事件や出来事には興味を持たれます。海外のことより、日本のことの方に関心がある。とはいえ、日本企業のことや、すでに知られている事象に関してはボクより詳しい人たちはいっぱいいます。お話をいただき、ありがたいのですが、ボクが書く意味ってあまりない。そういうわけで、ボクはこのブログで書き続けてます。

それにしても「知らないことに興味はない」はかなり深い洞察だと思いました。生活していれば強制的に入ってくる知識が一方であり、求めなければ入ってこない知識も他方にある。衣食住に関する知識が前者、それ以外が後者。コンマリとか前者から興味が派生したコンテンツ。コスメ情報なども多くの女性にとっては前者に属するコンテンツなのでしょう。衣食住など常に触れる(みんな知ってる)知識から派生するコンテンツは強いです。一般読者向け。

ジャニーズに関する情報は後者(求めなければ入ってこない知識)に属するコンテンツだと思います。テレビを見ていればジャニーズに関してそれなりの情報は入ってくる。しかし、熱狂的なジャニーズファン(=ジャニオタ)の情報力は一般のボクらとは全く違います。嵐とKAT-TUNのコンサートにおける振る舞いの違いを説明されたけど、感心するだけで何もリアクションが取れませんでした。へー、すげー。そうなんだー。このブログで書いている海外の情報も後者(求めなければ入ってこない知識)ですよね。ジャニオタが求める(みんなは知らない)コアな情報とあまり変わらない。ニッチ読者向け。

シーズとニーズの問題

企業のイノベーションプロジェクトに関わるとシーズからはじめるか、ニーズからはじめるかが議論となるケースが多いです。多くの破壊的なイノベーションはシーズから生まれました。たとえばiPodなんて代表例ですよね。ニーズは顕在化していないけど、そこにニーズがあるはずだとタネ(シーズ)をまく。世に出た時に初めて気がつく、目から鱗。これがシーズのアプローチです。iPodが登場した時は、かなり懐疑的な人たちが多かったのを覚えていますか?トヨタのプリウスもそうでしたね。でも、このシーズのアプローチを意識的にやるのはかなり難しい。大企業の研究所ではシーズ探しの活動をしていますが、一攫千金みたいなところがあって、なかなか続きません。しまいには研究所や研究部門もコスト対効果を求められるようになったりして。営業からのニーズがなければお金を使ってはならんみたいな。

ニーズのアプローチは顕在化しているユーザーニーズに応えるアプローチです。Googleの検索なんてニーズのアプローチですよね。Altavistaを含めてろくな検索エンジンがなくて、困っていたところに、Googleが検索問題をほぼすべて解決してくれました。任天堂のファミコンもそう。当時はゲーム機一台で複数のゲームは遊べませんでした。それをカセット方式でいろんなゲームを遊べるようにしたのがファミコン。

シーズからはじめても、ニーズからはじめてもいいのですが、両方に必要なのが深い洞察と好奇心です。トヨタ生産方式の代表的な手法であり、デザイン手法としても用いられる「なぜなぜ分析Five Whys)」は思考実験から深い洞察を得る手法です。海外のデザインプロジェクトではよく使われるのですが、日本ではあまり使われていません。不思議ですよね、日本生まれの手法なのに。深い洞察がなければ、シーズだろうが、ニーズだろうが凡庸なアイデアしか出てきません。ネットを検索すればたくさん出てきますよね、「交通費精算自動化」とか「置き傘シェアリング」とか「自動議事録」とか。企業内でアイデアコンテストをやれば、社員から出てくるアイデアはこれら「ありがちなネタ」がほとんどになると思います。深い洞察が足りないからです。

「なぜなぜ分析」を使えば「なんでそうなんだろう?」と原因を深掘りできますし、「そもそもなんでそうしたいんだろう?」とさらに高い視座に立って見ることもできます。それが問題なのはわかるけど、そもそもやりたいことは何?その場合、ボクは「そもそも分析」とよんでいます。「なぜ?」という思考には好奇心が必要です。テレビアニメ『一休さん』の登場人物の中で最強の思考回路を持ったのは賢い一休さんではなく、何もわからず「Why?」を繰り返す「どちて坊や」でした。知識は結果で、好奇心が原動力です。深い洞察は好奇心がなければ生まれません。

f:id:kazuya_nakamura:20190813183236j:plain

©️東映アニメーション

「知らない」と「知りたくない」は違う

企業の中でイノベーションプロジェクトに携わる時、まずは知識レベルを上げる活動からはじめるのが効果的だと思います。そして、小さなプロジェクトでその知識を実践する。予算もゼロで、クラブ活動的なもので構いません。多くの人たちは知識を拒絶しているわけではなく、単に「知らない」のです。「知らないことに興味はない」のですが、知れば興味が湧きます。きっかけが大切です。好奇心を生むちょっとしたきっかけ。いろんなことを知る機会を作る、その知識を実践する場を与える。これを繰り返していくしかありません。

経験則で言えば60%くらいの人たちの考え方が変わります。20%くらいの人たちは考え方だけでなく、行動も変わります。残りの20%の人たちはやっぱり興味がない。それはそれで仕方のないことです。今ある仕組みをしっかり回していくことに集中する人も必要なのですから。衣食住のように全ての人に必要じゃないけど、好奇心を持っていろんなことに取り込む人たちが増えた方がいいですよね。イノベーションを起こすのは機械ではなく、人なのだから、人が変わらないといけない。