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暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」

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何がビットコインやブロックチェーンをここまで盛り上げてきたのか?それは、ロマンだと思うんですよね。暗号化通貨のロマンは二つあります。まず、お金持ちになりたいロマン。そして、自由になりたいロマン。そのロマンにみんな集まってきました。

しかし、「お金持ちになりたいロマン」はすでに終わったようです。ビットコインは2017年12月に最高値をつけ、2018年に急落し、2019年に入ってようやく復調の兆しを見せていますが、それでも2017年のレベルにはまだまだ届きそうにありません。イーサリアムに至っては復調の兆しすら見えません。高いボラティリティは失われました。

今回は暗号化通貨の「自由になりたいロマン」に焦点を当てて、最近話題になっているDeFi(ディファイ)を前編/後編に分けて解説します。今回は「なぜディファイ? (Why DeFi?)」です。その技術で得た自由でどうしたいの?

なお、次回は「なにがディファイ? (What is DeFi?)」です。Daiステーブルコインの話とかを期待している人は、後編まで待ってください。そういう話は検索すればいっぱい出てきますし。

ロマンのツールとしてのDeFi(ディファイ)

「お金持ちになりたいロマン」は終わりつつありますが、「自由になりたいロマン」としての暗号化通貨とブロックチェーンは続いています。ビットコインもイーサアムもまだまだ改善を続けています。そして、リバタリアン(完全自由主義)のツールとしてのブロックチェーンを体現する動きがディファイで、政府と金融機関に集中管理された既存の金融システムから独立した分散化金融を目指しています。ディセントラライズド・ファイナンス(Decentralized Finance) の略称です。

普通の人たちは今の金融システムで十分満足していますよね。日本円を使ってて困ったこととかほんとんどないでしょ?アメリカに住んでいる人も米ドルで困ったことはほとんどないと思います。今のシステムの中でもモバイルペイメントとか、やることだって山ほどある。なんでディファイ?そこにロマンを求める人たちがいるからです。

ディファイの思想:リバタリアンのおさらい

政府からどれくらい自由になるべきか。その立ち位置を表す言葉がたくさんあります。政府の役割が多い方がいいと思う人は「リベラル」、政府の役割が少ない方がいいと思う人は「コンサバティブ」に多い気がします。リベラルは政府の役割を強めて社会保障を厚くする方向に向かいがちですし、結果的に税金が高くなる。コンサバティブは政府の役割を弱めて民間企業にその役割を委ねる方向に向かいがちですし、結果的に税金が安くなる。政府の役割が強い極端な例が「コミュニズム(共産主義)」で、昔の中国やロシアがそれに当たります。政府の役割がない極端な例が「リバタリアン(完全自由主義)」です。

長い歴史の中で、政府の役割は変わってきました。なるべく干渉しないレッセ・フェールの時代もありましたし、なるべく管理するニューディールの時代もありました。今は政府はなるべく干渉せずに自由市場に委ねる新自由主義の時代です。その方向性に影響を与えているのがリバタリアンです。

リバタリアンの思想にはいい面と悪い面があります。映画『スターウォーズ』に例えれば、同じリバタリアンでもジェダイもいますし、シスもいます。フォースという力を操る意思によって、いい思想にもなれば、悪い思想にもなります。

自由を守るジェダイとしてのリバタリアン

ボクたちの暮らしは監視されています。え?何かの陰謀説?いえいえ、違います。例えばブラウザでWebサイトを開けばクッキーで自分たちの行動はトラッキングされます。アマゾンがオススメ商品を提案できるのも、グーグルが入力する検索キーワードを予測できるのも、行動データを蓄積して、それを人工知能を使って分析しているおかげです。ボクたちの行動データは商品として取引されています。ショシャナ・ズボフは"The Age of Surveillance Capitalism"で、これを「監視資本主義」と名付けました

Gmailで送るメールも、Amazon Echoに語りかける声も、FacebookやTwitterの投稿や「いいね」も、すべて個人にひもづく行動データです。LINEだって同じですよ。だって、みなさんログインして使ってますよね?クッキーだけだと技術的に個人にまでひもづけることは難しいです。しかし、ログインさえしていれば簡単に個人を特定できます。

自由を担保するにはプライバシーが大切だとリバタリアンは考えます。ブロックチェーンを生み出したサイファーパンクたちの最初の動きは追跡されない暗号化技術です。政府の監視から自らを守る武器が暗号化技術でした。

政府による監視が単なるパラノイアや被害妄想ではなく、現実に起きていることだと教えてくれたのがエドワード・スノーデンでした。そして、それが民間企業にまで広がっていると分かったのがケンブリッジ・アナリティカのデータ流出事件でした。ボクはそれをきっかけに本当にフェイスブックとグーグルのChromeやめましたもの。フェイスブックの暗号化通貨のリブラ(Libra)なんてディストピアしか予見できません。

このような監視資本主義の中で生活する上で、自分のプライバシーを守る手段は少ないのが現状です。安全なブラウザを安全な設定で使うとか、Signalのようなメッセンジャーを使うくらいでしょうか。なるべく使わないようにすると言っても限界があります。ブロックチェーンを使った分散型の仕組みであれば、プライバシーの流出を気にする必要がなくなります。それが現実的なのかどうかは別にして「ロマン」があります。

悪の帝国としてのリバタリアン

格差の元凶

世の中は監視資本主義であり、同時に格差社会でもあります。この格差社会の原因は政府の管理を最小限にして市場原理にゆだねる新自由主義だと言われています。政府が干渉しないということはセーフティーネットもないということですからね。そして、新自由主義を強く推進してきたのがリバタリアンです。代表がノーベル賞を受賞した経済学者のミルトン・フリードマンですし、企業家として愚直に実践してきたのがコーン兄弟です。なんか、いきなりダークサイドが現れてきましたね。

格差の拡大は先進国で広く見られる現象で、「ウォール街を占拠せよ」などの運動につながりました。新自由主義が台頭した1980年代から現在まで格差は広がり続け、アメリカの上位1パーセントの収入は平均275%増加しました。この辺のデータはトマ・ピケティの研究でも明らかになっています。

南米のチリは新自由主義を実践して経済的に急成長しました。「チリの奇跡」と呼ばれています。軍事クーデターで政権を得たピノチェトの下で実際に高い成長率を記録したのですが、同時に経済格差も広がりました。一方で同じく南米で急速な経済成長を果たしたブラジルは労働党出身で思想的にはかなりリベラルなルーラ政権下で貧困層向けの家族手当であるボルサ・ファミリアを実施して、経済成長と格差縮小を同時に実現しました。実は貧困層に向けた現金支給は貧困層向けの減税よりも効果的だと主張したのもミルトン・フリードマンだったりします。リバタリアンのフリードマンがリベラルな政策を提言したりするのは面白いですよね。

それはそうと、経済成長と格差。アナンド・ギリダラダスも"Winners Take All"で指摘していますが、富裕層は貧困を問題化することに積極的ですが、格差を問題化することには消極的です。貧困に目を向けさせて、格差からは目をそらそうとします。これがリバタリアンのダークサイドです。

日本でもどこまでが自己責任で、どこまでが社会の責任なのか、が議論されますよね。自己責任論はどちらかといえばリバタリアン的なモノの見方です。セーフティーネットとかベーシックインカムみたいな社会的弱者保護はどちらかといえばリベラル的なモノの見方です。どっちが正しいということはなく、バランスなんですけどね。

闇取引の元凶

もう一つのリバタリアンのダークサイドが闇取引です。お金の流れを政府が把握したいのには訳があります。犯罪に利用されないためです。お金の移動は中央で記録されています。だから本人確認義務(KYC)は金融取引にはとても大事なのです。そこで、犯罪者はお金の出自がわからなくなるように資金洗浄(マネーロンダリング)をします。

これまでに明るみに出た麻薬などの違法取引をするダークウェブで最大のものはシルクロードです。そして、このシルクロードの首謀者であるロス・ウルブリヒトもリバタリアンでした。このシルクロードで使われたのが暗号化技術のTorであり、ビットコインでした。

で、なんでディファイ?

ビットコインなど暗号化通貨は単なるツールであり、善も悪もありません。それはディファイにも言えることです。悪い奴らに悪用されるかもしれないのに、なんでわざわざそんなものを作るんだ?そう疑問に思うこともあるでしょう。そこ答えは簡単ではありません。そんなこと言ったらインターネットだって悪い奴らに悪用されますしね。ツールってそういうものです。

技術は善悪関係なしに進歩していくものですし、いまは「それがロマンだから」としか言いようがないですね。それでも、これからディファイを世に広めようとするのであれば、リバタリアン的なこの技術のいい面と悪い面をちゃんと理解した上で、悪用されないようにするにはどうしたらいいのかを考える必要があると思います。