エリック・リースはリーン・スタートアップを書籍の形で世に出しましたが、グロースハックという言葉を2010年に生み出したショーン・エリスこれまでグロースハックの本を書いてきませんでした。グロースハックはショーンがコンセプトを発表した後に、アンドリュー・チャン(a16zのパートナー)がブログで紹介してスタートアップ界隈で広がりはじめました。そして、ショーン・エリスはGrowthHackersというグロースハックのコミュニティーの運営を始め、そこでノウハウの共有をします。
今回紹介する"Hacking Growth"はグロースハックの生みの親であるショーン・エリスがはじめて出すグロースハック本です。GrowthHackersのコミュニティーで集まった知見を体系立てて整理しています。ボクも国内外のグロースハック本を何冊か読みましたが、さすが本家本元。決定版と呼ぶに相応しい内容になっています。
Hacking Growth: How Today's Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success
- 作者: Morgan Brown
,Sean Ellis - 出版社/メーカー: Virgin Books
- 発売日: 2017/04/27
- メディア: ペーパーバック
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グロースハックのフレームワーク
プロダクトには二つのステージがあります。プロダクトマーケットフィット(PMF)のステージと成長のステージです。
プロダクトマーケットフィットのステージ
プロダクトマーケットフィットは「顧客が愛してくれる製品」ということです。製品(プロダクト)と顧客(マーケット)がフィットする。Gmailを生み出したポール・ブックハイトの「ディープアピール」と同じ。この本では"Product Must-Have"と定義しています。これがなければ成長のステージにいけません。どんなグロースハックも意味がない。
このステージはどちらかといえばリーン・スタートアップが得意とするステージです。多くのグロースハック本もJavelin Boardなどリーン・スタートアップの手法を紹介しているケースが多いです。この"Hacking Growth"でもいくつか紹介されていますが、特に印象深かったのが"Product Must Have Score"です。
製品の価値を検証せずに開発してしまった製品ってたくさんあります。グロースチームとしてそのような製品を担当した場合どうしたらいいのか?ユーザーに「この製品がなくなったら?」と聞いてみるんです。「ガッカリ」するが40%を超えていたらかなりポテンシャルが高い。20%以下だとかなりヤバイ。フレームワークと合わせて具体的な手法をたくさん紹介しているのもこの本の魅力といえます。
成長のステージ
プロダクトマーケットフィットで製品がユーザーに愛されるものだと検証したとに成長ステージがはじまります。ここがグロースハックの真骨頂ですね。この本はパート1で全体的なフレームワークやそれを支える役割や組織を説明した後に、パート2でプレイブックとしてたっぷりと体系立てて考え方や手法を紹介しています。
そして成長ステージには「言葉とマーケットのフィット(Language Market Fit)」の検証と「チャネルとプロダクトのフィット(Channel Product Fit)」の検証があります。「愛される製品」をちゃんとユーザーに説明できることが「言葉とマーケットのフィット」です。伝わらなければ意味がない。「チャネルとプロダクトのフィット」はそれを実際に届けるチャネルは機能するかということです。届かなければ意味がない。
このように体系立てて何が大事なのか、どのような順番で進めればいいのか指針をクリアにしているのがこの本のいいところだと思います。
グロースハックのプレイブック
後半のパート2では以下の順序に沿って具体的な手法を紹介しています。
- 顧客獲得(Acquisition)
- 顧客活性化(Activation)
- 顧客維持(Retention)
一番有名なグロースハックのフレームワークであるパイレーツメトリックスのAARRRの最初の三つですね。それぞれの段階でこのように整理整頓してくれているので、わかりやすいです。例えば顧客維持(Retention)でもイニシャル、ミディアム、ロングの三段階で説明しています。
実技編と言えるこのパート2では実際に使える手法やツールだけでなく、Kファクターなどの測定方法も紹介しています。
どのような人にオススメか?
新規事業に関わる人、マーケティングに携わる人、グロースハックに携わる人には読んで欲しいです。ここで紹介されている手法をすでに実践している人も多いと思いますし、考え方も理解しているかもしれません。しかし、改めて整理された形で提示されると多くの気づきがあります。
経営者にも読んで欲しいです。世の中には「愛される製品」だと検証される前に発売されているプロダクトやサービスがたくさんあります。むしろ大多数の製品は市場調査だけで「ニーズがある」と判断されます。「ニーズ」を仮説としてプロダクトマーケットフィットまで検証したケースなど少ないでしょう。必要とされないものを作るのは無駄です。検証する方法があるのだから、きちんと検証しましょう。