カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|大人ためのリーンスタートアップ『スタートアップ・ウェイ』|"The Startup Way" by Eric Ries【2018年夏休み読書週間】

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イノベーションの実現を助ける手法としてリーン・スタートアップは有名です。用語としてMVPとかピボットとか聞いたことがある人もいるでしょう。『スタートアップ・ウェイ』は『リーン・スタートアップ』を書いて世の中にリーン・スタートアップを広めたエリック・リースの新著です。

リーン・スタートアップはスタートアップだけではなく、どのような規模でも業態でも活用できる考え方ですが、今回のスタートアップ・ウェイではGEやアメリカ政府などの事例を紹介しながら大規模な組織や伝統的な業態での適応の仕方を紹介しています。今回は英語の原書を読んでの書評なので最近出版された翻訳版と少し用語が違うかもしれません。読むんだったらもちろん翻訳版を読んだほうがいいです。

 

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

  • 作者: エリック・リース,伊藤穣一(MITメディアラボ所長),井口耕二
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 単行本
  • 購入: 24人 クリック: 360回
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スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

前提としての二つの経営

経営には二つあるとエリック・リースは言います。一つは伝統的な経営(General Management)でもう一つは起業家の経営(Entrepreneurial Management)です。これまでのビジネスだけでなく、新しいイノベーションを起こす持続可能な経営のためにはこの二つの両方が必要だとエリック・リースは主張しています。

伝統的な経営

伝統的な経営は予測できる世界の中で有効です。予実管理とかパイプライン管理はビジネスは先が見通せることを前提にできている考え方です。それを支える会計ツールやSCM、CRMなど全て予実管理のツールです。

このような伝統的な経営は市場が求める計画と予測を提供するために必要です。

起業家の経営

すでに確立したビジネスのある企業と違い、スタートアップは予測することができません。スタートアップが3年生き残る確率は10%未満です。ドットコムバブルやリーマンショックでも多くのスタートアップが潰れました。それでも生き残った企業はイノベーションを起こして伝統的な企業より大きな市場価値を生み出しました。

予測ができないことを前提で様々な手法が生まれました。リーン・スタートアップはその一つですし、グロースハッキングやデザイン思考、ジョブ理論などたくさんの考え方が起業家の経営を支えています。

スタートアップとイノベーションのジレンマ

ボク自身の経験を振り返ってみれば、伝統的な企業とスタートアップでは求めているものが確かに異なっていました。

伝統的な企業はよりスタートアップ的な考え方を取り入れたい。リーン・スタートアップやアジャイルなどを活用したイノベーションのやり方を知りたい。

スタートアップはより伝統的な手法を取り入れたい。売上予測の立て方やそれを管理するためのパイプライン管理手法などを知りたい。GoogleやFacebookを見ればわかりますが、スタートアップはいずれ大企業になります。その成長の過程で伝統的な市場のニーズに応える方法を身につけなければいけません。しかし、その過程で起業家の経営は失われていきます。

伝統的な企業で起業家経営をする

スタートアップ・ウェイはどのように伝統的な経営と起業家の経営という二つの経営の考え方をどのように組織に定着させて持続可能なイノベーションを生み出す企業に変革できるかを説明しています。

すでに多くの企業はイノベーション・ハブの考え方を取り入れています。このカタパルトスープレックスで紹介しているアメリカ政府の18Fやイギリス政府のGDSもイノベーションハブですし、以前に紹介したバークレイズ銀行のデザイン部門もイノベーション・ハブです。ボク個人も多くの国内外のイノベーション・ハブに関わってきました。

スタートアップ・ウェイはその発展系とも言えます。ちなみにイノベーション・ハブというのはボクが勝手に作った造語ではなく、欧米では割と頻繁に使われている言葉です。イノベーション・ラボとも言います。

スタートアップ・ウェイに必要なこと

イノベーション・ハブは伝統的な企業がスタートアップ的な手法を取り入れる時に有効です。しかし、経営レベルでは伝統的な経営に留まります。スタートアップ・ウェイの新しいところはリーンスタートアップという手法を取り入れるだけでなく、経営レベルで持続可能なモデルを提案しているところでしょう。

単に手法だけを知りたければ前著の『リーン・スタートアップ』で十分です。これをボトムアップで経営レベルまで持っていくにはどうしたらいいのかというのが『スタートアップ・ウェイ』の主題となっています。これを読めばどのような組織を作り、どのように管理をすればいいのかがおおまかに理解できます。

どんな人にオススメか

経営者の人には読んで欲しいですね。あと、開発や新規事業を担当する役員やマネージャー。エリック・リースの特徴はとても奥深い考察に基づくフレームワークの提供です。実際の手法となると実は以外と提示されていない。だからこそ、『リーンスタートアップ』の後も様々な関連書籍が発売されたのです。

例えばリーン・スタートアップでは「挑戦の要となる仮説(Leap of Faith Assumption)」という考え方が紹介されていますが、具体的にどんな仮説を立てればいいのか悩む人は多いかと思います。仮説には顧客/プロダクトの軸とアイデア/実証の軸があって、この四象限で考えないといけない。そこまで細かいことはエリック・リースの本には書いてありません。具体的な手法が知りたい人はこの後に発売されるであろう関連書籍をお勧めします。もちろん、ボクもお手伝いできます(お問い合わせはTwitterまでDMで)。

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

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  • 作者: アッシュ・マウリャ,渡辺千賀,エリック・リース,角征典
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法 (THE LEAN SERIES)

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  • 作者: アリステア・クロール,ベンジャミン・ヨスコビッツ,林千晶,エリック・リース,角征典
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2015/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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id:i2key さんがとても詳細な『スタートアップ・ウェイ』の紹介をされているので、興味がある人はまずこちらを読んでみるのもいいかもしれません。