スタートアップの歴史を語る上で避けて通ることができないのがPayPalです。2002年のeBayによるPalPayの1億5000万ドルの買収は、創業者や社員に大きな富をもたらしました。それがPayPalマフィアと呼ばれる創業者たちになっていきます。PayPalがなければテスラはもちろんのこと、YelpもYouTubeもありませんでした。
PayPalマフィア
まず、PayPalマフィアについて。PayPalの初期メンバーはその後にさらにスタートアップで成功させています。イーロン・マスク やピーター・ティールといった創業者だけでなく、チャド・ハーリ/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(YouTube)、ジェリミー・ストッペルマン(Yelp)、リード・ホフマン(LinkedIn)など錚々たる顔ぶれです。
PayPalはインターネットが伸びるドットコムバブルの初期に設立され、ドットコムバブルが崩壊した後にeBayに買収され無事にエグジットしました。少なくとも、eBayに買収される前まではとても革新的な会社でした。グロースハックのパイオニアでしたし、アリババのビジネスモデルはPayPalのそのままパクリだったりもします(PayPalが失敗したモデルを成功させたアリババもすごい)。
ピーター・ティール(CFO > Chairman)とマックス・レフチン(CTO)
ピーター・ティールとマックス・レフチンはPalm Pilot向けのセキュリティーソフトを開発するConfinityを立ち上げます。しかし、これはあまりうまく行かず、Palm Pilot向けのウォレットを開発し、これがPayPalとなります。PayPalは最初はモバイルペイメントのサービスだったんですね。
しかし、Palm Pilotという特定のプラットフォームだけではマーケットも限られているため、Webのプラットフォームに移行しました。
イーロン・マスク(Chairman > CEO)
イーロン・マスクが最初に立ち上げたのは街のローカル情報を提供するZip2でした。Zip2はコンパックに買収されます。イーロン・マスクは2200万ドルを手に入れ、この資金を元手にX.comを立ち上げます。
X.comはピーター・ティールとマックス・レフチンのConfinityが提供するPayPalに競合するサービスで、さらに銀行として営業をする認可を受けていました。少なくともアメリカでははじめてのオンライン専業銀行でした。最初は競合だったんですね。
ConfinityとX.comのグロースハック
eBayは当時伸び盛りのコマースサイトでした。B2CコマースのAmazonと違い、eBayはC2Cコマースなのでユーザー同士による金銭のやりとりが必要でした。そこでよく使われたペイメントプラットフォームがPayPalとX.comでした。
当時のPayPalのグロースハックはマーケティング責任者だったリード・ホフマン(LinkedInの創業者)が詳しく解説してくれています。
グロースハック1:インセンティブとリファーラル
両社はeBay上で顧客獲得のために激しく競争をしました。新規顧客には10ドルを支払い、さらに他の人を紹介してくれた場合は紹介料として10ドルを支払いました。今だとCPA(新規顧客一人当たりの獲得コスト)が高すぎてなかなか取れない戦略ですが、ドットコムバブルがはじける前なのでこのようなバブリーな成長戦略が取れたんですね。
グロースハック2:埋め込みHTML
PayPalのようなサービスにとって最終的なコンバージョンはお金の支払いです。では、eBayでのお金の支払いのためにPayPalを使ってもらうにはどうしたらいいか?まずはeBayで目立つようにしないといけませんよね。そこで、出店者がConfinityやX.comのロゴをつけられるように埋め込み用のHTMLコードを用意しました。
グロースハック3:クローラーと電子メールによるハック
eBayのWebサイトで目立つだけではまだ足りません。最終的な落札の連絡は電子メールだからです。そこでConfinityはeBayのサイトをクロール(ロボットによる検索)してターゲットとなるオークションを特定し、eBayより早く落札者を特定してメールを送れるようにしました。これぞグロースハックですよね。
ビジネスモデルの創出
オンラインペイメントのスタートアップは同時期にたくさん生まれましたが、PayPalはビジネスを成功させることで新しいビジネスモデルを生み出しました。
また、あまり知られていませんが、マネーリザーブファンド(余额宝)によるアリババのビジネスモデルはPayPalが最初にはじめました。PayPalはMoney Market Fundを立ち上げ、2000年には5.56%の金利を提供していました。ちなみに、アリババの余额宝の2018年の金利は3.6%です。
しかし、PayPalのMoney Market Fundの金利は2009年には0.23%まで落ち、2011年にはサービス終了しました。リーマンショックは2008年だったので、そこでかなり損が出てしまったのでしょうか。アリババのすごいところはPayPalが失敗したこのモデルを成功させたことです。きっと、なぜPayPalが失敗したのか研究したんでしょうね。失敗を避けるのではなく、学べる組織は強い。
eBayによる買収
コマースサイトとオンラインペイメントは切ってもきれない関係です。eBayとしても他人に自分の庭を荒らされるより、自分でペイメントも仕切りたい。そこで、eBayはConfinityとX.comにとっての競合となるBillpointを買収します。そして、ConfinityやX.comの使っていたグロースハックの手法を無効にしたり、色々な対抗策を講じます。
Confinityにとっての問題は顧客は多いが、キャッシュが少ないこと。X.comにとっての問題はキャッシュは多いが、顧客が少ないこと。お互いの持ってるものと持っていないものが補完関係で、Billpointという共通の敵が生まれたことでConfinityとX.comは合併することにします。これがPayPalとなります。
お金を持っているイーロン・マスク が大株主で会長(Chairman)、ファイナンスのバックグラウンドを持つピーター・ティールがCFOとなります。ちなみに、ビル・ハリスがCEOになりますが、すぐにクビになります。
しかし、BillpointというeBayネイティブのペイメントがあるにも関わらず、PayPalのeBayでのシェアは70%まで高まります。そして、eBayはPayPalの競合サービスを独自で展開することを諦め、PayPalを1億5000万ドルで買収することにします。
PayPalマフィアたち
2002年のeBayによるPayPal買収によりPayPalで活躍していた人材が自分たちでスタートアップをはじめます。また、エンジェル投資家になったり、ベンチャーキャピタルのパートナーになる人たちもいました。創業者と投資家が同時に生まれたのです。
多くの元PayPal従業員がスタートアップで成功し、それを支援した元PayPal従業員の投資家とともに彼らはPayPalマフィアと呼ばれるようになりました。
イーロン・マスクやピーター・ティールはすでに日本でも有名ですので、それ以外の人たちを見ていきましょう。
リード・ホフマン(COO > LinkedIn創業者)
PayPalに参加する前にリード・ホフマンはSocialNet.comというマッチングサイトを創業しました。PayPal当時にホフマンの上司だったピーター・ティールによると、SocialNet.comはソーシャルメディアの先駆けとなるようなサイトだったそうです。PayPalではCOOとして外部との関係すべてに責任を持ちました。
eBayの買収後、リード・ホフマンはLinkedInを立ち上げます。そして、LinkedInは2016年にマイクロソフトに262億ドルで買収され、エグジットします。
ジェリミー・ストッペルマン(エンジニアリング担当副社長 > Yelp創業者)
イーロン・マスク の立ち上げたX.comに参加して、Confinityとの合併でPayPalにそのまま参加します。eBayの買収後はハーバード大学のビジネススクールに通いますが、PayPal当時にストッペルマンの上司だったマックス・レフチンに勧められMRL venturesに参加します。そこで再開したPayPalの元エンジニアだったラッセル・シモンズとYelpを立ち上げます。
元PayPalのCTOでYelp創業者たちの上司だったマックス・レフチンはYelpに投資しました。
チャド・ハーリー/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(エンジニア > YouTube創業者)
YouTubeの創業者たちもPayPalのエンジニアでした。YouTubeの創業の歴史はいろんな文献があるので各自でチェックお願いします。(そのうち書くかも)
ルロフ・ボサはピーター・ティールの後にPayPalのCFOになり、eBay買収後はベンチャーキャピタルのSequoia Capitalに参加します。Sequoia CapitalからのYouTubeへの投資担当はルロフ・ボサでした。
参考文献
The History Of PayPal: Important Company Dates | PYMNTS.com
The Story of PayPal – Bharath Kumar J – Medium