今回の書評はレイ・ダリオの"Principles"です。レイ・ダリオは世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創業者です。この本はいろんな意味で注目されています。一つは多くのファンドが損出を出したリーマンショックでも利益を出したブリッジウォーターの企業としての強さの秘密を知るため。もう一つはAIによる投資判断の自動化をどのように実現したのかを知るため。そしてもう一つは新しい組織論として、人生を豊かにする「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する方法を知るためです。
この本はレイ・ダリオの歩み、生活のための原理原則、仕事のための原理原則の三部構成となっています。「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する組織論としてはティール組織など自律型の組織が注目を集めていますが、レイ・ダリオの提唱する徹底的な透明性とオープンな態度による「アイデアの能力主義」という経営論もまた同じ効果があると思います。手段や形はどうあれ、実現しようとすることは同じなのですから。
幸いにして彼のTED Talkが日本語字幕付きで公開されていますので、興味のある方はまずこちらを観てもいいでしょう。論より証拠、観たほうが早いです。
このTED Talkでも紹介されていますが、レイ・ダリオは投資で失敗して全てを失います。ここから学んだ教訓がいくつかありました。ひとつは「自分は正しい」と考える前に「どうしたら正しいとわかるのか」を突き詰めるようになりました。
人間の判断を客観視するためのAI
その一つが物事の原理原則を書き留めることです。多くの出来事は繰り返し起こります。ある出来事が起き、そこから学んだことを書き留め、同じことが起きた時に対応できるようにします。これを80年代からパソコンでプログラム化してきました。今で言うところのAIによる事業判断を昔からしていたのです。これは個人でも同じです。アルゴリズムにする必要はありませんが、自分の判断を客観視するためには自分にとっての原理原則を書きとめておくのは将来役に立ちます。
AIを補完する人間の信頼性
また、原理原則のアルゴリズムを検証できる専門家も必要です。AさんとBさんでは専門分野が違います。例えばAさんはプログラマーでBさんはマーケティングだとしましょう。プログラミングに関する意見はBさんの意見の方が信頼性が高いですし、市場調査に関してはAさんの意見の方が信頼性が高いでしょう。この信頼性に基づく判断がアイデアの能力主義の根本の考え方の一つです。TED Talkで紹介されていた「Dot Collector」はそれを実現するツールの一つです。この他にもブリッジウォーターでは「Baseball Cards」など様々なツールを開発しています。
オープンとは何か?
もうひとつ必要なのはオープンさです。ブリッジウォーターではほぼ全ての会議を録画して全社員に公開しています。しかし「オープン」というのは情報のオープンという意味だけではありません。人間は理性と本能があります。理性では他人からのフィードバックが必要だと知っていても、本能的に他人の意見を批判と受け止めてしまいます。その結果、冷静な判断を阻害します。「オープン」というのは人間の態度も含まれます。他人の意見に対するオープンさです。TED Talkで紹介された新人から当時のCEOであったレイ・ダリオに対するメールはまさにそれを表しています。
これまでいくつかのスタートアップの誕生と成長の記事をアップしてきました。その創業者の多くに共通するのは「謙虚さ」です。ボク自身も何人か個人的に成功したスタートアップ創業者の友達がいますが、彼らは全て謙虚で人の意見に耳を傾けます。成功した後ででもです。Gmailを開発したポール・ブックハイトも言っていますが「信念を持つのは頑迷なこととは違う」のです。
これらを仕組みとして全ての社員が実行できるようにしたのがブリッジウォーターの経営方法なんですね。
ちなみに、ブリッジウォーターの考える今後の経済はこんな感じなのですが、どうなんでしょうね!
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