大企業病で判断が遅い。組織の壁がある。イノベーションを起こせない。残業が減らない。過労死問題。これらは日頃のニュースや新聞の社説で繰り返し見かけるフレーズです。電通社員の過労自殺は未だに日本国民全員への問いを発しています。
「で、どうするの?」
当然ながら手をこまねいているわけではなく、様々な解決策が提示され、実行されています。ITの活用や副業の自由化。その効果があったかどうかは別として「プレミアムフライデー」もそんな試みの一つと言えます。
これは日本だけの問題ではなく、世界であらゆる研究がされています。 そして、その解決策としてある種のコンセンサスが形成されつつあるような気がします。そして、それは以下の二つに集約されています。
- アメとムチによる外から与えられる「やる気」より、自分の内側から生まれる「やる気」の方が大事(参考:ダニエル・ピンク「やる気に関する驚きの科学」, TED, 2009)
- 現在の企業や組織は大量生産と効率化を重視した産業革命後のパラダイムを抱えいて、個々の顧客に対応するサービス化した現代のビジネスに対応できない
産業革命から変わっていない組織
この問題に組織の面から解決策として提示されているのが「自律的組織」です。組織の一員が自律的に状況に合わせて動くことを前提とした組織ですね。代表的なのがホラクラシーです。ZapposやBufferといったスタートアップ企業が実践していることで有名です。このほかにもBooking.comが進めているアジャイルチームやDave Grayが提唱しているConnected Companyなどがあります。大企業でも人事評価をやめて、チェックインを導入したりしているのはこの流れの一つです。Googleも以前にマネージャーのいない組織を試してみました。
産業革命の後に情報革命が起きたと言われています。しかし、組織自体は情報革命では変わらなかった。ピラミッド型がマトリックス型になったり、パソコンやスマホで仕事をするようになっても基本的な組織は変わっていない。情報化社会の後の組織をいろんな企業や組織が模索しているのが現在です。
ポスト情報化時代の組織(ティール組織)
このような様々な取り組みを歴史的に整理して、分類したのがFrederic Laloux氏の"Reinventing Organization"です。組織は原始的なレッドからはじまって、徐々に洗練化されてきた。産業革命でオレンジの組織が誕生。今のほとんどの組織はまだオレンジの段階。日本企業はひょっとしたらまだアンバーな企業が多いのかもしれない。この色分けやそれぞれの特徴は山田裕嗣さんの「Teal Organization(ティール・オーガニゼーション)とは何なのか」に詳しいので、こちらを読んでみてください。
- ティール(青緑)
- グリーン
- オレンジ
- アンバー(琥珀)
- レッド
ティール組織は難しい問題にも応えられる
ティール組織の特徴は自律型の組織。マネージャーはいない。本社機能は限定的で非常に少人数。いわゆる人事部門は存在しない。当然ながら今までの組織の管理に慣れている人は戸惑う。え?みんなが自由気ままにやるの?ダメな社員はどうするの?事故や事件が起きた時のリスク管理は?
ホラクラシーの本『HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント』もそうなのですが、このような問題の一部には応えている。例えば、社員が勝手気ままに仕事をするわけではない。でも、意外と大事な問題には答えていない。それはお金の問題であり、解雇の問題。この"Reinventing Organization"の優れたところは、この非常に難しい「お金」と「解雇」の問題にきちんと答えているところ。
以前にインタビューさせていただいたダイヤモンドメディア株式会社さんはここで書かれていることをほぼ実践されている。このインタビューではあえて「ホラクラシー」という単語を使うのを避けたのですが、それはダイヤモンドメディアがホラクラシーよりもっと先を実践していると思ったからです。
ITやリモートワークは問題を解決するか?
ITの活用やリモートワークは「働き方改革」でよく出るトピックです。実際にこの本に出てくるビュートゾルフでは社内ポータルやタブレットを使って情報共有をしていますし、それが自律的組織運営を下支えしていることも確かでしょう。では、ITやリモートワークを活用すればティールなのかといえばそんなことはありません。ITは手段であって目的ではないからです。
この本を読んでいて強く感じたのは「根本的な文化を変えなければ働き方改革はなし得ない」ということです。スマホやタブレットをいくら活用しても企業文化が変わらなければ、結局のところ何も変わらない。オレンジからティールには移行できない。
この本はオススメか?
出版されて少し時間が経ちますが、その内容は全く色褪せていません。海外ではすでに組織論のクラシックとしての地位を確立しています。時系列で組織の進化を整理していったことも非常に意義があります。
読み手が経営者ならば自分の会社がどこに位置するのかを理解できるでしょう。そして、そのままでいるべきか、それともティールになるべきかを考える機会を与えてくれるでしょう。管理職であれば自分は本当にチームのやる気を引き出しているのか?それは正しい方法なのかを考えるきっかけを与えてくれるでしょう。それ以外の人たちもこれからの社会においてどのような組織が必要なのかを考えるきっかけとなるでしょう。
日本語版の版権はすでにどこかの出版社がおさえているようですので、きっと日本語版が近い将来に出るはずです。その時は是非とも手にとって読んでほしい本の一つです。
- 作者: Frederic Laloux,Ken Wilber
- 出版社/メーカー: Lightning Source Inc
- 発売日: 2009/10/27
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