カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|虚構と現実、過去と現在が交差する音楽映画|ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説

f:id:kazuya_nakamura:20190722202440p:plain

(若干ネタバレがありますのでご注意を)

ボクは遅れてきた世代なのでボブ・ディランの全盛期をリアルタイムで体験していません。それでも主なアルバムは持っていたし、ブートレグシリーズも何枚か持っていました。遅れてきた世代だからこそ、ボブ・ディランがクールだと思いました。ジョナサン・リッチマンやレオン・レッドボーンがクールなのと同じ意味で。それくらいの距離感です。

『ローリング・サンダー・レビュー』はボブ・ディランと仲間たちが1975年から1976年にかけて行ったコンサートキャラバンです。ジョーン・バエズやジャック・エリオットといった盟友だけでなく、アレン・ギズバーグなども加わりました。パティ・スミスやジョニ・ミッチェルもゲスト参加したり。

そのローリング・サンダー・レビューの映像記録を映画監督マーティン・スコセッシがまとめた作品がネットフリックスで公開中の『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』です。これが単にコンサートの記録をまとめた作品だったら、ボクはわざわざ映画評を書きません。虚構と現実、過去と現在が交差する不思議な映画なのです。

虚構と現実

この映画にはいろんな人たちが登場します。既に亡くなった人たちも登場します。詩人アレン・ギンズバーグが実はダンスの達人だったとかビックリです。まだ生きている人たちも出てきます。そして、実在しない人たちも登場します。その一人がこの映像を記録したステファン・ファン・ドロップです。え?どういうこと?この役を演じているのはベット・ミドラーの旦那さんのマーティン・フォン・ハセルバーグです。ステファン・ファン・ドロップなる人物は存在しません。ファン・ドロップ氏が出てくると頭がクラクラしてきます。この人が言ってるのは本当なのか?嘘なのか?

また、パラマウント映画のトップであるジム・ジアノプロスがローリング・サンダー・レビューの仕掛け人として登場します。ジム・ジアノプロスは実在する人物ですが、音楽ビジネスに関わったことはありませんし、ボブ・ディランと繋がりもありません。当然ながらローリング・サンダー・レビューの仕掛け人ではありません。いったいこの人は何を言ってるんだ?と観ていて当惑してきます。

他にもいくつかあるのですが、ご自身で探してみてください。音楽と関係ない人たちが出てきたら要注意です!特に、映画関係者。音楽関係の人たちは(多分)本物です。パティ・スミスは素晴らしい!

クイーンを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディー』もリアリズムと作り話のバランスをとった虚構と現実の世界ですよね。それはフィクションだからできた技です。しかし、『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』はノンフィクション……なんですよね。やっぱり、ボブ・ディランは最高にクールだ。

2019年6月、7月に観た映画/ドラマのひとこと評(あいうえお順)