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書評|人工知能はパロディではなくオリジナルを作れるか?|"The Creativity Code" by Marcus du Sautoy

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前回紹介した"Possible Minds"では「人工知能は人間の知能を超えるのか?(技術的にはAGIまたは強いAI)」を様々な観点から考察していました。インテリジェンス(知能)とはどういうことなのか?具体的にどのような状態になればシンギュラリティに到達したと言えるのか(紛らわしいですが厳密に言えばAGIができてもシンギュラリティに到達したとは言えません)?

人工知能が人間と同じレベルに到達した時、人工知能は人間と同様に独立した意識を持ちます。それが人工意識です。独立した意識とは開発した開発者の意識と分離されているという意味です。人工知能が独立した人工意識を持つ時、それは善なのか悪なのか。映画『ターミネーター』みたいな人工知能スカイネットが支配する世界になってしまうのか。映画『her/世界でひとつの彼女』や『ブレードランナー』のレプリカントのように人工知能と恋をすることができるのか?そう言えば、『ブレードランナー』でロイ・バティーを演じた俳優ルトガー・ハウアー がお亡くなりになりましたが、歴史に残る名セリフ「雨の中の涙」のような状況が起きるのでしょうか。っていうか、コンピューターはルトガー・ハウアーのような映画史に残るアドリブができるようになるのか?

そう、もう一つの興味の方向性が「機械は創造できるのか?」です。パロディやパスティーシュではなく、オリジナルを作れるか?「コナン・ドイルを超えるホームズ作品を書けるか?」ではなく、「コナン・ドイルのホームズ作品に比肩するオリジナルのクラシックを生み出せるのか?」です。「ネクスト・レンブラント」ではなく、レンブラント自身になれるか?です。この主題にどっぷりと取り組んだのが数学者マーカス・デュ・ソートイの"The Creativity Code"です。前置きが長くなりました。 

The Creativity Code: How Ai is Learning to Write, Paint and Think

The Creativity Code: How Ai is Learning to Write, Paint and Think

AGI(強いAI)はチューリング・テストをパスしなければいけません。しかし、マーカス・デュ・ソートイは人工知能がオリジナルを創造するかチューリング・テストではわからないと言います。そこでデュ・ソートイが提唱するのがラブレス・テストです。ラブレス・テストはエイダ・ラブレスから名付けられました。ラブレス・テストで人工知能は全くオリジナルで価値のあるものを創造しなければいけません。そして、その人工知能を開発した開発者にとっても、その創造性はブラックボックスでなければいけません。 

人工知能と創造性のテーマでの先駆者は認知科学者のマーガレット・ボーデンです。デュ・ソートイもボーデンの定義を踏襲しています。それは以下の三種類です。

  • 探索型(exploratory creativity)
  • 複合型(combinational creativity)
  • 変容型(transformational creativity)

この中で探索型と複合型はコンピューターが得意とする分野です。"The Creativity Code"で扱うテーマはコンピューターが苦手とする変容型の創造性です。立花ハジメの「信用ベータ」のようにオリジナル(立花ハジメのスタイル)を模したアルゴリズムは昔からあったわけですが、人間が介在せずにコンピューターだけで自律的にアートが作れるかという話。

The Creative Mind: Myths and Mechanisms

The Creative Mind: Myths and Mechanisms

そもそも、アートとはなんでしょうか?マルセル・デュシャンの『』、ジョン・ケージの『4分33秒』が人工知能からアートとして提示された時、私たちは「アート」だと認識できるのでしょうか。ボクはまったく自信が無いです。『銀河ヒッチハイク・ガイド』で世界で二番目に賢いコンピューターのディープ・ソートは「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」は「42」とはじき出しました。42?え?なにそれ?つまり、アートとは受け手の問題でもあるのです。人工知能のアートはフェイクニュースのようなフェイクアートなのか。人間とは独立した意識が生み出した真にユニークなアートなのか。

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

アートとは自分以外の意識に対するの問いかけでもあります。一種のコミュニケーションですね。それは自発的な表現の欲求です。開発者がアートを作るようにプログラムしたものであれば、それは開発者が生み出したアートであり、人工知能が生み出したアートとは言えないですよね。

この本はどんな人にオススメか

アートに興味がある人にはオススメです。パウル・クレーの『教育スケッチブック』と敵対的生成ネットワーク(GAN)の比較はとても刺激的です。創造と観察のぶつかり合い。

教育スケッチブック (新装版 バウハウス叢書)

教育スケッチブック (新装版 バウハウス叢書)

  • 作者: パウル・クレー,利光功
  • 出版社/メーカー: 中央公論美術出版
  • 発売日: 2019/08/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ヴィルヘルム・ヴントのヴント曲線(不快と快感の境界線を表す曲線)やゲシュタルト心理学。さらに敵対的生成ネットワーク(GAN)を超える敵対的創造ネットワーク(CAN)など人工知能とアートに関する最前線が紹介されています。

個人的にはなんですが、まずは人間が人工知能を使いこなして新しいアートの地平を広げるのが次のステップなんだと思います。チェスがそうなっていますよね。人工知能がどれだけ面白いものを作ったとしても、それは人工知能を作った人間の産物なんですよ。現在の人工知能は人工意識を持っていないですから。真の意味で人工知能がアートを自分の意思で生み出すのは、シンギュラリティーを迎えて、人工意識を持つ人工知能が生まれてからになるでしょうね。

そして、それはブライアン・イーノのシーニアス(個人ではなく集合的な天才。シーンから生まれるジーニアスという意味)のようなモノになるんでしょうね。