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書評|知的好奇心を刺激する触媒としての人工知能|"Possible Minds" by John Brockman

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宇宙旅行に空飛ぶ自動車。昔から未来予想は夢がありますが、実現するかどうかはわかりません。ある種の思考実験ですよね。人口知能がどこまで人間に近づくのか、人間を超える存在になるのか。人工知能に関する議論も同じです。昔の少年雑誌の未来予想と現在の人口知能に関する議論は、「こうなったらいいな」な夢の話か、「科学的に考えるとこうなるはずだ」な論理なのか手法の違いですね。

当然ながら人工知能に関する未来予想はたくさん出版されているのですが、今回紹介するのはエッジ財団(Edge Foundation)の創設者であるジョン・ブロックマンがまとめた"Possible Minds"です。

POSSIBLE MINDS

POSSIBLE MINDS

エッジ財団は1981年からはじまったニューヨークのリアリティー・クラブ(The Reality Club)と言う知識人が集まるサロン(日本のインフルエンサーが集金マシンとして運営している「オンラインサロン」とは全く性質が違います)からはじまっています。この集まりにはダニエル・カーネマンやスティーブン・ピンカーだけでなく、アイザック・アシモフなども参加していたようです。

ジョン・ブロックマンのイントロダクションでは前衛音楽家のジョン・ケージなどのプロジェクトの振り返りなどもあり著者の幅広さを予感させます。実際にジューディア・パールのようなAI畑の人たちだけでなく、セス・ロイドやデイヴィッド・ドイッチュのような量子コンピューターの人たちやスティーブン・ピンカーのような心理学者、ダニエル・デネットのような哲学者まで寄稿しています。面子はマーティン・フォードが編集した"Architects of Intelligence"と被る人たちも多いのですが、こちらは業界人が集まったので幅の広さはないですね。

Architects of Intelligence: The truth about AI from the people building it (English Edition)

Architects of Intelligence: The truth about AI from the people building it (English Edition)

 

内容的にはとても刺激的です。実はスチーム・パンク小説が好きで、アナリティカル・エンジンとか大好物です。サイバネティックから振り返っているので、ノーバート・ウィーナーだけでなく、アラン・チューリングフォン・ノイマンなんてどの記事でもよく出てきます。科学歴史家ジョージ・ダイソンのアナログコンピューターとしての人工知能とかすごく納得してしまいました。

ノーベル賞を受賞した物理学者のフランク・ウィルチェックも物理学の観点から人間は意識を人工的に作れると主張します。そもそも人間の意識はモノから生まれる。人間はモノを作れる。故に、人間は意識を作れる。現時点で人間の知能は人工知能を上回るが、それは一時的なリードであって、潜在的に人工知能は人間の知能を上回ると言います。

この本はどんな人にオススメか

知的刺激を求めている人にはオススメです。人工知能をテーマとしていますが、それを様々な方向で知的に切り込んでいく様は本当に刺激的です。日本の「知識人」の方々は感覚で話をするのでポエム的な未来予想が得意なのですが、ここで集まっている知識人は科学的なアプローチなので、その知識と論理が強力です。当たるも八卦、当たらぬも八卦は変わらないのですが、実現には明確な意思と方向性、さらに科学的なアプローチが必要です。実現は100年後なのかもしれませんが。

無神論者でモノから生まれる意識の支持者で量子コンピューターのパイオニアであるデイヴィッド・ドイッチュが世代を超えた情報伝達であるミームやトランスミッション・フィデリティーに言及するのは、人工であろうが天然であろうが、それが知識や文明そのものだからなんですよね。そして、それこそがアナログコンピューターであると。